幼馴染と婚約できて、幸せになれるはずだった
最近、我が公爵家との付き合いを断る家が増えた。高位層の貴族ならともかく、男爵家や子爵家の連中でさえ遠回しに距離を置こうとする。
だが、原因は分かっている。僕だ。
僕がアンナを捨てるような真似をしたから、第三王子殿下のお世話係であるアンナを蔑ろにしたから。
王家から、不興を買ったのだ。
僕が全てを間違えたのだ。
「僕は、なんてことをしてしまったんだ…」
社交界で爪弾きにされた。助けてくれる友人もいない。そしてその全ては、僕の行いの結果だ。
けれど、それだけならばまだなんとかなったかもしれない。
だが、王家の不興を買うということを僕は理解していなかった。
「我が領の特産品のワインを、誰も買おうとしない…」
上質なワインが我が領の一番の代名詞。しかし、近年でも特に上等なワインが出来たというのに誰も買ってくれない。
結果税収はもちろん減り、また当然領民たちも苦しめることになった。
領民たちに罪はないのだと訴えても、後の祭りでしかなかった。
王家に献上することすらあったワインだが、それすら突き返される始末。
もう、僕の失敗は取り返しがつかないのだと知った。
「…でも、だからといって領民たちをこれ以上苦しめることは出来ない」
なので、国外に売るしかない。とはいえ、輸出しようにも商人たちも扱いたがらない。我が家との付き合いで、王家の不興を買うのを恐れてのことだ。
だから、国内の商人ではなく一箇所に留まることをしない旅商人に目を付けた。
旅商人にワインを売る。足元を見た値段で買われることにはなったが、なんとか領民たちの収入に繋がった。その分の税収も入ってきて、とりあえずは一安心だ。
「だが、今回の件で領民たちからも反発があり、当然信用は失われた」
僕のせいで領民たちは危うく飢えるところだったのだ。当然の反応だ。
そしてこの状況が続いてしまえば、ワインだけでなく他の特産品の販売にも影響するだろう。
「…謝罪が、必要だ」
賠償金は払った。だが正式な謝罪はしていない。
我が国では、教会にて正式に面と向かって謝罪すれば許されるという教えがある。…謝罪を受ける側が拒否しなければ、それで手打ちとなるのだ。
それをするのは貴族にとって最も屈辱的で面子も丸潰れなので、過去に二、三しか例がない。だが、それをすれば外野はこれ以上口は出せない。
アンナがもし謝罪を受け入れてくれるのなら、我が家は助かる道がある。王家ももうこれ以上何も言えなくなるし、外野の貴族たちも我が領の特産品の買い控えを表立ってはし辛くなる。
「…リナを説得して、アンナに二人で頭を下げて謝るしかない」
リナは受け入れてくれるだろうか。箱入り娘の彼女は、この屈辱に耐えられるだろうか。




