夕方のお誘い
「…あのさ、夏希」
「うん」
「まだ夜にもなってないのにさ、あれなんだけど」
「うん?」
「…しない?」
控え目なお誘いに、少し驚く。理由はわからないが、無理をしているんじゃないかと少し心配になる。
「ありがとう、ゆめ。すぐにでも押し倒したいくらいに嬉しいよ」
「!」
「でも、無理はさせたくないな」
僕がそう言えば、ゆめは不安そうに瞳を揺らした。
「…ダメ?」
「ううん。いっそ抱きたい。ただ、それなら…ゆめの気持ちを確かめてから」
「え?」
「なにを無理してるの?なにを我慢してる?…なにが不安なのかな」
「!」
驚いた表情のゆめに、なるべく優しく微笑む。
「ゆめのこと愛してる。だから、不安もなにもかも払拭してからイチャイチャしたいんだ。とびきり幸せなえっちがいい」
「夏希…」
涙目のゆめを抱っこする。
「大丈夫。僕は味方だよ。だから、教えて?なにが不安なのかな?」
「…夏希は優しいから」
「ん?」
「傷跡残っちゃったけど、気にしないって言ってくれると思うけど、でも、やっぱり…だから、えっちしても気にしないか見たかった…」
「…」
優しいから、か。愛してくれるから、って安心して欲しかったところなんだけど。
「ごめんね、ゆめ」
「…っ」
「僕の愛の伝え方が良くなかったね」
静かに涙を流すゆめと目を合わせる。
「確かに聞かれたらまあ傷跡なんて気にしないって普通に言うけどさ。僕は優しいから、傷跡なんて気にしないって言うんじゃないよ」
「…?」
「本当に気にしないから、気にしないの。ゆめのこと愛してるから、痕くらいで好きになったり嫌いになったりしない。だって、ゆめの全部が愛おしいもん」
「…!!!」
「ゆめを構成する要素の一つとして、痕ごと愛するよ。まあただ、傷を見るたびに守れなかった後悔はどうしても感じると思うけど…自分に失望するだけ。ゆめは、まるっと全部愛してるよ」
ぼろぼろ泣くゆめを抱きしめる。
「愛してるよ。ごめんね、優しいからなんて不安にさせて。こういう時すぐに愛してくれてるからって心から安心してくれるように、もっと愛を伝えるよ」
「夏希ぃ…」
「ゆめがびっくりして逃げないようにゆっくり愛を伝えていくつもりだったけど、いっそ最初から全部伝えておけばよかったね。ごめんね」
「夏希ぃ…っ」
もう、遠慮はやめようと誓った。ゆめが僕の愛を確信できるように、全部伝える。
…それはそれとして、せっかくお誘いいただけたのでゆめの不安も払拭できたところで泣き止んだら押し倒そう。そうしよう。
そんな僕の算段も知らないゆめは子供みたいな顔で泣く。あの女のことを聞いた時とは違う静かな泣き方だけど、とりあえず安心はしてくれたみたいでホッとした。
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