王妃と少年
「…サミュエル、今いいかな」
「はい、ラジエル兄上」
そろそろ寝ようとしていた時、ラジエル兄上が部屋を訪ねてきた。なので、返事を返す。
…ラジエル兄上は、なぜか王妃殿下を連れてきた。
「…王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「畏まらずとも良いです。顔をあげなさい、サミュエル」
「はい」
「今日は二つ用件があります」
「なんでしょうか」
僕は、ラファエル兄上から暗殺未遂事件の大体の話は聞いている。だからこそ、王妃殿下のことは特に恨んでいない。
なので、冷たそうなこの人が実は不器用なだけで可愛らしい人なのも知っている。そして、多分今回の件で自責の念を抱いているのも。
だからこそ、王妃殿下の意に沿えるようにはしたいのだけど。
「…なにか、望みはありますか」
「え…アンナとずっと一緒にいることです」
「…それは、主従としてですか」
「いえ、出来れば男女として」
きっぱりと言えば王妃殿下は目を丸くした。
「…やはりあの人の子ですね。恋をすれば盲目ですか」
「父上よりは冷静なつもりです。…母のいた頃の父上は、話でしか聞いていませんが」
「まあ、そうですね。…身分は申し分ない、実績もある子です。掛け合えば、彼女の兄の反対さえなければいけるでしょう」
「…!」
ラジエル兄上をちらりと見れば、ぎょっとしていた。そりゃそうだ。
「いいんですか?」
「私から国王陛下に進言します。ラジエルとラファエルの反対があればまた考えますが」
「母上、私もラファエルも全面的に賛成です。父上に頼むなら私とラファエルの名前も出してください」
「いいでしょう」
あれよあれよとトントン拍子で決まっていく。いいんだろうか。都合はいいけど。
「あと、もう一つ」
「はい」
「私と仲良くしなさい」
「え」
「あの子からのお願いです」
…ああ、アンナだな。うん。
「もちろんです」
「あの子が回復した頃に、お茶にでも誘います。来なさい」
「はい」
「では、私は戻ります。…どうか、幸せに」
それだけ言って、背を向ける王妃殿下。
「王妃殿下」
「なんです?」
「ありがとうございます」
「…礼を言われることはなにもありません」
出ていった王妃殿下に、見えないだろうけど頭を下げる。
ラジエル兄上も王妃殿下に続いて部屋を出る。
「…王妃殿下、本当は僕に責めて欲しいんだろうな」
まあ、そうしないのが罰ってことで許して欲しい。あんなに傷ついた人を嬲る趣味はないのだ。




