新学期 2
翌日。
「千晶〜!いい加減起きないと遅刻しちゃうわよ〜」
「んっ……あぁ……ああああああッ……おう!」
ベットの上で気持ち良さそうに眠っていた少年……天風千晶は、一階からの声で目を覚ます。
(眠……昨日遅くまで鍵を探していたから寝たりねぇ……)
彼は、昨日化け物と戦っていた花の騎士フラワーナイト・リリィなのである。
先日彼は宿敵であるブラックリリィから、彼女の主人が封印されている鍵……黒い球……の一つを渡される。彼女がどう言う意図で自身に封印の鍵を渡したのかは分からないが、あの日以降、千晶はリリィに変身し街をパトロールがてら鍵の探索を行っているのだ。
「ふっ……ふぁぁぁぁぁ……」
眠い目を擦り、立ち上がるとその場で伸びをする。そして寝間着から着替えるとノソノソと一階に降りていく。
「…………全く、今日から新学期だってのにアンタって子はのんびりだね」
千晶がリビングに入ると、朝食をテーブルに用意していた千晶の母親が千晶に声をかける。
「うるせぇな……ちゃんと起きたんだから良いだろ…………いただきます」
母親の小言を聞き流しながら千晶はテーブルに座り、朝食を食べ始める。
「そういうのは自分一人でちゃんと起きれるようになってから言いなさい」
千晶の言葉に、母親は何処か嬉しそうに答える。
(………一年前は何処か塞ぎ込んでたみたいだけど、だいぶ吹っ切れたのかしらね……)
と、母親は嬉しそうに千晶を見つめる。
「………何だよ。人の顔ジロジロ見て」
視線に気づいた千晶は、母親に文句を言う。
「……別に。あんまりもたもたしてると遅刻しちゃうから、早く食べちゃいなさい」
そう言って母親はリビングから出ていくのだった。
家を出た千晶はそのまま一人で学校に向かう。 そして千晶が学校に近づくにつれて人の数が多くなる。
今日は千晶達の通う学校の新学期。
いつもは教室に向かうはずの生徒は新しいクラス分けを見るために外に張り出された掲示板に群がっている。
「…………これじゃ見れないな。誰か顔見知りがいれば……」
「千晶――――!」
千晶が一人そんな事を考えていると、彼に近寄ってくる一人の女の子がいた。長い髪をストレートにして、整った顔立ちに自信に満ちた表情のその子は、千晶の前に立つと笑顔を向ける。
「おう白石。なんか嬉しそうだな」
近寄ってきた女の子に千晶は挨拶をする。
白石優里香……千晶の小さい頃からの幼馴染で、千晶がフラワーナイト・リリィである事を知っている唯一の人物である。
「うん!今クラス分けを見てきたんだけど、私と千晶また同じクラスだったんだよ!」
そう言って、優里香は千晶の手を取ると上下に激しく振り回す。あまりの激しさに千晶は若干苦悶の表情を浮かべる。
「お、おう……分かった!分かったから少し落ち着け白石」
そう言って千晶は、半ば強引に優里香の手を引き剥がす。
「あっ!ごめん!痛かった?」
「いや……別にそこまで痛くはないけど……」
(正直……周りの視線が……)
優里香の心配そうな声に、千晶は大丈夫と答える。するとそんな二人に、こちらも二人組の男子生徒が近づいてきた。
「おーす!久しぶりだな天風」
「いや別にそんな久しぶりってほどではないけど……」
やって来た男の一人が千晶に話かける。彼は千晶の言葉に笑いながら答えると、千晶の肩に自らの腕を絡ませる。
「おいおい!そんな細かい事は気にすんなよ。俺達マブダチだろ」
「あはは、相変わらずだね金山君」
優里香はそんな男子……金山信彦に話しかける。金山は嬉しいそうに優里香に笑いかける。
「おう白石。そりゃそうさ何たって俺達はマブ……痛ッ!いたたたたたたたた!」
「…………すまんな。朝から馬鹿がうるさくて」
そう言って金山と一緒にいた男子が金山の頭を鷲掴み、千晶から強引に引き剥がす。
「いててて!何すんだよ中山!俺は千晶と男同士の親睦を深めてた所なのに!」
金山は自身の頭を掴む男子……中山将平に抗議の声を上げる。
「親睦を深めるなとは言わんが、少しは周りの目を考えろ」
中山は駄々をこねる子供を叱る親のような口調で金山を叱った後、掴んでいた腕を離す。
「そう言えば……中山達はクラスの確認は終わったのか?」
ひと段落した後、千晶は中山に質問をする。
「ああ。確認している」
そう言って中山は確認したクラスを千晶達に伝える。
「えっ!私達も同じクラス!」
「と言うことは……俺達また一年同じクラスだな!」
「……そうなるな。ハァ……今年こそはコイツと離れられると思ったんだがな」
三者三様で喜びを分かち合う千晶達。若干一人愚痴のような事を言っているがそれはご愛嬌だ。
「良かったね。千晶」
すると優里香は嬉しそうに千晶に声をかける。
「…………別に、今年もよろしくな。皆」
千晶の言葉に三人は嬉しそうに千晶を見るのだった。
――――ドン!――――
「おっと、すまない。大丈夫か?」
すると通りかかった一人の男子生徒が千晶にぶつかってしまう。幸い衝撃はそこまででも無かったものの千晶は二、三歩たたらを踏む。
「ああ。こちらこそすまない。邪魔だったかな」
千晶はぶつかってきた男子に謝罪をする。すると、大丈夫と言って男は頭を下げてそのまま掲示板の方へ向かっていく。
「大丈夫か。天風」
「何なんだアイツ。天風、俺がとっちめてやろうか」
中山と金山が心配そうに千晶に声をかける。
「別に大丈夫だ。それよりあまり此処で集まっていると他の人の邪魔になるから教室行こうぜ」
千晶の言葉に三人は頷き、彼らは教室へと向かうのだった。
その日の夜。
千晶は部屋でジャージに着替えると、階段を降り居間でテレビを見ている両親に声をかける。
「じゃあ、俺ちょっと行ってくるから」
千晶の言葉にテレビを見ていた母親は千晶に視線を向ける。
「今日も行くのね……意外とちゃんと続けてるんだ。いってらっしゃい」
千晶の言葉に母親は了承の返事をする。
「おいおい千晶、母さん。二人だけで納得しないでくれよ。千晶、こんな時間に何処に行くんだ?」
すると、そんな二人の会話を側で聞いていた千晶の父親が千晶に問いかけてくる。
千晶の父親は普段仕事が忙しく中々家に帰ってくる機会が無いのだか、今日はたまたま仕事が一段落したためこうして家にいるのである。
「別に……ちょっと身体作りの為にランニング始めたんだよ。いってきます」
千晶は母親に説明は任したとばかりに家を飛び出す。そして家から少し離れた場所の路地に入ると、スマホを取り出しメッセージアプリを起動する。そして優里香とのメッセージのやり取りを確認する。
『最近、変な事が起きている場所。ニメートル近い化け物を見たって目撃情報もある場所。もしかしたら鍵があるかも知れないから、気を付けてね』
そのメッセージの後にある場所の住所が記載されていた。
「遠いな………まぁ、いつもの事か……」
住所を調べ終わった千晶は一人ぼやきつつスマホをポケットにしまう。そして変わりにペンのような物を取り出し頭上に掲げる。
「花の精霊よ……私に力を貸して!フラワーメタモルフォーゼ!」
千晶が呪文を唱えると彼の全身が光に包まれる。そして光が収まるとそこには花の騎士フラワーナイト・リリィが立っていた。
「花の騎士フラワーナイト・リリィ見参!」
リリィは決めポーズをとるとその場から素早くジャンプし、人に見つからないようにその場を後にするのだった。
リリィが向かったのは、千晶の家から車で四十分程の所にある工場跡だ。
数十年前まで稼動していたのだが、やがて経営難に陥りそのまま会社が倒産。建て直しの予定もなく、残った敷地の解体もそのままになっていた。よく廃墟マニアが撮影に来てたりする以外あまり人の出入りがなかったのだが、最近この工場跡で奇妙な噂が流れ始めたのだ。
「二メートルを超える化け物を目撃した……でしたっけね」
リリィは工場に来る前にスマホで確認した噂の内容を頭の中で反芻しながら、懐から漆黒の球を取り出す。
相変わらず球は漆黒のままだった。
「鍵はなし……けど、二メートルを超える化け物は放って置けないですね」
リリィの探している鍵は、近くに鍵があるとお互いに共鳴しあい、光り輝くのだ。しかし、球は相変わらず黒いままなのでその場にはないと言う可能性が高い。
リリィは気持ちを切り替えて、工場跡の周りを探索し始める。
すると…………
「お!本当にいたいた」
「な!俺の言った通りだろ!」
「俺……待ちくたびれて腹減ったぜ」
工場の中から三人組の男が手にスマホを持ちながらリリィに近づいてきた。男達は三人とも柄の悪そうな風貌をしていて、リリィの事を下品な笑みを浮かべながら見つめていた。
「………こんな所で何をしているんですか?」
リリィは三人から向けられる視線に嫌悪感を覚えながら、出来るだけ平静を装いながら問いかける。
「ああ、俺達は君のファンなの」
「ファン?」
「そうそう。化け物と戦う正義の美少女ヒロインさんに一度会いたくってさ。噂がある場所に赴いてるんだ」
「まさかこんなすぐに会えるとは思ってなかったから俺達ラッキー」
三人はリリィ近づくと、リリィを囲むように立つ。
「そうですか……ですが、ここは化け物が出るかもしれません。危険ですので……」
「ああ、それは大丈夫」
リリィの忠告を遮るように男一人がリリィの前に立つ。
「………どう言う事ですか?」
「その噂さ……俺達がでっち上げた嘘。だからここには化け物は出ないよ」
「そうそう。俺達はリリィちゃんと仲良くなりたいって思ってたからさ。せっかく会えたんだし仲良くしようよ」
そう言って男の一人がリリィの肩に手を置く。そしてもう片方の手でリリィの身体に触ろうとする。
「ッ!やめて下さい。私はそんな……ッ!」
――――――――ドゴーーーーーーーーーーン――――――
リリィが男の態度に腹が立ち、男の手を振り払おうとした瞬間、工場の方から爆発音が聞こえた。
「うお!何だ」
「なんか爆発したぞ!」
男達にとっても爆発は意図しなかったことのようで、明らかに動揺している。
その隙にリリィは男達から離れ、爆発のした方向に向かっていく。すると、爆発の発生源であろう場所に二メートルを超える化け物が仁王立ちしていた。
しかも、その化け物……魔物は今までリリィが戦っていた魔物とは違っていた。
見た目はリリィが今まで戦ってきた魔物そっくりなのだが、右手には海賊のカットラスのような剣を持ち、左手には円形の盾。身体には軽装ながら鎧を装備していた。今までの魔物が徒手空拳だったのに対し、武装を整えたその魔物は異様な雰囲気を醸し出していた。
「……………………」
(この魔物……今までと明らかに違う)
リリィは明らかに今までと違う魔物に警戒をしながら、剣の柄に手をかける。
「おいおい、何だコイツ」
「化け物だよ!本物の」
「写真撮っとこうぜ!」
すると、リリィを追いかけてきたであろう三人組の男が、魔物を見るなり興奮した声を上げ、スマホを化け物に向ける。
すると魔物は男達に向かって素早く近づき、手に持った刃物を振り下ろそうとする。
「ッ!危ない!」
リリィは男達と魔物の間に入り、魔物に向かって剣を振り下ろす。
「……………………」
魔物は、リリィの剣を左手の盾で受け止め、そのままカットラスを横薙ぎに振る。
「ッ!」
リリィは屈んでカットラスを避け、魔物から距離を取る。
「うおお!すげぇ……」
三人はリリィの一連の動作を見て、賞賛の声を上げる。
「……貴方達!ここは危ないので早く逃げて下さい!」
「えっ……でもよ……」
「いいから早く!」
男達はリリィの言葉に渋っていたがリリィの迫力に負け、渋々と言った感じでその場から離れる。
幸い、魔物はリリィを標的と決めたのか彼らを追う事はしなかった。
「…………………………」
(この魔物は一体?けど……やるしかないですね)
リリィは目の前の魔物を倒すべく集中するのだった。




