王妃殿下との交流
「…サミュエル」
「ご機嫌麗しゅうございます、王妃殿下。どうかされましたか?」
「甘いものは好きですか」
「はい」
「ちょうど良い菓子が手に入りました。食べに来なさい」
サミュエル様のお世話係に復帰して数日。王妃殿下がサミュエル様をお茶に誘いにきてくださった。サミュエル様はどうかな…?
「そういうことでしたら、ぜひ」
「行きますよ」
「はい。アンナ、行こう」
「は、はい!」
ということで、サミュエル様と王妃殿下の二人きりのお茶会が始まった。私たち使用人は近くに控えるけれど口を挟むことはもちろんない。
「…これです、食べなさい。菓子が甘いのでお茶はすっきりとした味わいのものにしましたが、問題はありませんね?」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「甘いものに甘いお茶はくどいと思っただけです。礼を言われることはありません」
「では、いただきます」
サミュエル様は一口お菓子を食べる。
「…美味しい。美味しいです、王妃殿下」
「そうですか」
短い言葉だけを返す王妃殿下だけれど、その表情はほっとしたような感じに見える。
「…このお茶もとてもお菓子に合ってます。すごく美味しい」
「私のお気に入りです。当たり前でしょう」
ツンツンした態度の割に、さらっとお気に入りの茶葉を使用してサミュエル様に振る舞う王妃殿下。すごく素敵な方だと改めて思った。
「それと、これを受け取りなさい」
「これは?」
「貴方の母親の肖像画です。国王陛下から強奪してきました」
「ご、強奪…」
「あの人ばかりが持っていて、貴方が母の肖像画を持っていないなどおかしいでしょう。さあ、受け取りなさい」
ぐいぐいと持ち運びも便利なサイズの肖像画を押し付ける王妃殿下。サミュエル様は困惑した表情だが、受け取った。
「…これが、僕の母ですか」
「ええ。今まであの人が肖像画の全てを占領していましたから、きちんと見る機会もなかったでしょう」
「はい。なんだか、少しイメージと違いますね」
「そうですか」
「…ありがとうございます、王妃殿下」
ぎゅっと額縁に入れてある肖像画を抱きしめるサミュエル様。王妃殿下は、少し気まずそうに目を逸らす。
「…礼を言われることはありません。もう少し早く渡すべきでした」
「充分です」
「そうですか」
なんだか、このやり取りでお二人の距離が少し縮まったように感じた。気のせいかもしれないけれど。
「サミュエル」
「はい」
「あの人に不満があれば、いつでも私に言いなさい。あの人に一番モノを言えるのは私です」
「ふふ、はい」
やっぱり、距離が縮まった気がする。




