超常現象研究部 ①
「そうだったんだ……ごめん千晶。私がちゃんと裏取らないで情報教えちゃったから……」
翌日の昼休み。学校の屋上に来た天風千晶と白石優里香は、昨日の廃工場での出来事を話し合っていた。
千晶は、昨日魔物と戦っていた花の騎士フラワーナイト・リリィであり、優里香は千晶がリリィである事を知っている唯一の人物なのである。
「いや、白石は俺の為に情報を集めてくれてるんだ。今回はたまたま運が悪かったってだけだ」
申し訳なくしている優里香に対して気にしなくて良いという千晶。そんな幼馴染の気遣いを察した優里香は千晶に笑顔を向ける。
「……ありがとう。千晶」
照れ臭いのか、千晶は優里香から顔を背ける。
「……とりあえず、これからどうするか……」
空を見ながら千晶は今後について考える。優里香もうーんと言いながら考えるが、中々考えが浮かばないのか唸るだけだった。
「私が言うのも何だけど……今のやり方で地道にやってくしかないと思うよ。ただ今後は情報の裏を取ったりするから遅くなっちゃたりするけど」
「………………そうだな」
優里香の答えに千晶は気のない返事をする。
「千晶。大丈夫?」
そんな千晶を優里香は心配そうに声をかける。
「ああ大丈夫。昨日、新たに現れた敵について考えてたんだ」
千晶は空に向けてた視線を真っ直ぐに戻す。
「魔将軍ガラムだっけ?」
優里香の言葉に千晶は頷く。
「ああ。その臣下のガガって奴と昨日戦ったんだけど、強いだけじゃない。なんて言うか……」
上手く言葉に出来ないのか千晶はまた考え込んでしまう。
………………リリィよ。お主の信念にどうこう言うつもりは無いが、そのような奴らを守る価値があるとは我は思えんが…………
「…………なあ、優里香。俺のやっている事って…………」
――――キーン――コーン―――カーン――コーン――
千晶が思い切って切り出そうとすると、またも運悪く昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「あ、お昼休み終わっちゃった。教室戻ろう、千晶」
今回はチャイムの音で聞いていなかったのか、優里香は千晶にそう声をかける。
「…………ああ、そうだな」
そして、千晶も特に何か言う訳でもなく片付けをして屋上を後にするのだった。
「……………………」
トイレに行くと言って優里香と分かれた千晶は、一人で悶々と考え事をしていた。
(優里香はああ言っていたけど、本当にこのままでいいのか?こうしている間にもブラックリリィ達は鍵の探索をしているのに)
一人答えの出ない問答を心の中で繰り返す千晶。すると、前をちゃんと見ていなかった為か向こうから歩いて来ていた人とぶつかってしまった。
――――ドン!――――――
「痛ってて……すいません。大丈夫ですか?」
千晶はぶつかってしまった人の状態を確認しようとする。すると、その人は千晶の見覚えのある人だった。
千晶達の担任の先生で、名前を杉山順子と言う。一見すると美人な先生なのだが、すぼらなのか身だしなみに無頓着なのかかなり残念な容姿をしていた。
腰まで伸びる髪は、手入れされていないのかあちこちに枝毛が生えていたり、元々視力が悪いのかダボったい丸眼鏡をかけていた。
「ああ大丈夫だ。てか天風、もうすぐ授業が始まるぞ」
そして、容姿とは裏腹のハスキーな声で、無事を伝えた順子は時計を見て千晶に注意を促す。
「えっと、トイレ行ってたのでこれから教室に戻ります」
問題ない事を確認した千晶は立ち上がり、そう言って横を通り過ぎようとする。すると唐突に順子に腕を掴まれる。
「……なあ天風。お前何か悩みでもあるのか?」
「えっ?どうしてですか?」
唐突な順子の問いに千晶は困惑の表情を浮かべる。
「私は去年からお前の担任をしているが、お前は前を見ずに歩くような奴じゃない。何か考え事をしてるんじゃないかと思ってな」
順子はそう言って真っ直ぐに千晶の顔を見つめる。その順子の言葉に千晶は素直に感心していた。
この先生は自身の身だしなみに関してはあれだが、人の心の機微には敏感な所があるのだ。
「まぁ……ちょっと悩んでいますが……」
「よし!なら私に話してみろ!と言うか今から空き教室に行くぞ!そこで話を聞いてやる」
そう言ってそのまま千晶の腕を引っ張り、ずんずんと廊下を進んでいく順子。
「えっ!ちょっと先生!俺今から授業が」
「一時限ぐらいサボっても問題なかろう!それに、生徒の悩みを聞くのが私の教師として仕事だ」
と、自身の謎の教師理論を言いながら千晶はそのまま引きずられて行くのだった。
近くの空き教室のドアを開けると、順子は教室の中に千晶を入れると鍵を閉める。
そして近くの机と椅子を千晶と協力して二つ並べると、早速その内の一つに腰掛け千晶に座るように促す。致し方なく千晶は空いているもう一つの椅子に腰掛ける。
「で、一体どうしたんだ?先生に思いっきって話してみろ」
千晶が座ったのを確認すると、早速順子は切り出す。
「…………えっと、そんな大した事じゃないんですが」
「悩みに小したも大したもない!とにかく話せ!」
完全に悩みを聞くと言うよりは脅しのような口調だが、目は真剣そのものだった。
(と言っても、本当の事を話すわけにはいかないし。どうすっかな……)
いざ話そうとするがどう話したらいいか分からない千晶。それでも考えをまとめて口を開く。
「えっと……探し物をしていて、それが中々見つからなくて」
「そういえばそう言う歌をどっかの歌手が歌っていたよなーーー」
と、完全に相談事から脱線している話題を話す目の前の教師を放っておいて千晶は続ける。
「えっとですね……それを探しているのが俺だけじゃなく何人もいて、そいつらより先にそれを見つけなくちゃいけないのに、全然手がかりがなくて」
「…………………………」
ちょっとしたジョークを完全に無視されたせいか、千晶の説明を順子は黙って聞いていた。
「しかもこの間、それを探しているの一人に言われたんです。お前のやろうとしている事に意味はあるのかって」
しどろもどろになりながらも、千晶は何とか説明をする。
「…………なるほどな」
先程とは打って変わって順子は真剣な表情をする。
「と言うか千晶。それはお前が必ず見つけなくちゃいけないものなのか?」
すると順子は急に確信的な事を言う。その急な態度の変化に千晶は最初面食らったが、真面目な表情をして答える。
「はい。それは俺が必ず見つけなきゃいけない物なんです」
千晶の真剣な言葉に、順子は徐に頷く。
「そうか……とりあえず私から言えるのは」
そう言って順子は立ち上がると、机に手を置いて千晶を見つめる。
「男なら、一度決めた事は最後までやり遂げろ!」
そう言って千晶を真っ直ぐに見つめる。
「えっと……先生?」
「お前に何かあったのかは分からんが、それはお前が成さなきゃならない事なんだろう?ならウダウダ悩んでも仕方ないだろう。それに意味なんてものは他人がどうこう言う事じゃない。お前はお前のやるべき事をやれば良いんだ」
そう言って一旦、言葉を切る順子。そして立ち上がると窓際に向かって歩き出す。
「とは言えど、そうだな……うーーーん」
そして一人ぶつぶつ言いながら何かを考え始める。
「…………………………」
(確かに先生の言う通り、戦う意味なんて誰かがどうこう言う事じゃない……分かってはいるんだけど)
千晶は未だに心が晴れる様子が無かった。すると先程まで一人で考えていた順子がこちらに戻って来た。
「なあ千晶。お前部活は入っていなかったよな」
「ええ、帰宅部ですけど」
唐突な質問に千晶は戸惑いながらも答える。
「明日の放課後、時間あるか?」
「ええ。大丈夫です」
千晶の言葉を聞いた順子は大きく頷くとホッとした表情になる。
「そうか。なら明日の放課後私に付き合え。出来ればもう二、三人連れて来てくれると助かるが……」
そう言って順子は話は終わりばかりに教室の鍵を開け一人出て行こうとする。
「えっと……話が見えないんですが、明日の放課後何かあるんですか?」
話の意図が見えない千晶は順子の背中に問いかける。
「なに、ちょっと部活の助っ人を頼もうと思ってな」
「部活?その部活って?」
順子はドアに手をかけたまま千晶に顔だけ向けて答える。
「超常現象研究部だ」
――――――――――――――――――――
廃校場の戦いの後、ガガは自分達のアジトである洋館に戻ってきた。
ガガは洋館の正面のドアを力強く開けると迷う事なく、奥の扉の前に立つ。
――コン―――コン―――
「ガガです。入ります」
――――ガチャリ――――――
中からの返事を待たずに扉を開けて中に入るガガ。と言うのも本来、ここの主はそう言った礼儀に頓着しないのだが、ガガがただ単に拘っているだけなのだ。
「ガガよ、戻ったか。で、どうだった?かのフラワーナイト・リリィは」
そしてこの洋館の主。ガラムも特に何か言う訳でもなく淡々と要件を述べる。
「はっ!最初は期待外れかと思いましたが、あの女の言う通り、あの方を復活させるに足る力を持っているようです」
そう言ってガガは、リリィとの戦闘で破損した盾をガラムに見せる。
「ほう……お主の盾を一部だけとは破壊するとは、中々に面白い娘のようだな」
「はい。ですが…………」
ガラムが感心する中、ガガは難色を示す。
「……?どうした。何か気になる事でもあるのか?」
そんな信頼のおける部下に対し、ガラムは質問をする。ガガは少し考えた後、観念するように口を開く。
「…………実はかの者との戦闘中に邪魔が入りまして……その事で、少しばかり指摘したのですが……どうやらあの者は、まだ自身の信念を確立できていないようでして……」
ガガは何処かリリィを庇うような説明をする。
それは彼の性格故なのかは分からないが何処かしどろもどろだ。
「…………ガガよ」
そんな部下のしどろもどろな説明、をガラムは一言で黙らせる。
「お主の言いたい事も分かる。あのフラワーナイト・リリィの事を一人の戦士として認めているのだろう?」
「あ、いえ………はい」
ガラムの問いにガガは力無く返事をする。
「しかし、今は一刻も早くあの方を復活させるべき時だ。違うか?」
「いえ……その通りでございます」
そう言うとガガはガラムに対して頭を下げる。
「ならお主の成すべき事は分かっているな。あのフラワーナイト・リリィと言う女をここへ連れてくるのだ」
頭を下げるガガに対してガラムは強い口調で命令する。
「………次にこの場に来る時は、必ずやかの娘を引き連れて来ます。どうかごゆるりとお待ち下さい」
「うむ。期待しているぞ」
そう言ってガガは頭を上げ、部屋を後にする。
「………………ふぅ」
一人部屋に残ったガラムは誰に憚るでもなく溜息を吐く。
「言いたい事もわかる……か。どの口がそんな事を言っているのやら。アイツをあんな風にした責任は我にもあると言うのに……」
誰もいない部屋に、ガラムの独り言が部屋の中に響き渡るのだった。




