懺悔にもならない
「…」
手が震える。
怖い。
お父様。
「…どうして」
私は。
私のせいで。
「…サミュエル」
あの子に罪はない。
意地を張っていたのは私。
あの子の名前も顔も覚えていたのに。
一度も接触しなかった。
仲良くしていれば、お父様は止まった?
「お父様…」
お父様に罪を負わせた。
お父様は、多分許されない。
公にはされないだろう。
でも、きっと閉じ込められる。
一生籠の鳥。
「…お兄様」
お兄様にも罪を負わせる。
お父様から立場を奪い、幽閉するしかなくなった。きっと、そうでないと許されなくなった。
お兄様は悪くない。
お父様も悪くない。
私が全部悪いのに。
「ラジエル…」
普段は抑えているのだけど、許容量を超えるとはっちゃけるあの子。
きっと、お父様に怒りを燃やしてる。
賢いから、今回の暗殺未遂にお父様が関わっていると推察しているだろう。
私を恨んで。
お父様は悪くないの。
「…ラファエル」
強気に振る舞うけれど、その実心配性で色々考えているあの子。
きっと、ラジエルと一緒で大体の流れは察している。
お父様を嫌いになったに違いない。
優しい子だからこそ、一度嫌いになれば二度とは許してくれない。
…お父様は、私のことばかりかまうけど。ラジエルとラファエルに愛がないわけじゃなかったのに。
「みんなみんな、私のせいで…」
国王陛下も。
きっと御心労に苦しんでいらっしゃる。
私が支えなくちゃいけないのに。
私が守ってあげたい人だったのに。
国王陛下も傷つけた。
「…ああ、そして。一番の罪はきっと」
あの世話係、アンナとかいう健気な子。
本来なら、守ってあげるべきだった。
せめて、巻き込まれないように。
女の子に傷がつく。それも嫁入り前の姫君に。
その意味を知らない私ではない。
「私は…たくさんの人の人生を台無しにしました…」
…ああ、どうか恨んでください。
憎んでください。
許さないでください。
私は悪い子です。
どうか、罰をお与えください。
「…けれど、きっとそうはならない」
何故ならば私は、王妃だから。
ラジエルとラファエルの母だから。
立場ある者を罰するのは、とても難しい。
ならば自ら罪滅ぼしをしなければならない。
私にできる罪滅ぼしは。
「…サミュエルとアンナが、元気になったなら。二人に望みを聞きましょう。どんなことでも叶えましょう。それでもきっと許されないでしょう。…許されないことを望みます。どうか、憎んでもらえることを望みます」
そして、その上で。この期に及んで、わがままを言わせて欲しいのです。
「どうか、あの二人の幸せを、そして愛する子供たちの幸せを…国王陛下の幸せを、兄の幸せを、お父様の穏やかな終わりを…」
そして私の、凄惨な終わりを。
「どうか、どうか、叶えて欲しいのです。どうか、どうか。この命と引き換えで構わないから、どうか」
神がいるなら、天使がいるなら、悪魔がいるなら。誰でもいい。叶えてください。
どうか、許してください。




