王妃からの唐突な話
「国王陛下、私です」
「王妃か、入れ」
「はい」
王妃の方から来るなど珍しい。手ずからお茶を用意して、迎え入れる。
「今日はどうした」
お茶とお菓子を出して、向かい合って座る。王妃はやや遠慮がちだが、お茶とお菓子は受け取った。
「アンナのことです」
「…ああ」
「サミュエルと婚約させてください」
思わず、口に含んでいた茶を吹き出した。
「ごほっごほっ…」
すかさず王妃が私の隣に来て、背中をさすってくれる。落ち着いた頃、ハンカチで顔を拭いてくれた。
「な、なぜそのような…」
「サミュエルが望んだのです。アンナとの関係を」
「なに?」
「貴方の息子だけあって、恋に盲目ですよ。でも、貴方の時より理性的です」
「…」
困った。
「貴方の時と違って、公爵家の娘で実績もある子です。お互い想い合ってもいます。ラジエルとラファエルも賛成だそうですよ」
「愛情の種類は違うのではないか?」
「…そうかもしれません。ですが、アンナは…傷があります。下手なところに嫁がせるより、愛してくれる相手に嫁ぐ方がマシでしょう」
「…ふむぅ」
まあ、それはそうだが。
「私は少し怖い」
「なにがです」
「…アンナ嬢の兄君は、シスコンだ」
王妃は目を見開くと、久しぶりに公務以外で私に笑った。
「そこは、貴方のカリスマで頑張ってくださいな」
…王妃は、笑うと少し幼い表情になる。過去の私は、どうしてこの愛らしさに気付かなかったのだろう。




