シスコンとの話し合い
「…つまり、妹と第三王子殿下の婚約を結べと」
「まあ、そうなる」
「………」
冷たい目に凍えそうになる。立場は私の方が圧倒的に上なのに、なんだこの緊張感。
「妹とクソ野郎との婚約破棄の王命…それには感謝しています。国王陛下のおかげです」
「ああ…」
「第三王子殿下が妹に好意を寄せてくださったのも有難いお話です」
「…そうか」
「しかし、妹は婚約破棄をしたばかり。しかも、相手は年下の王族。今そのお話を受けて仕舞えば、妹がなんと言われるかわかったものではない」
まあ、その通りだと思う。
「…ですが、無下にもできないお話です。妹にとって悪い話ではない」
「…そ、そうか」
「そもそも、妹を傷物にした責任をとって頂かないといけませんし」
箝口令を敷いたのになんだが、兄君には正直に話をした。今回の婚約の打診にあたって、必要だと思ったからだ。…結果、このように怒りを買ったが。だが、話して逆に良かったかもしれないな。
「…あと数年後、第三王子殿下が結婚適齢期になる頃」
「…うむ」
「それまで第三王子殿下が変わらず妹を愛してくれていたなら、望んでくれていたならば…お受けしましょう」
「ふむ」
「それまではこちらも新たな婚約は結びません。神に誓います。ですから、そちらも第三王子殿下が他の子を望まない限り他の女性と婚約は結びませんように。この条件で良いのなら、喜んで受け入れます」
…サミュエルは第三王子。王位はラジエルが継ぐし、ラファエルもいる。言い方が悪いがサミュエルに子供は特に期待していない。なのでこちらとしてはそれで問題ないが。
「こちらは問題ないが、そちらは良いのか?」
「…表沙汰にならないとはいえ、妹は傷物にされてしまいましたから。下手なところにはむしろ嫁がせられない。第三王子殿下が本当に、何年も待つほどに妹を愛してくれるのならば…反対する理由がないのです」
「…すまない」
「いえ。妹は自分より第三王子殿下を優先したということですから。それだけ第三王子殿下を妹は愛しているのです。それは、きっと妹にとっては幸せなことだ」
…妹を本当に愛しているのだな、この兄は。
「…なら、サミュエルにはそう伝えよう」
「ええ」
「アンナ嬢には?」
「婚約が正式に決まるまでは秘密で。でないと妹は、第三王子殿下には自分よりもっと良い女の子がいるとか言い出しかねません」
「そうか…」
せっかく優秀なのに、自己評価は低いのだな…。
「とりあえず、正式にはまだだが婚約は内定している…という状況で数年待つということでいいのだな?」
「ええ」
「では、数年後。良い返事を聞けるのを楽しみにしている」
席を立つ。シスコンはようやく少しだけ怒りを鎮めてくれたようで、見送りの時はなんとか和やかな空気で別れられた。




