間章 新たなる戦い そして・・・
「生命エネルギー……封印……魔王……鍵……そして千晶の中にいるリリィ……何か一気に話が進展しちゃってるね」
ブラックリリィとの戦いから数週間後。この日は半日授業の為、千晶は優里香と屋上に集まり、その間にあった出来事をかいつまんで説明していた。
優里香は、千晶がフラワーナイト・リリィである事を知っている唯一の人物で、こうして相談に乗って貰っている。ただ内容が内容の為、人に知られる訳にはいかないと言う事でこうして屋上に来ているのである。
「取り敢えず敵の目的は分かった。後はアイツらより先にその鍵とやらを集めなきゃな」
千晶は静かに呟く。今までは敵の目的が分からなく戦っていたが、リリィから説明を聞いた千晶は決意を新たにしていた。
「その鍵っていうのは全部で何個?」
「五つ……ブラックリリィと……夢の中で会ったリリィもそう言っていた」
魔王封印の鍵は全部で五つ。千晶がブラックリリィから預かった物。ブラックリリィが持っているのの二つである。
「ねえ千晶。その……ブラックリリィが言う魔王を復活させる為には五つ全部の鍵を集めなきゃいけないんだよね?」
優里香は少し考えた後、一つ一つ確かめるように言葉を紡ぐ。
「あぁ、そうだ。それがどうした?」
千晶は優里香の言おうとしている意図を掴めず、疑問符を浮かべる。
「だったらさ……そのまま持っている鍵を壊すなりすれば、もう魔王は復活出来ないんじゃないかな?」
優里香は天才かも、みたいな顔で千晶を見る。しかし、千晶は険しい顔をしていた。
「…………それは俺も考えて見たんだけど………」
「けど?」
優里香の疑問に、千晶は夢の中でリリィと会話した時の事を優里香に聞かせるのだった。
「それでリリィ。俺はこれからどうすれば良い?」
握手を終えた後、千晶は改めて目の前の少女……リリィに問いかける。
「そうですね……まずは封印の鍵を全て集めて下さい」
「鍵を全てって事は……最終的にはブラックリリィの持っているのもってことだよな?」
千晶の問いにリリィは黙って首を縦に振る。
「彼女は元々はただの人間です。恐らくですが何らかの理由で鍵を手に入れ、私が千晶にしたのと同じように魔王から力を授かったのでしょう」
リリィはそこで言葉を切る。
(ブラックリリィが……俺と同じ……力を授かった人間)
リリィが言葉を切ったタイミングで千晶は考えを整理する。
「人間が魔王の力を使う事は大変危険です。ですので、出来るだけ早く鍵を集めて今度は完全に消滅させなければなりません」
「……なぁリリィ?」
ふと千晶はリリィに質問をする。
「なんでしょうか?」
「鍵をそのまま破壊しちゃ駄目なのか?そうすれば魔王は復活しない訳だし……」
千晶の言葉にリリィは首を横に振る。
「……確かに鍵を破壊してしまえば魔王の復活は阻止出来ますが、私は反対です」
「どうして?」
名案だと思った案を即座に否定され、千晶はムッとした表情になる。
「魔王の力は強大で、私達ですら封印するのが精一杯でした。それを一部だけとはいえ破壊するという事は、その魔王の力の一部を再び世に解き放つ事になります。仮に貴方が倒せたとしても周囲の被害は甚大なものとなるでしょう」
「……………………」
リリィの言葉に千晶は押し黙る。そして自分の浅はかさを思い知らされたのだった。
「それに、天界の者たちは人間界に不用意に介入出来ないのです」
「それはどうして……」
「私達が人間界に与える影響が大き過ぎるのです。魔王達が人間界で暴れ回った時も、貴方達の感覚で言うと数万人の人間が犠牲になって初めて、彼らは私達ヴァルキリーの投入を決定したぐらいですから……」
「…………嘘だろ」
その言葉に千晶は愕然とする。天界の者達の腰の重さと自身の責任の重さに改めて気を引き締める。
「ブラックリリィが何故貴方に鍵を渡したのか……その真意は分かりません。おそらく彼女は、天界が再びヴァルキリーを遣わす前に魔王を復活させようとしているのでしょう。ですので、まずは残りの鍵全てを集めて下さい」
リリィの言葉に千晶は決意をあらたにするのだった。
「なるほどね……鍵を破壊したらその中に封印されている魔王の一部が解き放たれるから破壊したら大変な事になるって事ね」
優里香の言葉に千晶は黙って頷く。
「ブラックリリィが集め終わるのを黙って見ている訳にもいかない。これからはそういう戦いになる。それで白石……」
千晶は真剣な表情で優里香を見つめる。
「白石には引き続き、情報を集めて欲しい。何でも良い。少しでも不思議な事があれば知らせて欲しいんだ」
千晶の言葉に優里香は黙って頷く。
「元々何も知らなかった頃からそうやってやって来たんだもん。任せて!」
千晶の言葉に優里香は元気よく頷く。
すると、話は終わりと言わんばかりに二人の間に沈黙が訪れる。
「そういえばさ……」
「ん?何だよ」
するとそんな沈黙を破るように、さっきの元気の良い返事とは打って変わって優里香は慎重に呟く。
「千晶と同じ高校に通って、来月で一年になるんだよね」
「…………そういえばそうだな」
優里香の言葉に千晶も同意の言葉を呟く。
「再会した時の千晶ってさ、何か近寄り難い雰囲気をビンビンに出してたよね」
「…………そう言いながら、お前はほぼ毎日話しかけてきた気がするんだが?」
「だってこっちの方に戻ってきたの久しぶりだし、千晶に再会出来て嬉しかったから」
千晶は若干トゲのある言い方をするが、優里香は特に気にする様子も無い。
「千晶さ、あの頃と比べるとだいぶ良くなったよね」
優里香は千晶を見ながらしみじみと呟く。
「別に、病気だったわけじゃ……」
「そう言う意味じゃなくて、良い意味で変わったなって。この間だって私が用事があって先に帰った後、金山君達と寄り道してたじゃない」
良い傾向だよ、と優里香は一人盛り上がっている。一方の千晶はここ数日のことに思いを馳せていた。
「………そういえば金山達にも同じこと言われたな。俺が良い方に変わったって」
そう言うと千晶は、数日前に金山と中山と交わした会話を優里香に話す。優里香はそんな千晶の話を、終始笑顔で聞いていた。
「でさ、あいつら俺のこと友達だって言ってくれたんだ。何て言うかそれが嬉しかったつうか……上手く言い表せないんだけど……」
「大丈夫だよ。千晶の言いたい事、ちゃんと伝わってる」
優里香は千晶を諭すように呟く。そんな優里香の言葉に千晶はある事に思い至り、真剣に優里香を見つめる。
「……白石、改めてこの間はごめん」
「えっ?いきなり何の話?」
千晶の突然の謝罪に優里香は疑問を浮かべる。
「ああいや、あの時もここで白石に八つ当たりみたいなこと言っただろ」
「ああ、あの事。あの時も言ってたけど私は別に気にしてないよ」
千晶の言いたい事を理解した優里香は気にしてないと千晶に言う。
「…………あの後、ブラックリリィと戦っている時に言われたんだ。俺は最初にブラックリリィに会った時から奴に恐れを抱いている事。そしてそれを認める事だって」
「恐れって……どう言う事?」
優里香の質問に千晶は一呼吸開けてから話し始める。
「……俺は奴との力の差を最初から薄々分かっていたんだ。けど……俺が思い描いた理想のヒロインはそんな事思っちゃいけないと思った。だから認めたくなかった。けど、力の差を見せつけられた挙句俺の一番知られたくない所を指摘され、俺の心は折れそうになっていたんだ」
「………千晶」
千晶の言葉に優里香は神妙な声を上げる。
「その後、ブラックリリィは俺に提案をしてきた。自分に協力すれば他の人は襲わない。だから自分に協力しろって。俺は自分が犠牲になれば他の人が助かるならって、その提案に乗ろうとしていた」
「………………………………」
「けど、そんな時にリリィが現れて言われたんだ。このままでいいのって。でもさ、その時の俺はどうする事も出来なかったから、リリィにも八つ当たりみたいな事を言ってしまった。けどそんな俺に、リリィは言ったんだ。俺の守りたい人、これからも一緒にいたいと思う人はいないんですか?って……その時にさ……白石の事が浮かんできたんだ。だから……」
そう言うと千晶は優里香の顔を真っ直ぐ見つめる。
「ありがとう白石。なんか改めてこんなふうに言うの、ちょっと恥ずかしいけどな……」
言い終わった後、千晶は若干顔を赤らませながらそっぽを向く。一方の優里香も突然の千晶の言葉に顔を赤らめている。
「…………ねぇ千晶。浮かんできたのって私だけ?」
優里香は恐る恐ると言った感じで千晶に問いかける。
「いや金山や中山の事も思い浮かんだんだ。けど、こうして白石と話す機会があったから先に話しておこうと思って」
「………………ハァ、まあいっか」
千晶の言葉に優里香は先程までとは一変し、真顔になって答える。
「白石?」
「何でもない。それよりもさ千晶」
千晶はそんな態度に疑問を浮かべるが、優里香は多少強引に話を切り替える。
「私達、もうすぐ二年生になるよね?」
「ああ、そうだな」
優里香のしんみりした態度に思わず千晶も釣られてしまう。
「…………進級してもさ、また同じクラスになれたら良いよね。勿論金山君達も含めてね」
「……そうだな」
そうなって欲しいと千晶は心の中で願うのだった。
「じゃあ、またな白石」
学校を出て、用事ああると言う優里香と別れた千晶はそのまま家路に着く。
その帰路の中で、千晶はこの一年の事に思いを馳せていた。
(一年前の俺が、今の俺を見たらどう思うんだろうな……けど)
「悪い感じはしないな。きっと今の俺を羨ましく思うのかな……それとも…………」
――――ドゴ――――――――――ン!
そんな事を考えていると、千晶の耳に物凄い音が聞こえてきた。
「…………感慨に耽っている暇もないか……」
千晶は近くの物陰に隠れると鞄からリリィに変身する為のペンを取り出す。
「花の精霊よ……私に力を貸して!フラワーメタモルフォーゼ!」
掛け声と共に千晶の身体が光に包まれ、やがて光が収まると千晶の姿は正義の騎士、フラワーナイト・リリィに変身していた。
「フラワーナイト・リリィ見参!」
(相変わらずこの姿は恥ずかしい。けど……)
「罪のない人を守る為、フラワーナイト・リリィ……行きます!」
そう言うとリリィは颯爽と魔物がいる場所に駆け出して行くのだった。
千晶と別れた優里香はそのまま家路についていた。その表情は千晶と話していた時と違い、邪悪な笑みを浮かべていた。
(……とりあえず、千晶はやる気になってくれていた。これで後は天界のヴァルキリー達が介入する前に、封印の鍵を集め終える事が出来れば……)
優里香……ブラックリリィは己の計画が順調に行っている事に内心でほくそ笑んでいた。
するとそんな彼女の前の柱の上に一匹のカラスが止まった。
「クロウ………どうしたの、何か進捗があった?」
そのカラスは彼女が生み出した使い魔であり、彼女の代わりに鍵の探索を行っているのである。
基本、離れていてもブラックリリィとクロウは会話をできる為こうして彼女の前に姿を現す必要は無いのだが余程重要なことがあるときはクロウの律儀な性格の為か姿を現すことがある。
「…………………………」
「クロウ?」
しかしそんな律儀な使い魔は、主人の問いかけに全く反応を示さない。これには流石にブラックリリィも心配の声を上げる。
「…………順調なようだな。ブラックリリィよ」
急に喋り出したクロウだが、普段と違って威厳のある言い方にブラックリリィはある事に気づき頭を垂れようとし、周りを見て踏み止まる。
「主人様!………申し訳ございません。周りの目がありますのでこのままで失礼します」
ブラックリリィの主人……魔王はそんなブラックリリィの態度を了承し、彼女に肩に乗る。優里香は足早に人目の付かない路地裏まで歩いて行く。
「さて、お前の働きぶりに我は満足している。しかし……何故あの小娘に我の一部を渡したのだ?」
路地に着くと魔王はブラックリリィの肩から降り、早速彼女を詰問する。
「申し訳ございません。今の私の力では、天界のヴァルキリーが介入してきたら到底太刀打ち出来ないと思い、奴らが本腰を入れる前に御身を復活させる為、彼女を利用しようと考えました」
ブラックリリィは主人を敬いながらも、堂々と自分の意見を述べる。
「…………確かに、奴らはよっぽどの事が起きないと本腰を上げないからな」
魔王の言葉にブラックリリィは頷く。
「……勝手な行動をした事には変わりありません。しかし私の貴方様への忠誠心に偽りはございません。どうか私を信じてください」
そう言ってブラックリリィは目の前のカラスに頭を下げる。
「良い、お前の働きぶりに我は満足している。近々我の眷属をお前の元に遣わす。これからも我の為に励むと良い」
「はっ!ありがとうございます」
そう言ってクロウはそのまま飛び立って行く。その様子を頭を上げたブラックリリィは黙って見送るのだった。
地上から遥か上空に位置する場所に天界と呼ばれる場所が存在する。
その場所は、古代ギリシャを思わせる建物が等間隔に並び、中央の広場にはかつて強大な魔王と戦い、封印したとされる戦乙女の銅像が建っていた。
「…………………………」
そして一人の女性が真剣な面持ちで、その銅像を見上げていた。
遠目から見れば一見中性的な出で立ちだが、服を押し上げる胸の膨らみが彼女を女性だとたらしめている。
彼女は髪を肩までに切り揃え、白いキトンのような服を着て、頭に木の枝で出来たサークレットを被っていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……隊長〜!」
そんな彼女に一人の女の子が駆け寄っていく。その子も女性と同じような恰好なのだが、顔立ちの幼さから二人が並ぶと姉妹、下手をすると親子に見えてしまう。
「……どうした?」
女の子に隊長と呼ばれた女性は銅像を見上げたまま、女の子に答える。
「ハァ……ハァ……え、えっと神官様達が……会議の準備が整ったので……隊長を……戦乙女アイリ様を呼んで来いと……」
女の子は走ってきた動悸と目の前の女性に対する緊張を抑えながら何とか報告を行う。
「そうか……ありがとう」
女性……アイリはそう言って銅像から女の子の方に向き直ると、彼女の事を労い、女の子が走って来た方向に向かってそのまま歩き出す。
「あっ!お、お供します!」
女の子は顔を真っ赤にしながら女性の後をついて行くのだった。
これにて第一部終了です。次回から千晶達は高校二年生
新たなる戦いが幕を開ける!?
お楽しみに!




