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間章 戦う理由 ③

屋上で優里香と喧嘩してから数日が経過した。

 その間、優里香は俺と目を合わせなかった。実際、普通にクラスメイトとは楽しそうに話しているのは見かけたので、あからさまに俺にだけそう言う態度をとっているようだ。


「なぁ……天風。お前、白石と何かあったのか?」


 流石にそんな状態が数日も続いたためか、金山は何時ものようなテンションではなく、真面目な雰囲気を醸し出しながら俺に話しかけてきた。


「別に……ただちょっと」


 俺は誤魔化すように答えを濁す。原因が原因なだけに流石に正直に言うのは憚られた。


「ちょっとってお前!明らかに白石の態度おかしいだろ!なぁ、一体何が……」


「金山」


 そんな金山を見兼ねてか、中山が話に入ってくる。ただ、何時もと違い、真剣な表情で金山を止めていた。


「これは天風と白石、二人の問題だ。お前が口出す事じゃない」


「けど……」


「悪いな天風。……けど本心を言うなら、俺も金山と同じ気持ちだ。…………早く仲直りしろよ」


 未だ何かを言おうとする金山を連れて、中山は自分の席に向かっていく。


「…………………………」


 俺はふと気になって優里香の方を見る。優里香はクラスの女子と楽しそうにおしゃべりをしている。

 俺が見ているのに気づいたクラスの女子が優里香に何が言っているが彼女は特に意に介す事なくそのままおしゃべりを続けている。


 



 …………結局その後も優里香と話せないまま、放課後を迎えることとなった。






 放課後になって優里香と話をしようとしたが、俺が気づかないうちに帰ったのか既に教室にはいなかった。

 どうしたもんかな……。

 俺はそう思いながら一人帰路に着く。優里香と今のままで良いかと言われれば俺個人としてはかえって都合が良い。元々人と関わりたくない俺としてはこの上なく良い事なんだけど、何かこう……物足りないと言うかモヤモヤすると言うか、何とも言えない感覚に襲われていた。


「……はぁ……」


 俺はふと目に入った公園のブランコに座り、溜息をつく。

 正直どうしたら良いか分からなかった。優里香の事も……あの化け物の事も……

 優里香に言った事は本心だ。俺はもう人と関わりたくない。あんな化け物と戦うなんて……


「お兄ちゃん、お腹痛いの?」


 そんなふうに考えていたせいか。俺は目の前に女の子が立っている事に気が付かなかった。女の子は小学生低学年ぐらいの子で心配そうに俺を見つめていた。


「ああ大丈夫。ごめんな。今退くから」


 俺はその子がブランコで遊びたいと思って慌ててブランコから立ちあがろうとすると、女の子は俺の手を取ってそのまますわらせようとする。


「ううん大丈夫」


 そう言って女の子は我が事のように笑顔を浮かべる。何なんだこの子は?俺とは初対面はずだけど。


「君は一体?」


「私ユイ!小学生一年生」


 俺の問いに女の子……ユイは元気よく答える。何というか元気な子だな〜


「お兄ちゃんが一人でいたから気になったの!あのね、ユイはクラスでリーダーをやっているの!だから困っている人を放っておけないんだ」


 ユイちゃんは自慢げに答える。リーダー……クラス委員かな?なんて言うかそう言うのが似合いそうな快活な子だ。


「そうか。ありがとうなユイちゃん。でも俺は一人でも大丈夫だから」


「どうして?」


 俺の言葉にユイちゃんは首を傾げる。


「俺は一人でいるのが好きなんだ。それに、もう誰とも関わりたくない。だから大丈夫だ」


 正直、ユイちゃんに言うと言うよりは自分自身に言い聞かせるような言葉だ。当たり前だが、ユイちゃんはよく分からないと言う顔をしている。


「えっと、お兄ちゃんは一人で遊ぶのが好きなの」


「そうじゃないけど……」


「じゃあ、ユイと遊ぼう!」


 そう言ってユイちゃんは俺の手を取ってブランコから立たせる。正直振り払う事もできたが、そんな気にはなれなかった。

 こうして、俺はユイちゃんと仲良く遊ぶ羽目になってしまった。






「あははは……楽しかった!」


 それからしばらく、俺はユイちゃんと色んな遊びをした。正直俺はクタクタになっていたが、ユイちゃんはまだ元気そうだ。

 遊びは楽しかった。久々に昔……詩織や優里香と三人で遊んでいたときのような懐かしさを覚えた。


「……俺も楽しかった。ありがとうユイちゃん」


 俺はユイちゃんにお礼を言う。


「えへへ!私も楽しかった。でも……」


 俺はユイちゃんの言わんとしている事が理解できた。空を見上げると、もうそろそろ日が暮れそうになっていた。


「ユイちゃん。あれだったら俺が家まで送って……」


「ユイ――――!」


 俺が家まで送って行こうかと提案しようとすると、公園の入り口にる女性がユイちゃんを呼んでいるのが聞こた。


「あっ!ママだ!ママ――――!」


 ユイちゃんはその女性に向かって駆け出していく。俺は黙ってその様子を眺めていた。

 すると………………


 …………グガァ――――――――――!


 突如、何もない空間からあの化け物が現れた。化け物は周りを見渡すと近くに迫っているユイちゃんに狙いを定める。


「ユイちゃん!」


 叫ぶと同時に俺は走り出していた。化け物はユイちゃんに向かって凶悪な右手を振り下ろそうとしていた。


「えっ……ッ!」


 ユイちゃんが悲鳴を上げる前に、俺はユイちゃんを抱き抱えながら化け物の攻撃を回避する。


「な、何!?……ユイ、ユイ!」


 ユイちゃんのお母さんは状況を上手く飲み込めていなかったみたいだが、化け物と襲われそになったユイちゃんを見て心配の声を上げる。


「えっと、ユイちゃんお母さん!ユイちゃんは無事です」


 俺はユイちゃんのお母さんに心配をかけまいと声を上げる。


「ユイちゃんは俺が何とかします。だから、お母さんは安全な場所に避難して警察に連絡を!」


 このままだと化け物が狙いを変えてユイちゃんのお母さんを襲うとも限らない。俺は彼女にここから逃げるように伝える。

 ユイちゃんのお母さんは少し躊躇ったが、助けを呼んですぐ戻って来ると俺に言って公園から離れていった。


「……お兄ちゃん」


 ユイちゃんは心配そうに俺を見つめる。そんな彼女に俺は大丈夫だと言わんばかりに頷く。

 と言ってもどうするか……そんなふうに考えていると、ふとポケットの中に入れていたある物に気がついた。


「…………これ」


 それはフラワーナイト・リリィに変身できるあのペンのような物だった。


「お兄ちゃんそれ何?」


 ユイちゃんは俺が手にしたペンを見てそう呟く。俺はどう説明しようか考えていると俺たちの目の前にあの化け物が迫っていた。


「なッ……ヤベェ!」


 俺は再びユイちゃんを抱えて化け物の攻撃を回避する。すると、化け物は振り返り俺達の方向にゆっくりと歩いてくる。

 くそ!このままじゃ、助けがくる前に俺達二人ともやられちまう!

 俺はどうなっても良い!せめて…………って、そう言えばあの時もそんな事考えていたよな。俺はユイちゃんを抱きしめながらそんな事を考える。


「…………………………」


………………千晶は変身すればあの化け物と戦える力を持っているでしょ!…………………


 ふいに思い出す数日前の優里香の言葉。 


 …………私はあの時千晶が変身して戦ってくれたから、今も何事もなく過ごす事が出来る。けど、もしあの化け物が、また関係ない人達を襲ったとしたら?警察が化け物を発見しても、全く刃が立たなかったら?……それでも千晶は自分には関係無いって言うの? …………


 関係ないって言いたい。俺のこの力はよく分からないし、人と関わりたくない俺が人助けなんてって、こんな状況でも思っている。

 けど………………


「お兄ちゃん………」


 俺の側で不安そうにしているユイちゃんを……妹みたいな女の子を見ちゃったら、そんな事言ってられないよな!


「ユイちゃん……これから起こる事は、二人だけの秘密な」


 俺はユイちゃんにそう告げると、ポケットからあのペンを取り出し、頭上に掲げる。

 

「お兄ちゃん?」


 ユイちゃんは不思議そうに俺を見つめている。俺はそんな事お構い無しにあの呪文を唱える。 


「花の精霊よ……私に力を貸して!フラワーメタモルフォーゼ!」


 瞬間、俺の身体は光に包まれる。その時の俺は、恥ずかしいとかそんな感情はなくなっていた。

 ただ、この子を守りたい……この子のお母さんに自分と同じような思いをして欲しくない。そう考えていた。


「花の騎士!フラワーナイト・リリィ見参!」


 私は剣を抜き、化け物に突きつける。


「えっ?お兄ちゃん……なの?」


 ユイちゃんはそんな私を驚きの目で見つめている。まぁ目の前でいきなり女になれば当然の反応だよな。そして、化け物はそんな私を脅威と感じたのか一気に距離を詰めて私に襲いかかる。


「お……お姉ちゃん!危ない!」


 ユイちゃんは襲われそうになる私を見て声を上げる。


「…………ハッ!」


 襲い掛かる化け物の攻撃を私は回避しながら、持っている剣で化け物の身体を斬りつける。


「…………凄い」


 ユイちゃんが何か言っているのが聞こえたが、私は気にせず一気に決着つけるべく剣を構え、必殺技を撃つ体制を取る。


「光よ!集え!フラワーナイトスプラッシュ!」


 私は剣先から光の奔流を発生させる。やがて、化け物は光の奔流に包まれそのまま光と共に消滅してしまった。


「ふう…………って、わぁ!」


 化け物が消滅し一息ついていると、ユイちゃんが私に抱きついてきた。


「凄い!凄い!あの化け物みたいなのを一瞬で倒しちゃうなんて……まるでプ◯キュアみたい!」


 そして私に抱きついて興奮気味に捲し立てる。そう言って貰えるのは嬉しいけど……


「ありがとうユイちゃん。でも私の事は……」


「うん!秘密だよね。ユイ、絶対にお兄ちゃんの事秘密にする!」


 良かった、ユイちゃんが良い子で。私達がそんな話をしていると、遠くからサイレンの音が聞こえる。するとユイちゃんの母親と警察官らしき人が公園に入って来ようとしているのが見えた。


「……それじゃユイちゃん。またね」


 私はユイちゃんの返事を待たずにその場を立ち去る。

 正直、この力が良く分かってない状態であまり人に会いたくないし…………


「……ふう」


 しばらく行った後で周りに誰もいない事を確認した後、私は一息つく。

 そして変身を解くとそのまま何事もなかったかのように歩き出す。


「千晶?」


 しばらく歩いていると不意に声をかけられる。振り返って見ると、そこには優里香が立っていた。


「白石……」


 こうしてちゃんと話をするのは何日ぶりだろうか……でも何で優里香は俺に話しかけて来たんだ?


「さっき警察の人が化け物が出たって言いながら公園に向かってたから……もしかしたらって」


 俺の考えている事を察してか、優里香が心配そうに答えてくれた。


「そうか……」


 喧嘩してからだろうか。俺は思わず呟くような言葉になってしまった。


「あのさ、白石。俺……やってみるよ」


「千晶?」


 俺の言葉に優里香は疑問を口にする。

 まあそうか。数日前まであんなに駄々をこねてたのに突然こんな事を言われればな。


「さっきさ、小さい女の子と一緒にいた所をあの化け物に襲われたんだ。そしてその時さ……白石が言ってた言葉を思い出したんだ」


「……………………」


 優里香は俺の言葉を黙って聞いてくれていた。俺はそのまま話を続ける。


「俺が何もしなくて、その女の子に何かあったら……きっとその子の両親は俺と同じような思いをする。そう思ったら変身していた。助けたいと思った。だから俺……やってみるよ!こんな俺が人の為になんて出来るか分からないけど……」


「出来るよ」


 すると、今まで黙っていた優里香が、突然俺の言葉を遮る。


「千晶になら出来る。だって……千晶は大切な人を失う辛さを知っている。そんな千晶なら……ううん。そんな千晶だからこそ誰かの為に戦える。私はそう信じてる」


「白石……」


 優里香の信頼が嬉しい。もしかしたら出来るかもしれない。俺一人だけじゃ難しいかもしれないけど、優里香と二人なら……


「あのさ……頼みがあるんだけど、俺と一緒に戦ってくれないか?」


 俺は思わず優里香にそう言ってしまった。正直虫が良すぎる提案だと思う。


「…………私が言ったときはあんなに嫌がっていたのにね」


「うっ……」


 すごく今更な事を頼んでいると言う自覚はある。けど……もし優里香が一緒にいてくれるなら……


「良いよ」


 すると優里香はしれっと言葉を発する。


「良いのか!」


「千晶一人じゃ頼りないし、私は最初からそのつもりだからね」


 そう言って優里香は俺に手を差し出す。


「ありがとう……優里香」


 俺はそう言って優里香の手を取るのだった。




「それから俺は優里香と二人で化け物を退治していったんだ。と言っても実際に化け物と戦っていたのは俺で、優里香は相談に乗って貰っていただけだけどな」


 話を終えた俺はリリィの方を見つめる。リリィは何か考えているようで下を向いていた。


「……最初はリリィになって戦うのが嫌だった。何より人と関わり合いたくない俺が正義のヒロインなんてって思った。……けど」


 俺は一度言葉を切る。これは俺の正直な想いでもある。


「この力のお陰で、守れた人達がいる。大切にしたい友達も出来た。だから……リリィには感謝している」


 俺はリリィの正面に立つと、彼女の手を取り目を見つめる。


「ありがとう。リリィ。本当は最初にこの言葉を言わなきゃならなかったんだけど……」


 俺は精一杯の感謝を伝える。


「………………ずるいです。千晶は……」


 するとリリィはボソッと何かを呟いた後、顔を上げる。その顔は凄く真剣な表情をしていた。

 

「リリィ?」


「先程も言いましたが、私は貴方に戦いを強いてしまいました。そんな私がこんな事を言うのは今更な気もするのですが、千晶……貴方に頼みたい事があるのです」


 そう言うとリリィは立ち上がり、俺の手を離しすと目を真っ直ぐに見つめてこう言った。

 

「私と一緒に……戦って下さい」


 お願いしますと、リリィはまたしても頭を下げる。

 …………全く本当に、この子は真面目なんだな……

 最初は、もう誰も目の前で失いたくないと思った事から始まった。それから色んな事があり、今こうして人ではないのだろうけどリリィに頼み込まれている。

 俺は未だに妹の死を完全に乗り越えられたとは思っていない。けど、今の俺には守りたいと思える人達が沢山いる。経緯やきっかけは何であれ、俺の戦う理由はそれだけで良い。


「顔を上げてくれ。リリィ……」


 だからこそ、ちゃんと伝えるべきだと思った。この真面目な少女に…………君と俺は仲間だと伝える為に、俺はスッと右手を差し出す。


「こちらこそ……一緒に戦おう!リリィ」


 伝わったかどうかは分からない。けど……

 俺の言葉にリリィは一瞬戸惑いの表情を見せたが、やがて嬉しそうに右手を差し出し、俺達は固く握手を交わすのだった。

  

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