僕はどうしてしまったんだろう
教会で、アンナに謝罪をしてから九年が経つ。
あれからも我が公爵家は未だに他の貴族から付き合いは避けられているが、なんとか付き合いを始めてくれた家もある。
商人たちも段々と付き合いを戻してくれている。
特産品の売り上げも次第に伸びて今では元に戻った。
リナの実家の伯爵家も同じような状況だ。教会での謝罪が効いて、数年かけてどうにか両家は危機的状況を脱した。
「リナ、今日は子供たちは?」
「元気に遊びまわって、勉強も頑張っていましたよ。今はぐっすりと寝ています」
あれからリナは、病弱だからと甘えなくなった。そして、我が公爵家と実家の伯爵家のために信頼回復に努めている。
その姿勢に、僕はリナに惚れ直した。そしてそんなリナのために、僕も同じく努力した。
そしてなんとか結婚して、今では子供にも恵まれている。
綱渡りの幸せで、決して気は抜けないがそれでもすごく幸せだった。
そのはずだった。
その日たまたま都合があって夫婦で訪れた王都。そこで号外の新聞を見たら、アンナと第三王子殿下の結婚が載っていた。
「嘘だろ…」
「…」
ふと隣を見れば、リナは驚くほど静かに新聞を読んでいた。特になんのリアクションもないリナを見て、僕は自分を恥じた。
リナはもう、過去を反省して大人になったんだ。いい加減僕も自分のやらかしを認めて受け入れ、次に進むべきだ。
そのために、ここまでリナと二人三脚で努力してきたんだから。
「…リナ、行こうか」
「はい、クレマン様」
その日、用事をさっさと済ませて午後までに帰らなかったのが全ての失敗だった。
「お幸せにー!」
「ご婚約おめでとうございます!」
パレードを見てしまった。アンナと第三王子殿下の、ご婚約をお披露目するそれ。
リナは相変わらず美しい。子供を産んでもなおその美貌を保っている。
けれど、どうしてだろう。
お神輿の上で第三王子殿下と共に微笑むアンナは、すごく美しく見えて。
あんな平凡な女だったはずなのに、すごく綺麗になっていて。
「「「「「………おーっ!!!」」」」」
歓声が上がった。
第三王子殿下が、アンナの頬にキスをした。
その光景を見て、クラクラする。
ああ、やっぱり僕は…間違えた。
そう自覚した。
「…はぁ」
それからどうやって帰ったのか、覚えていない。
気付けば屋敷に戻っていた。
なにかとため息が出る。
アンナの、第三王子殿下にキスされた時の顔が忘れられない。
美しかった。
「…ああ」
僕は自分から、あの幸せを捨てたのだ。
僕は自分の過去を呪って、そして今の幸せを見ていなかった。
それがきっと、悲劇の引き金だったんだ。




