第三王子殿下の婚約者は
けれどそう。
私がもうすぐお世話係もお役御免になるなら、これだけは決めてもらって見届けてから退職したい。
…サミュエル様の、婚約者。
「ずっとずっと気になってたことなんですけど、退職が近いなら余計に気になることがひとつあるんです」
「なに?」
変わらない笑顔で聞き返される。
「サミュエル様の婚約者です!なんでまだ決まらないのでしょうか。色々事情があるのは存じておりますが、早く決めて第三王子妃として教育も受けていただきたいのです!私はサミュエル様が心配です」
「ああ。そのことなんだけど、水面下で話が決まってたりするよ?」
「え!?なんで教えて下さらなかったのですか!」
「アンナを驚かせたくて」
悪戯っぽく笑うサミュエル様。可愛い。
「で、どんな方なのです?」
「公爵家のお嬢さん。九歳差なんだけど」
「え、幼すぎませんか?」
「逆。相手が上なの」
「え!?」
ビッくらポンだ。
「サミュエル様がいいならいいんですけど、いいんですか?」
「いいも悪いも、僕の方から懇願した婚約だし」
「ああ、それならいいんです。サミュエル様の幸せが第一ですから」
どんな相手でも、サミュエル様を幸せにしてくれる人ならば構わない。
でも心に決めた相手がいるなら一番に相談して欲しかったな、なんてお世話係としては思ってしまう。
そう思ってたら、想定外の爆弾が落っことされた。
「そう、アンナにそう言って貰えてよかった。というわけで、第三王子妃教育頑張ってね」
「え?」
サミュエル様は今なんて?
「アンナが僕のお嫁さんになるんだよ。驚いた?」
「…えー!?」
「あはは。だってアンナは公爵家のお嬢さんだし、教養も正直充分だよ?だからすぐ結婚できるだろうし、問題ないじゃん」
「そういうことじゃなくて!」
「好きだよ」
短いその言葉に、私は思わず固まる。
「愛してる。アンナだけが僕の心の支えだ。これからも、そばにいてよ」
「で、でも」
私は九歳も年上で、その上お世話係としてずっとそばに居たわけで。
サミュエル様と婚約なんて、許されるのだろうか。
「アンナ、僕は誰になにを言われようがアンナがいい。アンナは、僕のそばに居たいと思ってくれないの?」
そこまで言われると、言葉に詰まる。
私だって、サミュエル様のそばに居たい。
恋愛対象として見たことは正直なかったし、恋愛感情があるかと聞かれれば答えられないけど。
それでもサミュエル様の一番近くにずっと居たい。
私は結局、気付けば頷いていた。
「わ、私でよければ…」
私はサミュエル様に強く抱きしめられる。
「わっ」
「愛してる、本当に、心から!」
こうして私は、気付けば思わぬ幸せを手にしていたのでした。




