超常現象研究部④
順子に案内され、建物に入った千晶達は幼稚園の教員に挨拶を済ませ、早速園児達のいる部屋に案内された。
「今日はこのお兄さん達とお姉さんが遊びに来てくれました。皆しっかり挨拶をしましょう」
――――ハーーーーイ!――――――
園児達の元気に押された千晶達だったがすぐさま気を取り直し、園児達と交流を深めていく。
しかし、園児達の元気の凄さに千晶達は最初困惑されっぱなしだった。
「ねぇねぇ何してるの?お姉ちゃんも混ぜて」
そんな中、優里香は数人の園児達の輪に入って遊び始めた。直輝は何回か来ていて慣れているのか、園児達を集めて紙芝居をしている。
「よーし。今度はあの怖いお兄ちゃんが鬼だ。皆んな隠れろ――――!」
「おい!誰が怖いって、誰が!」
「「わーーーーーー!」」
そして、金山と中山も徐々に園児達と打ち解けたようでかくれんぼをしているようだ。
「………………………………」
そんな中、千晶だけが一人園児達と馴染めずにいた。と言うのも、千晶は人と関わるのを避けていた影響もあり、中々自分から園児達に話しかけれずにいた。
「おい、どうした天風?ぼーっと突っ立ているならボランティアに来た意味ないぞ」
すると、幼稚園の職員と話していた順子が見兼ねて声をかけてきた。
「……別に俺がやらなくても、白石達が立派に務めを果たしているんだから良いじゃないですか」
順子の言葉に千晶は不貞腐れたように答える。そんな千晶の態度に順子はため息を吐く。
「…………こういう場所は苦手か?」
すると順子は呟くように言う。その言葉に千晶は少し落ち着きを取り戻す。
「いえ、そういう訳では無いんですが………死んだ妹を思い出しそうになるので」
千晶の言葉に順子はただ頷くのみだった。順子は千晶の家庭の事情は知っていてそれ以上その事について特に何も言わなかった。
「そうか……すまんな。少しでもお前の気分転換になればと思ったのだがな」
「気分転換……ですか?」
順子の唐突な物言いに千晶は疑問を口にする。
「…………昨日お前の悩みを聞いた時、お前が少し思い詰めているような気がしてな」
「俺が………ですか?」
そんな事はないと言おうとしたが、昨日の事を思い返して千晶は少し考え込む。
「私の質問に対してお前は真剣に自分がやらなきゃいけないと答えた。それ自体はいい事なんだが、私からしたらちょっと入れ込み過ぎているように見えたんだ」
「そんな事」
「…………ちょっと昔話をしよう。私の友人の話だ」
順子は千晶の言葉を遮るように言う。そして長くなりそうだからと、近くの園児達が使っていない遊具の側まで千晶を連れてきてそこに座るように促す。千晶は順子の言葉に従い、遊具に座るとその隣に順子も座り、話し始める。
「私とその友人は同じ職場に勤めていた。友人は仕事熱心で辛い仕事も率先してこなし、誰とも分け隔てなく接していた」
「…………俺とは正反対ですね」
順子の言葉に千晶は素直な感想を述べる。それを気にする事なく順子は話を続ける。
「しかしな……ある日とんでもない事故が起こって友人は大怪我をしてしまった。幸い命に別状はなかったが、友人はもう以前のようにその職場では働けなくなってしまったんだ」
「……………………」
順子の話に千晶は押し黙ってしまう。
「友人は仕事が生き甲斐のような所があった。それが出来なくなってしまって、友人は暫くの間無意味に日々を過ごしていたんだ」
「その人の職場の人達は元気付けたりしなかったたんですか?」
千晶の言葉に順子は首を横に振る。
「最初の内は元気付けに来ていたさ。しかし、各々の仕事が忙しくなると段々と皆来なくなった」
「…………そんなの!」
「酷いと思うか?でも仕方ないのさ。誰だって自分が大事だ。けどな、そんな友人の元に私達の仕事の上司が訪ねて来たんだ」
順子は一泊置いて話を続ける。
「上司は友人の身体を心配した後、こう言ったんだ。お前は仕事熱心だが自分一人で何でもやろうとする。もう少し周りを頼っても良かったんじゃないのか?って」
「………………」
「実際、友人は何事もそつなくこなす事が出来た。しかし周りを頼る事が苦手で、この時の事故も実際は彼女の注意力が疎かになっていたのが原因だったんだ」
「…………その友人は、その後どうなったんですか?」
千晶は恐る恐る問いかける。
「彼女はその上司の下でその上司の手伝いで今も別の仕事をしているよ。時々連絡を取り合っている」
「そうですか…………」
千晶はほっとしたような呟く。すると順子は、真っ直ぐに千晶を見つめる。
「天風。私が何を言いたいかと言うと、今のお前がその友人みたいに感じたからだ」
「俺が……ですか?」
千晶の言葉に順子は無言で頷く。
「私は昨日。お前に一度決めた事は最後までやり遂げろと言ったが、今のお前は一人で全部抱え込もうとしている。正直見ていられなくてな」
「でも、昨日も言いましたがこれは俺がやらないと……」
千晶の反論を順子は目で制する。
「ああ。お前の言いたい事も分かる。普通なら一人で抱え込まず誰かを頼れって言いたいんだが、おそらく、お前がやろうとしている事は誰かに頼る事は出来ないのだろう?」
順子の言葉に千晶は無言で頷く。
「なら、こういう時くらいその事を忘れて楽しんだほうがいい。人間っていうのは一つの事に集中し過ぎると心に余裕が無くなる。そしてその状態が続くとやがておかしくなってしまうんだ。そしてそうなると、いざと言う時に取り返しのつかない事態を招く事になる。………私の友人のようにな」
「先生…………」
そう言うと順子は優しく千晶に笑いかける。
「まぁ、今日の事がお前の為にならないなら、今度白石達を誘って何処かに遊びに行くといい」
「どう言う事ですか?」
千晶がそう言うと、順子は立ち上がり千晶に背を向ける。
「天風。一年前から担任としてお前を見てきたが、お前は何事も一人で何とかしようとする所がある。おそらく、さっき言っていた妹さんの死が関係しているのかも知れない。しかし、今のお前にはこうしてボランティアに付き合ってくれる親友がいる。そいつらと共に楽しい事をしたりして気分転換をするのも今のお前には必要な事だと私は思う」
そう言って順子はその場から立ち去ろうとする。
「………もしかして、今回俺に助っ人を頼んだのって俺の事を心配してですか?」
千晶は去って行こうとする順子の背中に声をかける。
「ん。まあ、それもあるが…………実際今の研究部に部員がいなかったからな。一応顧問としての務めも果たさないとな」
そう言って、今度こそ千晶の前から立ち去ろうとする。
「…………先生。ありがとう………」
「だから!嘘じゃないって言ってるだろう!」
千晶が順子にお礼を言おうとすると、何処からか子供の怒鳴る声が聞こえてきた。
「何なんだ?一体」
「とりあえず、様子を見に行くぞ天風」
千晶が困惑していると、順子は千晶の手を取って声のした方へ駆け出していく。
そして、声のした辺りには数人の子供が一人の少年を囲んでいた。どうやら怒鳴り声をあげたのは囲まれている少年のようで、その子は他の子供達を物凄い勢いで睨みつけている。
「そんな事言ったて俺達見た事ないし」
「お前が女の子が見るようなアニメばっか見てるからだろ。適当な事言うなよ」
囲んでいる子たちは、男の子を馬鹿にするように見つめる。その態度に男の子の怒りはヒートアップする。
「適当な事なんて言ってない!僕は……」
「ハイハイ。ストップ!」
更に癇癪を起こしそうになる男の子を見兼ねた順子は慌てて間に入る。
子供達は突然入って来た順子に戸惑いを覚える。
「君たち、一先ず落ち着け。何があったかは知らんがまずは事情を話してくれ」
順子は落ち着いて子供達から話を聞こうとする。
「…………何かどうでもいいや」
「あぁ、こんな奴ほっといてあっちで遊ぼうぜ」
すると、興味を無くしたのか子供達はそそくさとその場を立ち去ってしまう。
「お、おい!……すまん天風。その子はお前に任す」
「えっ……せ、先生!」
千晶が慌てて声をかけるも、順子は去っていった子供達を追いかけていってしまう。
「…………………………」
残された千晶と少年はお互い何も喋らず黙ってしまった。
(任すって言われても、どうすっかな〜。取り敢えず、何で怒ってたのかを聞いてみるか)
「なぁ、一体何が…………」
「お兄さん。フラワーナイト・リリィって見た事ある?」
男の子が唐突に口にした言葉に千晶は一瞬どう答えようか迷ってしまう。
「いや。実際に見た事はないが、噂では聞いた事はあるかな」
「そう……」
千晶の言葉に少年は落胆の声を上げる。その態度に今度は千晶の方から声をかける。
「その………フラワーナイト・リリィがどうかしたのか?」
千晶の言葉に少年は少し考えた後、口を開く。
「実は………去年にウチのお姉ちゃんがフラワーナイト・リリィを見た事があるんだ。僕はお姉ちゃんと凄く仲が良くて、僕も一度会って見たくて色んな人に聞いているんだけど………誰も見た事ないって言うし」
そう言って少年は俯いてしまう。
「…………お姉ちゃんの事、好きなんだな」
千晶はそんな少年に優しく声をかける。
「うん、大好きだよ。けど、お姉ちゃんと一緒に女の子が見るようなアニメばかり見てるせいか、適当なことばっかり言っている嘘つきて、さっき言われたんだ」
そう言って少年はとうとう泣き出してしまう。その態度に千晶はますます困惑してしまう。
(おいマジかよ。泣き出しちまったし…………)
千晶がどうしたもんか考えていると、自身のポケットに入っているある物に気づく。
(周りには…………誰もいない、こうなったら!)
千晶は周りを見渡し誰もいない事を確認すると、泣いている少年に向き直る。
「ねえ、君のお名前は?」
「えっ…………チヒロ」
千晶の問いかけに、少年…………チヒロは泣くのをやめ、千晶の方を向く。
「えっと、チヒロくん。お兄ちゃん用事を思い出したから行ってくるな。直ぐ戻るから」
「えっ、お兄ちゃん?」
そう言うと千晶は素早くその場を去ってしまった。
「………………………………」
(あのお兄さん。一体何をしに行ったんだろう?直ぐ戻るって言ったけど、待ってた方がいいのかな?)
「こんにちわ」
チヒロが途方に暮れていると、彼の背後から突然見知らぬ女の人の声が聞こえた。チヒロは慌てて声がした方に振り返る。
「えっ………嘘!?」
そこには騎士風の格好をした女の子が立っていた。
女の子は手足に純白のロンググローブとブーツ。髪は銀髪で腰まで届くロングヘアー、身体を包むのはノースリーブのワンピース、背中にかけて垂れ下がる純白のマント、額に花を模した金のティアラ、左腰に一振りのサーベルを履いた状態でチヒロを見つめていた。
「初めまして、私は花の騎士。フラワーナイト・リリィ」
そう言ってリリィはチヒロに近づき、膝を曲げて目線を合わせる。
「えっと……は、初めてまして!」
緊張の為か、チヒロの声は上擦っていた。
そんな様子をリリィは微笑ましく見つめる。
「フフッ。そんな緊張しなくても大丈夫だよ。さっき君たちの会話が偶然聞こえてきて、それで思わず出てきちゃった」
そう言ってリリィは茶目っ気たっぷりにウインクする。その仕草にチヒロは、若干顔を赤らめる。
「はっ……えっと……あの!」
「君……チヒロくんだっけ。聞いちゃったついでに私から一つアドバイス」
そう言うと、リリィは真剣な顔でチヒロを見つめる。
「別に男の子が女の子向けのアニメを見るのは恥ずかしい事じゃない。君はお姉ちゃんが大好きで一緒にいたいと思ってるんでしょ」
リリィの言葉にチヒロは黙って頷く。
「だったら堂々胸を張ればいいと思う。チヒロくんが今後誰に何と言われようと、私はチヒロくんの味方だから」
そう言ってリリィは自らの小指を顔の前に持って来る。
「ねっ!指切りしよう。私と君だけの約束」
「約束?」
リリィの言葉にチヒロは怖ず怖ずと言った感じで自らの小指を持ち上げリリィの小指に絡ます。
「うん!私は何処にいても君の味方。だから今日会った事は誰にも内緒ね」
「誰にも内緒って……お姉ちゃんにも言っちゃダメなの?」
チヒロの言葉にリリィは少し考え込む。
「うーん。お姉ちゃんは私に会った事あるって言うし………分かった。お姉ちゃんには言ってもいいけど他の人には内緒ね!」
そう言って指切りを交わすリリィとチヒロ。
すると、こちらに近づく足音が二人の耳に聞こえて来た。
「誰か来るみたい………私行かなくちゃ。じゃあねチヒロくん」
そう言って指を離し、リリィはその場を後にしようとする。
「あっ!ま、待って!」
そんなリリィをチヒロは思わず引き止める。
リリィはすっと振り返る。
「ま、また会えますか?」
チヒロはたどたどしくもリリィに問いかける。
その様子にリリィは思わず笑みが溢れる。
「分からない。けど………信じていればもしかしたら、また会えるかもね」
そう言ってリリィは今度こそその場を立ち去る。
「…………………………」
チヒロはリリィが去っていった方を見つめていたかと思うと、不意に自分の小指を見つめる。
「信じていればまた会える」
(リリィ………僕、頑張るよ!)
チヒロが一人決意を固めていると、順子が先程の子供達を引き連れてやってきた。
「あぁ、ここにいたか。ほらお前達!この子にちゃんと謝るんだ!」
そう言って順子は子供達に謝罪するように言う。
「さっきは悪かった」
「ごめんなさい」
子供達はここにくる前に順子に怒られた為か、言われた通りに頭を下げる。
「大丈夫、もう怒ってないよ。それより…………僕も仲間に加わって良いかな?」
そんな彼らにチヒロはそんな提案をする。すると子供達は顔上げ、チヒロに笑顔を向ける。
「ッああ!勿論!」
「と言うか、サッカーやろうぜ!あっちの兄ちゃん達も入れてさ!」
そう言って子供達はチヒロを連れてその場を後にしようとする。すると、順子はある事に気づく。
「……?そういえば、ここにいたもう一人の男の子はどうした?」
順子はこの場に千晶が居ない事に気づき、チヒロに声をかける。
「ん〜と。お兄さんは用事があるって言ってそのまま戻ってきてないよ」
そう言ってチヒロはそのまま子供達と共に金山達のいる方へ向かっていく。
しかし、途中で立ち止まり何かを考え込んでしまう。
(でも、何でだろう?フラワーナイト・リリィが一瞬あのお兄さんに見えたような気が……)
「おい!ぼーっとしてっと置いてくぞ!」
「あっ。待ってよ!」
子供達の声にチヒロは思考を中断し、後を追いかけるのだった。
「ふぅ。上手く行ったのかな?」
そんな、チヒロの様子をリリィは近くの木の枝の上から見守っていた。そしてチヒロが子供達と一緒にかけていくのを見送ると、リリィは枝から降りて変身を解く。
「………………………………」
(これであの子が少しでも友達と仲良く出来れば良いけど………………)
――――――ドサッ!――――――――
「えっ……女の人が急に男の子に…………!?」
「………ッ!?」
千晶が声のした方を向くと口に手を当てて驚愕の表情を浮かべる女性が自分を見ている事に気付いた。
(ま、まさか……俺の正体が…………バレた!?)
思わぬ緊急事態に千晶の脳内は混乱を極めるのだった。




