父への恨み
喋れるようになってからの僕は自分で言うのもなんだが、天才少年であった。
王族の兵法や礼儀作法を母から学び、武術を優秀な兄に教わった。
一万を超える本を読んだ結果、普通の大人よりも賢かった。
この世界が今の体制になったのは王である父が八人の部下を率いて小国達をまとめ上げ、八人の部下と自分の九人で分けて支配したからである。
だが今、この世はその八人の部下が争い合っている。なぜ父はそれを止めないのだろうか。
そうやって順調そうに見えた僕が十歳になる一ヶ月前、義兄三人、義姉二人、妾三人が馬車にて内乱の様子を視察に出かけた。一番上の義兄は18歳で立派な騎士であった。故に危険は無いと判断されていた。
ちなみに僕と母は僕が九歳だから、正当に王座を受け継ぐものだから、と置いて行かれた。
…馬車は名もなき盗賊団に襲われた。
乗っていたものは全員死亡、盗賊団には逃亡を許した。
母はこの戦乱の世だ、盗賊は無数にいると言っていたものの義兄も義姉も我が子のように思っていたためとても悲しんでいた。
僕はみんなと仲良く過ごす時間が好きだった。みんなとご飯を食べる時間が好きだった。みんなと遊ぶ時間が好きだった。
故に、みんなを殺した盗賊が許せなかった。盗賊を生み出した戦乱が許せなかった。戦乱を収めない父を許せなかった。父の部屋に行き、問った。
「父上、なぜ戦乱を収めないのですか」
「収めないのではない、収められないのだ」
父はそう言ったっきり何も喋らなかった。
俺は憤った。父は自分の国などどうでもよいのだとそう思った。
俺は怒った。自分の中に内包されている魔力を全て開放した。
俺は悲しんだ。この世界を消し飛ばす魔力を放とうとした。
俺は哀れんだ。英雄譚に出てくる父はもっと格好良かった。
…そのとき父の影が動き、手をこちらに向けた。みるみる魔力が俺の中に戻っていく。
ーー気づくと俺はなにもない草原の上空にいたーー