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兆しと陰謀 ①

 とある日の深夜。

 人々が寝静まり外に人っ子一人いない中、一人の少女が異形なる化け物と戦っていた。

 手足に純白のロンググローブとブーツ。髪は銀髪で腰まで届くロングヘアー、身体を包むのはノースリーブのワンピース、背中にかけて垂れ下がる純白のマント、額に花を模した金のティアラ、左腰に一振りのサーベルを履いた美少女である。


「グガァ――――――!」


 そんな少女に咆哮を上げながら異形な化け物が迫っていた。化け物は二メートル近い巨体で、トカゲを二足歩行にしたような出で立ちをしていた。化け物は少女に近くとそのまま極太の腕を振り下ろす。

 普通の人が当たれば良くて大怪我、当たりどころが悪ければ即死する勢いである。


「……フッ!タァ――――!」


 しかし、少女は臆する事なく掛け声と共に腰の剣を抜き放ち、化け物の腕を切り落とす。


「グギャァ――――――!」


 化け物は斬られた右腕の痛みにのたうちながら、少女から距離を取る。


「一気に決めます!光よ!集え!フラワーナイトスプラッシュ!」


 少女は剣を構え直し、化け物に剣の先端を向ける。すると、剣先から光の奔流が溢れ、化け物を包み込む。やがて光が晴れると、そこに化け物の姿はなくなっていた。


「ふぅ〜」


 少女は化け物の消滅を確認し、安堵の息を吐く。

 すると…………


 ……パチ……パチ……パチ……


「凄い。流石リリィちゃんね」


 彼女の背後にある電柱の上に一人の少女が立っていた。少女は先程の少女……フラワーナイト・リリィに拍手を送っていた。

 その少女は全身を黒一色で統一した出で立ちだった。夏に着るような黒いワンピースを着て長い黒髪をそのままストレートにし、黒いヒールを履いていた。


「ブラックリリィ……」


 リリィは拍手を送る少女……ブラックリリィを睨みつける。ブラックリリィはその視線を意に介す事なくゆっくりと電柱からリリィのいる地面に降り立つ。


「私の生み出した魔物をいとも簡単に倒すなんて。うんうん……やっぱリリィちゃんは強くなったわね」


 ブラックリリィは一人納得したように頷く。


「……どういうつもりですか?ブラックリリィ」


 そんなブラックリリィの言葉を無視し、リリィは問いかける。その声は何処か怒気をはらんでいた。


「どういうつもりって?」


「惚けないでください!次は貴女が相手になると言っていたのに、何で毎回見物ばかりしているんですか!?」






 この街には人に害をなす魔物が度々出現していた。そして、そんな魔物を倒す正義のヒロインも存在していた。

 名を花の騎士 フラワーナイト・リリィ

 彼女は数ヶ月前、隣の県の森林公園にて魔物の主人と名乗る少女、ブラックリリィと出会う。

 彼女はその時、次は自分が相手になると言い、その場を去った。

 そして現在…………ブラックリリィは月に十回程度、こうして魔物と共に現れるのだが、今回のように毎回共に連れて来た魔物のみ戦わせ、自らは高みの見物を決め込んでいるのだった。





「何でって言われても……今日は私の運勢最悪だったから、あまり気乗りがしないのよね」


 そしてこのやり取りも、もう何回も繰り返して来たのである。

 ある時は体調が優れないから………

 ある時は雨が降りそうで濡れるのがイヤだから………

 ある時は見たい深夜アニメがあるから等、様々な事を言って直接対決をしないできたのである。


「ふざけないで下さい!じゃあ何で、貴女は毎回街中に魔物を放って人を襲おうとしているんです か!?」


 リリィ自身、いい加減堪忍袋の緒が切れそうになっていた。彼女の正体は高校生。毎回毎回こんな時間に街に魔物を放たれてはたまったものではないのである。


「まあまあリリィちゃん、そう怒らないの。せっかくの可愛い顔が台無しよ」


「ッ!誰のせいで!」


 ブラックリリィの言葉に、リリィの怒りは限界に達し、そのまま彼女に斬りかかる。

 しかし、ブラックリリィはジャンプして回避し、そのまま宙に浮かび上がる。


「じゃあまたねリリィちゃん。またそのうち会いにいくから」


 そう言ってブラックリリィは空を飛んで立ち去ってしまった。


「ッ!……待って!」


 リリィは追いかけようとするも、相手は空を飛んでおり、空を飛べない彼女では到底追いつく事が出来ない。

 リリィは諦めて彼女の家がある方に向けて一気に駆け出す。そしてしばらく行った後、彼女は路地裏に隠れ辺りを見回す。誰もいない事を確認すると彼女の全身が光に包まれる。そして光が収まるとそこにはリリィとは似ても似つかない一人の男の子がいた。


「くそ!ブラックリリィ……今日も戦えなかった。…………さっさと家に帰って寝よう」


 リリィの正体……天風千晶はそう言って、歩いて直ぐの所にある我が家に入っていくのであった。






 翌日、千晶は眠い目を擦りながら学校に登校していた。


「おはよう」


「おう。おはよう」


 教室に入ると中にいたクラスメイトが千晶に挨拶してくる。千晶はそんなクラスメイトに挨拶を交わしながら自分の席に座る。


「ふわ〜あ〜。眠い…………」


 千晶は机に突っ伏し寝の体勢に入る。


「おはよー。相変わらず眠そうだね千晶」


 するとそんな千晶に一人の女子が声をかける。

 彼女の名前は白石優里香。

 千晶の幼馴染である。


「おう。おはよう白石………いつもの事だ。察してくれ」


 千晶はチラッと白石を見つめ、再び寝る体制に入ろうとする。


「……あぁなるほど。千晶も男だもんね。ごめんね、気付かなくって」


 そんな千晶の態度に優里香は一人納得したように頷く。その言葉に千晶は慌てて起き上がる。


「おい!なに勘違いしてるんだ白石。そう言うんじゃ……」


「お~す天風」


 千晶が優里香の勘違いを正そうとしていると、一人の男子生徒が千晶に話しかけてきた。

 彼の名前は金山。入学当時から千晶に話しかけて来たクラスメイトだ。


「おう。おはよう」


「おはよう。金山くん」


 優里香は金山の存在に気付き挨拶をする。


「おお!おはよう白石。つか天風、なに朝から大声出しているんだ?」


 金山は白石に挨拶を返しながら、先程から気になっていた事を千晶に問いかける。


「別に大した事じゃ…………」


「そうそう。千晶が毎日お盛んで、毎日寝不足だって話をしていただけだよ」


 千晶が答えようとすると、その言葉を遮り、優里香が答える。


「マジかよ……さすが俺の親友だぜ」


 優里香の答えに金山は感心したように頷く。


「いや。だから!」


「照れるな照れるな。男は皆な多かれ少なかれそういうものなんだ……ところで天風、昨日の夜は一体どう言う物で………痛ぇ!」


 金山は優里香に聞こえないように千晶に耳打ちしようとすると、後ろから別の男子生徒に頭を叩かれる。


「…………お前は毎度毎度、そうやって面倒くさい絡みをするなって言ってるだろう!」


 そう言って男子生徒は金山を叱りつける。すると金山は頭を手で抑えながらその男子生徒の方に向き直る。


「別に、ただ普通に男としての話をしてただけだろう。殴る事ないだろう中山」


 叱りつけた男子生徒……中山は金山を言葉を無視して千晶の方に向き直る。


「おはよう天風。毎回言っているが、金山の馬鹿の事は無視して構わないからな」


 中山は金山とは小さい頃からの幼馴染で、小中高とクラスもずっと一緒なのである。そんな金山の性格を知り尽くしている中山は、やたらと千晶に絡むたびにこうして苦言を呈しているのである。


「別に大丈夫だ。と言うか、白石が何か勝手に勘違いしているのを勝手に間に受けているだけだし」


 実際、千晶は金山の事を嫌っていない。入学当時、千晶は周りと距離を取ろうしていた時期があった。その時に優里香以外に話しかけてきたのは、金山である。最初はウザいと思ったこともあったが、今ではそれが有り難いと思う時もあるのだっだ。


「何だよ。違うのか……じゃあ何で寝不足なんだ?」


「お前と違って天風は勉強したりしているんだろう。そろそろ学期末テストもあるし」


 金山の疑問に中山は自分の考えを述べる。今は二月末。来月の頭には学期末のテストを控えているのである。


「ああ〜そういえばそんなのもあったな。やっべ!俺全然勉強してねぇわ」


 中山の言葉に金山は別の意味で頭を抱える。


「なら今日の放課後、皆でテスト勉強しないか?一人でやるより捗ると思うし」


 千晶は話題が逸れた事を良しとしてそのまま話を続ける。その言葉に一番に食い付いたのは金山だった。金山は千晶の手を両手でガシッと掴みとる。


「……天風、お前良いやつだな。頼む!俺に勉強教えてくれ!」


「別に良いけど……と言うかまだ二人の予定とか聞いてないから、今日やるかどうか分からないし……」


 金山の懇願に、千晶は若干引きながら優里香と中山の方を見やる。


「私は大丈夫だよ。ただ、余り遅くなると両親が心配するから、そんなに遅くまでは付き合えないけど」


「俺も特に予定は無いし、帰ったら勉強するつもりだったから好都合だな」


 優里香と中山はそう言って頷く。その言葉に千晶は頼もしさを感じた。千晶自身そこまで成績は悪くないのだが優里香は学年でトップの成績優秀者だし、中山も学年トップ五に入るほどの秀才である。

 自分が教えるより、彼らから勉強を教わった方が遥かに身になると思っていたのだ。


「よーし。じゃあまた放課後な」


 金山は上機嫌のまま千晶達の前から去って行った。中山も千晶達に一言挨拶してそのまま去って行った。






 


「……ブラックリリィのことだよね。寝不足なの」


 昼休み。二月ながら季節外れの陽気だった為か、屋上でお昼を食べようと言う優里香の提案に乗っかり、屋上でお昼を食べていると唐突に優里香が話しかける。彼女は千晶がフラワーナイト・リリィである事を知っている唯一の人物である。


「……気づいてたんなら最初からそう言えよ」


 千晶はお弁当のおかずを箸で摘みながら優里香に言う。ちなみに、千晶は好きなおかずは最後に取っておく派である。


「だって、流石にクラスメイトが聞いているかも知れない所で、リリィの話をする訳には行かないでしょ」


 そう言って優里香は大好物のおかずを口に運ぶ。ちなみに彼女は千晶とは逆に好物は先に食べてしまう派である。


「まぁ……そうだな」


 優里香の言葉に千晶は納得し、二人は黙々と弁当を食べる。


「……アイツは最初に会った時、次は自分が相手になると言っていた。けど実際は魔物をけしかけるだけで何もしてこない。ただ高みの見物を決め込んでいるだけ……一体アイツは何がしたいんだ?意味が分からねぇよ」


 弁当を食べ終わり、千晶が口を開く。その口調は何処か怒りを含んでいる。


「…………えい!」


 すると、同じく弁当を食べ終わった優里香が千晶の両の頬を引っ張る。


「……ほい!ふゃにふるるだひはいし!」


 千晶は抗議の声を上げながら優里香の手を掴み、頬を引っ張るのを止めさせる。


「ごめんごめん。でも千晶、ちょっと焦りすぎじゃない」


 優里香は謝罪をしながら諭すように言う。


「…………どう言う意味だ?」


 優里香の言葉に千晶は先程までの怒りを忘れ、優里香に問い返す。


「相手の思惑が何処にあるかは分からないけど、千晶は魔物を倒して街の平和を守っている。今はそれで良いんじゃないかな」


 優里香は優しく千晶に問いかける。その表情はとても穏やかな表情だった。


「けど、ブラックリリィを放っておくわけには……」


「ねぇ千晶。どうしてそんなにブラックリリィに拘るの?」


 優里香は真面目な顔で問いかける。その言葉に千晶は押し黙ってしまう。


「…………どうしてって、奴を倒さないと魔物が現れて、関係ない人達を襲ってしまうだろ。そんな事も分からないのか!?」


 千晶は怒りを露わにしながら優里香を問い詰める。しかし、問い詰められている優里香は表情を変えぬまま答える。


「……さっきも言ったけど千晶は街の皆をしっかり守っている。ブラックリリィが何を考えているか知らないけど彼女ばかり意識し過ぎて、千晶にもしものことがある方が心配だわ」


 優里香は真剣な表情で千晶を見つける。その視線に千晶の頭も冷える。


「……悪い。八つ当たりみたいな事言って」


 千晶は優里香に謝罪する。


「別に良いわ。私も聞き方が悪かったし」


 優里香は気にしていないと言うように弁当を片付け始める。


「あのさ、白石……」


 冷静になった千晶は優里香に何か聞こうとする。

 すると…………


 ――――――キーンコーンーーーカーンコーン――――――


「あ!授業始まっちゃう。千晶今何か言った?」


 千晶の言葉はチャイムに重なって優里香の耳に入らなかった。


「いや何でも無い。行こうぜ!授業始まっちまう」


 千晶も弁当を片付けて、そのまま屋上から出ていく。


「あっ!待ってよ千晶」


 優里香も千晶の後を追って屋上を出ていくのであった。




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