迫る脅威!フラワーナイト・リリィ危機一髪 前編
迫る脅威!フラワーナイト・リリィ危機一髪 前編
暦の上では秋の中頃、寒暖差が激しい中、一人の少年が歩いていた。少年の名は天風千晶。千晶は制服の上からジャンバーを羽織り、一人学校に向かう通学路を歩いていた。
「うぅ〜寒!」
千晶は自分の身体を抱きしめ、腕を上下に擦って摩擦で暖を取りながら歩く。
「お〜す!千晶!」
すると千晶の後ろから、一人の女子高生が走りながら千晶の背中を叩いてきた
「……つ!……おい!白石!お前って言う奴は普通に挨拶が出来ないのか?」
そう言って千晶は自分の背中を叩いた女子高生……白石優里香を恨みがましく睨みつける。
「え〜。私は別に普通に挨拶してるつもり何だけどな〜?」
優里香は悪びれもせずそのまま千晶の隣に立つ。
「それより、急がないと遅刻しちゃうよ?」
「まだ予鈴まで余裕があるだろうが……ったく」
千晶は優里香に怒るのを諦め、学校に向けて歩き出す。そして優里香も当然のように千晶の隣を歩きながら並ぶ。
「ねぇ千晶。そんなに着込んで暑くないの?」
優里香は歩きながら千晶の格好を見てそんな感想を漏らす。
「別に……寧ろこれくらいがちょうど良い。それより白石。お前の方こそ、そんな格好で寒くないのかよ?」
そんな優里香に対して千晶は言葉をそのまま返す。実際、優里香の格好は冬服のブレザーとスカートだけで上着等は羽織っていない。
「全然。ここまで走ってきたのもあるし、私……元々暑がりだから」
そう言って優里香は千晶の前で一回転する。すると優里香のスカートがヒラリと舞い上がる。
「ばっ!し、白石!……お前、見えちまうだろう!」
千晶は優里香を隠すように前に立つ。
「別に大丈夫だよ。他に誰もいないし」
「お前……そう言う問題じゃねえだろ」
千晶は周りを見渡し、他に誰も居ない事を確認すると溜息をつく。
「白石……お前には恥じらいってもんがねえのか?」
千晶の言葉に優里香は少し考え込む。
「ん〜別にそう言うわけじゃないよ。て言うか千晶も……変身すると割と見えそうな格好な訳だけど、そこんとこどうなの?」
「ばっ!……ここでそう言う話は……」
キーン〜コーン〜カーン〜コーン
千晶が優里香に注意しようとすると、遠くからチャイムが鳴り始める。
「あっ!予鈴が鳴ってる。走るよ!千晶」
「お、おい待てよ!白石」
そう言って優里香は走り出し、それを追いかけるように千晶も走り出すのだった。
「ふぅ〜到着!」
「はぁ……はぁ……何とか……間に合った」
優里香と千晶は滑り込むように教室に入る。幸い担任の先生はまだ来ておらす、ホームルームも始まっていなかった。
「……あれ?何か教室、がらんとしてない?」
「はぁ……はぁ……え?」
優里香に言われて、呼吸を整えた千晶は改めて教室を見渡す。優里香の言う通り、教室の机と椅子には、かなりの数の空席が目立つ。
「……皆、遅刻かな……全く」
「お前じゃないんだし、そんなわけないだろ。……風邪でも流行ってるのかな」
千晶と優里香が話していると教室の扉が開き、担任の先生が入ってきた。それに気付いた千晶と優里香は慌てて席につく。
「え〜今日は寒暖差の為か、風邪での欠席者が多数出ている。皆は体調管理に気をつけて、夜は暖かくして早めに寝ること」
そう言って担任の先生はホームルームを締めくくり、教室を出でいくのだった。
そして……放課後。
「千晶!一緒に帰ろう!」
最後の授業が終わると、優里香はそそくさと千晶の席に駆け寄る。
「悪い。今日は用事があって一緒に帰れないんだわ」
千晶は優里香の誘いを申し訳なさそうに断り、教室を出て行こうとする。
「えっ!何々!私に言えない用事?」
そんな千晶の背中を優里香は面白そうに追いかける。
「別にそんなんじゃねえよ。これからバイト」
「ああそうか。今日バイトの日だったよね」
そう言って優里香はあっさりと引き下がる。
「給料入ったら何か奢ってね」
「気が向いたらな」
そう言って千晶は教室から出て行く。
「さてと、じゃあ……」
「あの白石さん」
優里香が鞄を持って教室を出て行こうとすると、クラスメイトの女子何人かが、優里香に話しかけてきた。
「あの……もしよかったらさ。私達と一緒に帰らない?私達途中まで帰る方向一緒だからさ」
クラスの女子の提案に優里香は少し、考える素振りをする。
「いいよ。じゃあ一緒に帰ろうか」
そうして優里香はクラスメイトの女子何人かと一緒に教室から出ていくのだった。
「じゃあ私こっちだから」
「うんじゃあ、また明日」
「またね白石さん」
クラスメイトの女子達と別れ、一人家路を目指す優里香。すると彼女の歩く先の塀の上に、一匹のカラスが降りてきた。
「ブラックリリィ様」
カラスは優里香に仰々しい態度で話しかける。
「ブラックリリィ様より頂いた例の魔物が目覚めました。今日こそあの憎きフラワーナイト・リリィを始末してみせます」
「そう……じゃあ頑張って」
優里香はカラスの言葉に興味も示さず、そのまますたすたと歩き続ける。
「……ブラックリリィ様。畏れながら一つ宜しいでしょうか?」
「……何?」
優里香は辺りに誰もいない事を確認し終えた後、歩みを止めカラスの方に向き直る。
「何故あの男……フラワーナイト・リリィである千晶という男を放置するのですか?変身する前に殺してしまえば我らの脅威は……」
「千晶は私の幼馴染なの。それに、前も言ったけど、時期が来れば私がブラックリリィとして始末する。だから、あんたは余計な事をしないで言われた通りにしていればいいの」
そう言って優里香はカラスを睨みつける。その瞳には有無を言わさぬ迫力があった。
「かしこまりました。貴女様の仰せのままに」
そう言ってカラスはそのまま空に向かって飛び去っていった。そして優里香も踵を返して再び歩き出す。
(まあ、あの程度の魔物で苦戦するようならそれまでだけど……さぁて、リリィちゃんはどうなるかしらね♪)
そう内心で一人考えながら優里香は一人家を目指すのだった。
「お疲れ様でした!」
「おう!お疲れ様」
バイト先の店長に挨拶を済ませ、千晶はバイト先の店を後にする。
「うぅ……寒!店の中と外とじゃこんなに気温に差があるのか」
外に出た途端、千晶は寒さに震える。というのも時刻は午後十時を回っている。辺りはすっかり真っ暗で街頭の明かりが眩しい。
「さて、さっさと帰って……」
ドーーーーーーーーーン!
千晶が家に帰ろうとすると、何処からか物凄い音が聞こえてきた。すると音が聞こえてきた方向から大勢の人が、恐怖に顔を引き摺らせながらこちらに走ってきた。
「化け物だーーー!」
「は、早く警察に連絡を……」
彼らは一様に化け物や助けを求める言葉を発しながら走っていく。
「……ッ!魔物?!」
そんな彼らのただ事ではない様子を見た千晶は、走って来る人の流れに逆らいながら、音がした方向に走っていく。
すると音の震源には、この世のものではない魔物が暴れていた。
「……!あれは!」
千晶は魔物に見つからないように咄嗟に建物の影に隠れる。そして建物の影からそっと覗いてみると、魔物は近くの建物等を破壊して暴れ回っている。
「全く……こんな寒い時に!」
そう悪態を吐きながら、千晶は鞄の中から、ペンのような物を取り出す。
「花の精霊よ……私に力を貸して!フラワーメタモルフォーゼ!」
千晶が唱えると彼の全身が光り輝き、光が辺りを覆う。そして、光が収まるとそこには女の子が立っていた。
手足に純白のロンググローブとブーツ。髪は銀髪の腰まで届くロングヘアー、身体を包むのはノースリーブのワンピース、背中にかけて垂れ下がる純白のマント、額に花を模した金のティアラ、左腰に一振りのサーベルを履いた美少女である。
「花の騎士!フラワーナイト・リリィ見参!」
変身した千晶……フラワーナイト・リリィは名乗りを上げると同時に、建物の影から飛び出し魔物の前に踊り出る。
「街を破壊する悪しき魔物よ!このフラワーナイト・リリィが許しません!覚悟しなさい!」
リリィはそう言うと同時に剣を抜き放ち、怪物に突進する。魔物は、リリィの存在に気づくと同時に、右手を向かって来るリリィに向けて振り下ろす。
「フッ……!」
魔物の拳が当たる瞬間、リリィは大きく上にジャンプする。そして、そのまま魔物を飛び越え魔物の後ろに着地。着地と同時に魔物に向けて剣を横に振る。
ガキィ――――――――――ン!
「ッ!……硬い!」
しかし、魔物の身体は鋼のように硬く、リリィの剣は魔物の身体に当たった瞬間、その場で止まってしまった。すると魔物はそのまま振り下ろした右腕でリリィに裏拳を繰り出す。
「ッ!……くっ!……んっ!キャア!」
リリィは咄嗟に剣を戻し、剣の腹でガードするも、魔物の裏拳の威力が凄まじく、吹き飛ばされ近くの建物に激突する。
「……いたたっ!」
リリィは何とか立ち上がり、魔物を見つめる。
すると、魔物はリリィに追撃を掛けるように素早く近づき、拳を振るう。
「ッ……ハッ!」
リリィは素早く前転の要領で、魔物ををすり抜け、魔物から距離を取る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(あの魔物、力が私より強い。それに……あの身体……鋼のように硬い!……どうしたら……)
リリィが思案していると、魔物はリリィをじっと見つめる。そして顔を歪め、ニヤけた思うと徐ろに舌を出し、舌舐めずりをし始めた。
「ヒィ!……ッ!」
(き、気持ち悪い!何なのあの魔物!けど……もしかしたら……)
リリィは魔物の行動に嫌悪感を覚えながらも、剣を構え直す。
すると、それを待っていたかのように魔物は攻撃を仕掛ける為、リリィに接近する。
「ふぅ……そこ!」
リリィは気迫と共に逆に魔物との距離を詰め、構えていた剣を魔物の目に突き刺す。
「……ンギャァ――――――――――!」
(やっぱり……身体の表面は硬くても、それ以外は普通の魔物と変わりありませんね!)
魔物から剣を抜き、一旦魔物と距離をとったリリィは必殺技の構えをとる。一方、目に剣を突き刺された魔物は激しい痛みに、目を抑えて後ずさる。
(ここで……決める!)
「光よ!集え!フラワーナイトスプラッシュ!」
リリィは前方に剣を突き出す。すると剣先から光の奔流が発生し、魔物を包み込む。
「グギャァ――――――――――!」
魔物は悲鳴と共に、光となって消失した。そして光が収まると、そこに魔物の姿はなくなっていた。
「……はぁ……はぁ……苦戦しましたが何とか倒せました」
一息ついたリリィは剣を鞘に収め、その場を後にしようとする。
「ほう?あの魔物を倒すか。流石はフラワーナイト・リリィといったところか」
すると彼女の耳に、何処からともなく声が聞こえてきた。
「……!誰!?」
リリィは再び剣を抜き辺りを見回す。しかし声の主らしき人物は見当たらない。
「ふふっ!何処を見ている?」
するとリリィの近くの電柱に一羽のカラスが降り立った。カラスはじっとリリィを見つめている。
「……お前は……一体何物なんですか?」
「……我はあの魔物を、ある御方の命でけしかけた者だ。フラワーナイト・リリィ。まずは見事と言っておこう」
カラスの言葉にリリィは警戒の色を強める。
「なっ!何でそんな事を。町には普通に暮らしている人達もいるんですよ!」
「ふん!そんな事、我には関係ない!我らの目的はフラワーナイト・リリィ。お前だ!」
そう言ってカラスは翼を広げ、その場から飛び立とうとする。
「ま、待ちなさい!」
「フラワーナイト・リリィ……。◯✕森林公園にて、貴様を待つ!もし来なければ、先程の魔物を無差別に町に放つ!待っているぞ!」
そう言い残し、カラスはその場を飛び立ってしまった。
「◯✕公園。明らかに罠……けど!」
(行かなければらまたあの魔物が町の人達を襲うかもしれない)
リリィは覚悟を決め、出来るだけ人目につかないように指定された場所に向かうのだった。