間章 戦う理由 ①
遅くなりました。申し訳ないです。
「……きて下さい……起きて下さい。千晶」
俺は誰かに呼ばれた気がした。眠い目を開けると、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。
一面真っ暗な空間。前に何度か来たことがあるこの空間にも、もう流石に三回目となると特に驚きはしなかった。
「……やっと起きて下さいました」
俺は声のした方を向く。そこには銀髪に白いロングワンピースを着た女の子が立っていた。女の子は俺が目を覚ましたのを確認すると、ほっとしたような表情をしていた。
「リリィ……」
俺は女の子を見てそう呟く。
リリィ……彼女は俺に力を授けた人?で昨日のブラックリリィとの戦いでは俺を励ましてくれたり色々とサポートをしてくれたのである。
「……一体どうしたんだよ?こんな時間に……」
「貴方に、力を授けた経緯をお話しようと思いまして」
俺がリリィを見つめていると、唐突にリリィはそう切り出した。リリィは昨日の戦いで、また近いに会えるとは言っていたがまさかこんなに早くとは思わなかった。
「おいおい!俺はついさっき家に帰って来て、くたくたで休みたいんだ。また後日にしてくれよ」
正直、ブラックリリィとの戦いであれだけの力を使った反動なのか俺の身体はもう限界であった。
「…………………………」
俺がそう言うとリリィは無言で俺を見つめてくる。何ていうか一応凄んでいるつもりなのだろうがリリィぐらいの女の子が凄んでもただ可愛いだけであった。けど、リリィはその状態でずっと俺を見つめてくる。
「…………分かった。分かったから!」
俺は根負けして話を聞くことにした。この様子だと話が終わらないとこの空間から帰してもらえなさそうな雰囲気を感じたからだ。
リリィは胸を張ってえへん!のポーズをとった後、困った顔をする。
「何で俺に力を与えてくれたんだ?」
仕方なくこっちから話題を振ってやる。えへん!のポーズが可愛かったのは秘密だ。
「そうですね。それについては…………少し昔話をしましょう」
リリィは先程とは打って変わって真剣な表情をする。その表情に俺は思わず姿勢を正す。
「この世界には貴方達人間が住んでいる人間界とは別に、天界と呼ばれる場所かあるんです」
「天界?」
俺は思わず聞き返す。天国のようなものだろうか……
「貴方達の認識する所の天国のような所です。彼らは基本人間界とは関わる事はありません。しかし……」
リリィは一旦言葉を切る。
「……ある日、人間界と天界との間に歪が生まれ、そこから異界の魔物達とそれを率いる者が現れたのです。魔物達は人間界に向かうと人間達を襲い、生命エネルギーを奪い取っていきました」
いきなり壮大な話だなと思ったが、ブラックリリィが魔物を使って生命エネルギーを集めていると言っていたのを思い出す。
「生命エネルギーを奪われた人達はどうなったんだ?」
「………大抵は意識不明。最悪の場合は死に至る事もありました」
「…………………………」
それを聞いて、俺は恐怖を覚えるのと同時に魔物を倒してきて良かったと思った。もし、魔物を野放しにしていたら何人の犠牲が出たことか……
「事態を重く見た天界は、魔物の討伐を決意。人間界に戦乙女を派遣しました」
ヴァルキリー………漫画やアニメによく出てくる戦士の名だ。てっきりファンタジーの世界だけの存在かと思ったら実在していたのか。
「彼女達は多くの魔物を倒しました。しかし魔王の力は強大で多くの仲間が犠牲になりました」
ん?……今仲間って…………
「そこで彼女達はある決意をしました。一人のヴァルキリーが犠牲になり、その隙に魔王を封印するという方法です」
俺の疑問に思っている間にもリリィは話を続ける。
「結果は成功。そのヴァルキリーは消滅し、魔王は五つに分けられ、封印されました」
そう言ってリリィは話を切る。
「なぁ……もしかしてそのヴァルキリーって……」
俺は分かりきった質問をする。
「……えぇ、私です。私はあの時消滅したはずだったのですが、魂の欠片が現代で眠っていたみたいです」
リリィは俺の質問に淡々と応える。………何だかその態度がどこか他人事のように聞こえた。
けど彼女の口調は真剣そのもの。とても嘘を言っているようには見えなかった。
「話を続けます。………それから長い年月が経ちました。しかし最近になって、誰かが魔王の力を使い、人間界に魔物を呼び出しているのです」
「ブラックリリィ……」
今まで繋がりが無かった話がここでようやく俺の中で繋がり始めた。
「……多分そうでしょう。私もその時目覚めたのですが、肉体が消滅していて自身では戦う事ができませんでした」
成る程。だからこうして俺の夢などに出てくるしか出来ないのか。
「そんな時に魔物に襲われている貴方達を見つけました」
「あの時か……」
俺は初めて魔物に襲われた時の事を思い出した。あの時俺は自分を犠牲にしていた。そして、そんな俺を守ろうと優里香も魔物に立ち向かおうとしていた。
「貴方は最初、自らを犠牲にしてでも彼女を助けようとしていました。そんな貴方だから、私は貴方に力を託そうと決意したのです」
そうだったのか……実際、あの時リリィが力を託してくれたから、結果的に優里香を助ける事が出来た。
「…………ごめんなさい。千晶」
するとリリィが突然頭を下げる。
「いや、何で謝るだよ?」
「本当はもっと早くこの事を伝えるべきでした。でも、伝えるのが遅くなってしまったせいで貴方に戦いを強いる事になってしまいました。申し訳ございません」
…………まぁ、戦う理由を知らないまま、ずっと戦ってきたけど、それはリリィだけが悪いのか?
「リリィは俺に力を与えた後、どうしてたんだ?」
「…………貴方達の感覚で言うと数カ月前まで眠っていました。貴方の命が危ない時に、無意識に力を貸したこともありましたが、こうして貴方と話ができたのは昨日のあの時が初めてです」
と言う事はウッドデーモンと戦っている時に俺を助けてくれたのはリリィだったか。
「ならリリィは悪くないだろ。そんなに気にする事は無いんじゃないか?」
「ですが……」
リリィは尚も食い下がろうとする。なんて言うか…………責任感が強すぎる気もする。
まあ魔王を封印するにあたって、自身を犠牲にするような子だもんな。何でリリィがそこまでする必要があったのかは分からないが、今は取り敢えずここで言い合ってても埒が明かない。
「なぁリリィ……まだ時間あるか?」
そこで、俺は思い切ってリリィに質問してみた。
「ええ……まだ大丈夫だと」
「なら今度は俺の昔話……ってもそんな昔じゃないけど、俺の話に付き合ってくれないか?」
リリィは頭に❓を浮かべながらも了承してくれた。
正直、俺だって最初から今みたいに人の為に頑張ろうとは思ってもいなかった。
そう……あれはリリィに初めて変身した翌日の事だった…………




