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魔将軍ガラム

 リリィが廃墟で魔物と戦う数時間前。


『最近、変な事が起きている場所。ニメートル近い化け物を見たって目撃情報もある場所。もしかしたら鍵があるかも知れないから、気を付けてね』


「よし、送信っと」


 スマホのメッセージアプリのメッセージを確認した白石優里香は、送信ボタンを押すとスマホをしまい家路に着く。


(千晶……リリィちゃんの方も未だに鍵は発見出来ていない。やっぱりそんな簡単には見つからないか……)


 優里香は歩きながら一人考えに耽る。

 彼女のもう一つの顔は魔王復活を目論む魔物の主、ブラックリリィなのである。

 現在、彼女の主人たる魔王は五つの球に封印されており、その魔王の封印の鍵の一つをリリィに渡していたのだ。彼女自身も自らの使い魔に鍵の探索を命じているのだが、未だ発見の連絡も無いまま今日に至っている。


「ブラックリリィ様……今宜しいですか?」


 そんな事を考えていると、件の使い魔であるクロウから連絡が入った。と言ってもスマホ等のツールを使っている訳ではなく、彼女とその使い魔であるクロウは互いに見えない糸のようなもので繋がっている為、脳に直接語りかけあっているような感じである。


「何かあったの?」


 優里香は突如連絡をしてきた使い魔に問いかける。

 クロウにはよっぽどの事がない限り、連絡をしないように言ってあったのだが、こうして連絡をしてきたという事は何か進展があったのかと若干の期待をしていたのだ。


「いえ……その……」


 しかし、クロウから帰ってきた返答は何とも煮え切らないものだった。

 普段この使い魔は物事をはっきり言うタイプである。それがこのような煮え切らない言い方をするのは珍しいと優里香は感じていた。


「何?何があったのかはっきり言って」


 とはいえ、そんな事をしていても埒が明かないと感じた優里香は、若干怒気を含んだ声で問いかける。


「…………ブラックリリィ様に会いたいと言う者がおりまして………アジトに待たせておりまして……その…………」


「分かった、アジトに向かえばいいのね。それじゃ!」


 そんな優里香の態度にクロウは何とか要件を伝える。優里香は段々と面倒くさくなり、話を切り上げると素早く路地に隠れる。


「…………全く、まぁ良いわ」


 周りに誰も居ない事を確認すると優里香は目を瞑る。すると彼女の全身が黒い靄のような物に包まれる。やがて靄が晴れると優里香の姿は大きく変わっていた。着ていた学校の制服は黒いロングワンピースに、長い黒髪はそのままストレートだが、履いていた学校指定のローファーは黒いヒールに変わっていた。


「…………ふぅ」


 白石優里香から魔王復活を巧む女幹部……ブラックリリィに変身した優里香はそのまま空に飛び立つのだった。




 ――――――――――――――――――――――――――





 千晶や優里香達が暮らす街の外れに鬱蒼とした森がある。

 その森の中にポツンと立つ西洋風の洋館……そこがブラックリリィのアジトである。

 元々この場所は彼女が新しい魔物を生み出したりする時に使っていた場所である。そんな洋館の入り口近くにブラックリリィはふわりと降り立つ。


「ふぅ……到着っと」


(そういえば最近……あんまり此処を使ってなかったわね)


 最後にここを使っていたのは自身の影武者の魔物を生成した以来であり、それもかれこれ数ヶ月前の話だ。そんな存在を忘れかけていた洋館の入り口に手をかけると力を入れて一気に押し開く。


 ――――ギィィィィィ――――――――


 鈍い音を立てて洋館の扉が開く。この洋館の構造は扉を開けて直ぐに広い広間があり、そこから正面と左右に扉がある。そして洋館の中は魔物を生成するにあたり、常に適切な温度を保つようにしている。その為、外に比べるとひんやりとしていて若干の気持ち良さをブラックリリィは感じていた。


「……………………ッ!」


 しかしそれは最初だけで、ブラックリリィは唐突に悪寒を感じる程の殺気を感じるのだった。


「誰!?」


 するとブラックリリィの言葉に答えるように右の扉が音を立てて開き、そこからトカゲのような者が出てきた。


「魔物。でも……」


(私が使役しているのとは違うみたいね……)


 ブラックリリィは扉から出てきた魔物を見てそう感じた。その魔物は右手には海賊のカットラスのような剣を持ち、左手には円形の盾。身体には軽装ながら鎧を装備していた。彼女が使役している魔物が徒手空拳だったのに対し、武装を整えたその魔物は異様な雰囲気を醸し出していた。


「……………………」


 魔物は黙ってブラック見つめていた。


「人の家に無断で侵入しておいてだんまりは無いんじゃないの!」


 そんな魔物に対して、ブラックリリィは右手に風の塊を作り、魔物に投げつける。


「………………」


 すると魔物はブラックリリィの攻撃に反応するように動き出した。まず自身に迫ってくる風の塊を持っていたカットラスを横薙ぎに振りそのまま横一文に切り伏せる。そしてそのままブラックリリィに接近し、左腕を振り下ろす。


「…………ふんッ」


 風の塊を斬られた事に動揺する事なく、ブラックリリィは後ろに飛んで攻撃を回避する。そして前を見据えるとかの魔物は剣を構えたままその場に立っていた。


「なかなかやるわね。けど……」


 魔物が剣を構えたのに対し、ブラックリリィも自らの周りに風を生成していく。


「ブラックリリィ様!」


 そんな一触触発雰囲気の中、中央の扉から一匹のカラスが物凄い勢いでブラックリリィのいる方へ飛んできた。


「……クロウ。一体アイツは何者なの」


 ブラックリリィは魔物から目を離す事なく、飛んできた自らの使い魔に問いかける。


「えっと……ブラックリリィ様」


「ほう。お主がブラックリリィか。……ガガ、下がっていろ」


 するとクロウの声を遮り、中央の扉から謎の声が聞こえてきた。するとブラックリリィの目の前の魔物は剣を鞘にしまい、そのまま先程出てきた扉の向こうに戻っていった。


 ――ガチャリ――ガチャリ――ガチャリ――


 すると中央の扉の向こうから何やら金属同士が擦れ合うような音とともに、別の魔物が姿を現した。

 その魔物は先程ブラックリリィが戦った魔物と同じように全身に鎧を纏っていたが、先程の魔物とは違い、西洋の騎士が着るような全身を覆う鎧を纏っていた。ただし兜は被っておらず顔は先程の魔物と同じトカゲのような顔つきだが頬に古傷等があり、歴戦の戦士の貫禄を感じさせる。


「あの者がブラックリリィ様をここに呼ぶようにと言ってきたのです」


 クロウの言葉を聞きながらブラックリリィは扉から出てきたその魔物を見た瞬間、片膝をついて頭を垂れる。


「ぶ、ブラックリリィ様?」


「お待ちしておりました。ガラム様」


「うむ」


 戸惑うクロウと臣下の礼をするブラックリリィを見て魔物………魔将軍ガラムは満足そうに頷くのだった。






 その後、一人と二匹は先程ガラムが出てきた中央の部屋の中に勢揃いしていた。

 そこは元々食堂だったのだが彼女一人で使うには広すぎる為、テーブル等は撤去されており今ではただの広い部屋と化していた。

 そんな部屋の奥行きにガラムは洋館内で最も豪勢な椅子に腰掛け、ブラックリリィ達を見下ろしていた。


「ブラックリリィ様。一体この方はどう言った……」


 そんなガラムに頭を垂れる自身の主に、クロウは脳内に直接語りかける。


「魔将軍ガラム様。かつての大戦で多大なる戦果をあげて幾多の戦乙女ヴァルキリーを葬った偉大なる将軍様。ちょっと前にあの方が眷属を寄越すって言っていたけど、まさかガルム様だったとは………」


 それに対してブラックリリィはガラムにも聞こえるように言葉で説明をする。すると、その説明に今度はガラムが感心の表情をする。


「ほう。主はその時生まれてすらいなかった筈だが、どうしてその事を知っているのだ?」


「私はあの方から力を授かった際、当時の記憶を見させて貰っていますので。その関係でガラム様の事も存じ上げておりました」


 ガラムの疑問にブラックリリィは頭を垂れながら答える。


「それよりも先程は失礼しました。まさかガラム様の部下とは知らず失礼な事を……」


「いや。我も主の正体を知らずに攻撃をしろと命じたのだ。お互い様であろう」


 ありがとうございます、とブラックリリィは礼を述べる。すると、ガラムの表情が一段と真剣な物になる。


「さてブラックリリィよ。大体の事情はお主の使い魔から聞いた」


 そう言ってガラムはクロウを見つめる。見つめられたクロウはブラックリリィに習い、頭を垂れる。


「その上で問う。お主の行動にはおかしな点が多い。一体何を考えておる?」


 そして今度はブラックリリィの方を向く。その言葉は丁寧だが、中途半端な言動は許さないと言う気迫を感じる。


「私の目的は我らが主人を復活させることです。その為に最も効率の良い方法をとっているだけです」 


「ではフラワーナイト・リリィとやらに主の封印の鍵を渡したのもその為か?」


 ブラックリリィ言葉にガラムの表情が一段と険しくなる。


「その通りです。私の力では天界からの者……戦乙女(ヴァルキリー)を相手に勝てる自身がありませんでした。万が一にも主人の復活前に奴らが地上に降り立つ可能性も考え、最も早く主人を復活させる手段が、フラワーナイト・リリィに鍵の探索を手伝ってもらう事でした」


 ブラックリリィの言葉にガラムは顎に手を当てて考え込む。


「成る程な……ならお主はそのフラワーナイト・リリィとやらにならどんな事があろうと勝てると……そう言う事なのだな」


「えぇ、勿論です。それに………今はガラム様もおりますので」


 ブラックリリィはガラムの言葉を肯定しながらガラムを持ち上げる。


「ふっ、そのような世辞は要らん。それともう一つ」


 ガラムはブラックリリィの言葉に満更でもない表情を浮かべつつ問いかける。


「主を復活させる為には鍵だけでなく膨大なエネルギー…………人間共の生命エネルギーが必要なはずだ。それもあまり集まっていないようだが?」


「それについても、先程話題に上げたフラワーナイト・リリィがいれば問題ありません」


「?……今ひとつ意味が分からないがどう言う事だ?」


 ブラックリリィの意図が分からないのか、ガラムは首を傾げる。


「私はガラム様の考えている通り、最初人間達から生命エネルギーを……天界の者達が動かない程度の頻度で集めていました。その過程で私達の邪魔をする存在が現れるようになりました」


「…………それがフラワーナイト・リリィ」


 ガラムの言葉にブラックリリィは無言で頷く。


「私は自身で何体かの魔物を生み出し、彼女にぶつけました。その際、彼女をあと少しの所まで追い詰める事もありました」


「ヌウウ……」


 ブラックリリィが説明する横でクロウが唸っていた。どうやらその時……去年の森林公園での戦闘……の事を思い出しているのだろう。と、ブラックリリィは考えたが構わず続ける。


「結果的にその魔物は彼女に倒されましたが、その時に気付いた事があるのです」


「………続けよ」


 ガラムはブラックリリィに先を促す。


「………その前まで彼女の力は我々に遠く及ばなかったのですが、その時の彼女の力は目を見張るものがありました。その時の彼女の力はそこら辺の人間の数千人分の生命エネルギーに相当すると」


「なんと…………」


「つい先日も私の魔物に追い詰められながら、最後は膨大なエネルギーを解放し私の魔物を打ち倒しました。その時の力だけでも封印を解除するに足る力を発揮していました」


 ブラックリリィの言葉を受けてガラムは暫く押し黙る。


「…………つまり下手にそこら辺の人間達を襲うより、封印の鍵を集め、かの者の力で封印を解除しあの方を復活させる………お主はそう言いたい訳だな」


 ガラムの言葉にブラックリリィは頷く。


「………………………………」


 ガラムは一人考え込む。その間、誰も言葉を発せずガラムの次の言葉を待つ。


「お主の言いたい事は分かった。しかし……我らはかの者の実力を知らん。あくまでお主の言った通りに動いたとして計画通りに行くとは限らん」


 そこでガラムは一旦言葉を切る。ブラックリリィも黙って頷く。


「そこで、お主達には封印の鍵の探索を優先してもらう。かの者の相手は今後我々の手で行う」


 ガラムの発言にクロウが驚きの表情を浮かべる。


「なッ!そんな勝手な……」


「畏まりました」


 クロウの反論を遮るようにブラックリリィは了承の言葉を発する。


「では早速、私達には封印の鍵の探索に専念します」


 そう言って、ブラックリリィは立ち上がり部屋を後にしようとし、クロウも黙ってそれに続く。そして部屋のドアに手をかけると振り返りガラムに一礼する。


「ブラックリリィ」


「…………何でしょうか?」


 そんなブラックリリィをガラムは呼び止める。


「我はこの場所を気に入った。このままこの場所を我の根城としようと思うのだが……」


「ええ。構いませんわ」


 そう言ってブラックリリィ達は部屋を後にするのだった。






 ブラックリリィが部屋を出ていった数分後、先程広間でブラックリリィと戦っていた魔物が、部屋に入ってきた。


「ガガか…………お主はどう思う?」


 ガラムは入ってきた魔物に問いかける。ガラムの言葉に主語がなかったが、問われた魔物……ガガは正確に主の言いたい事を理解していた。


「正直、信用出来ません。外で話を伺っていましたが、あの女はまだ何か隠しているような気がしました」


 ガガは思った事を素直に答える。その答えにガラムも大きく頷く。


「我も同意見だ。だが、あの女の主人を復活させると言う気持ちに、偽りは無いと感じたのも事実だ」


「では……」


「うむ…………ガガよ、お主はフラワーナイト・リリィとやらの実力を見極めてきてくれ。本当にあの女の言っていることが正しいのか。お主の裁量に任す」


「畏まりました」


 そう言ってガガはガラムに一礼して部屋を後にする。


「……ブラックリリィ。精々我らの主人の為に働いて貰おうか」


 ガラムは誰もいない部屋で一人、そう呟くのだった。





「ブラックリリィ様、よろしかったのですか。あの者達にリリィの相手をさせて」


 一方、洋館から出たブラックリリィとクロウは、そのまま空を飛んでいた。その途中でクロウがブラックリリィに先程の件について問いかけていたのだ。


「別に構わないわ。もしリリィちゃんがガラム様に負けてしまったらそれはそれだし」


「しかし……ブラックリリィ様はお一人でここまでやってきたではありませんか!それをあんな……横から掠め取るような……」


 ブラックリリィの言葉にクロウは悔しそうな声を上げる。


「…………あのねクロウ。私は目的はあの方……魔王様を復活させる事。あくまでリリィちゃんの相手はその過程での私の楽しみの一つなの。その楽しみの為に目的を見失う程、私は愚かに見える?」


 ブラックリリィの言葉に悔しさは微塵もなかった。それを聞いたクロウはそれ以上何も言わなかった。


「失礼しました。では、鍵はお返しした方が……」


「ううん、鍵はそのままクロウが持っていて。私は私で鍵を探索するから」


 そう言って二人はしばらくの間空を飛んでいたのだがクロウが何かに思い至ったのか言葉を発す。


「…………そういえばブラックリリィ様。何故リリィの正体をガラム様に言わなかったのですか?」


 クロウの質問にブラックリリィはキョトンとした顔をしながら答える。


「あら。いちいちそんな事言う必要ある?それに……ガラム様は私の事を信用していない。そんな人にわざわざ情報を教える必要はないと思うけど」


「ブラックリリィ様……」


 自身の主人の狡猾さに舌を巻きながら、クロウは空を飛んでいくのだった。






「それじゃ、後はよろしくねクロウ」


 そう言って飛び立っていくクロウを見送ったブラックリリィは、変身を解き白石優里香に戻ると家に向かって歩き出す。


「ただいま」


 家に着き、玄関を開けて家の中に入る優里香。そして居間の前を通ろうとすると中から声がかかる。


「遅かったじゃない優里香。こんな時間まで何処ほっつき歩いていたの!」


 居間から出てきた女性は中年の女性で何処か優里香に似ていた。その女性はに気づいた優里香は謝罪の言葉を口にする。


「ごめんなさい母さん。ちょっと友達とファミレスで勉強会をしていたら遅くなっちゃって………だかrwご飯は要らないから部屋に行ってるわ」


 声をかけてきた自身の母親に優里香は謝罪と言い訳をする。


「そうだったの。勉強熱心なのはいいけど次からは一言連絡ちょうだいね」


 はーいっと返事をしながら優里香は自身の部屋に向かおうとする。


「そうだ優里香」


 そんな優里香に母親は再び声をかける。


「今度の中間テストは学年一位を取れるわよね。年度末では惜しくも学年二位だったから母さん心配で……」


 その言葉に優里香の表現が一瞬だけ曇るが、すぐにいつも通りの表情になる。


「勿論だよ。その為にこれから部屋に戻ってもう少し勉強するんだから」


 そう言って話を切り上げ、部屋に向かう優里香。

 部屋に入ると、優里香は持っていた鞄をベットに放り投げ、そのまま自身もベットにダイブする。


「………………はぁ」


(ほんと……嫌になっちゃう。けど…………)


「魔王を復活させれば……こんな生活も……」


 優里香はベットに転がりながら一人呟く。


「何もかも……無くなっちゃえばいいのに…………」


 

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