弟に甘える
まあ、ともかく。
「落ち着いた頃に父上のところに直談判に行こうね。アンナの兄君にもお話しようね」
「…はい」
「さてさて、よかったよかった。話もまとまったところで…ちょっと、地下牢に行ってこようかな」
「そんなところになにを」
「決まってるだろ」
にっこり笑えば、ラファエルは青ざめる。
「兄上、いけません。そういうのは俺に任せて」
「うん、そうだね。大丈夫、なにもしないよ」
「…」
「どうせ内々に処理される男だ。腹に蹴りを入れたところで誰にも知られないし、なにもしないのと同じだろう?」
「兄上っ…」
…別に、冷静なわけじゃない。頭に血が上ってる。だから、一旦落ち着こう。可愛い弟と義妹になる子を脅かした奴をちょっと弄るだけなら、問題ない。
「兄上、わかりました。わかりました、あの男は代わりに俺が痛めつけておきますから」
「うん、そっか。でも私も参加していいだろう?」
「兄上、落ち着いてください。弟のお願いです」
「………」
…うーん。
「…ラファエルは、私には手を出して欲しくない?」
「はい」
「…むかつくんだけどなぁ。だめ?」
「ダメです」
「…わかったよ。その代わりラファエルもダメだよ?」
私の言葉にぎょっとするラファエル。
「え」
「ダメでしょ。お兄様が我慢するんだから」
「…は、はい」
「まあ、多分一番えげつない毒で処理されるだろうしね…チッ」
「兄上」
久しぶりに舌打ちなんかした私を目線で注意する弟に頷いておく。
「…仕方ない、サミュエルの顔を見て寝ようかな」
「ええ、そうしましょう。俺ももう一回サミュエルの顔を見に行こうかな」
「あれ?さっきまで付き添ってたじゃない」
「誰かさんのせいで疲れたんですよ…」
誰かさんね。可愛い弟だなぁ。じゃあもっと疲れさせてあげようか。
「…暗殺者は」
「!」
「あのジジイが仕向けたんだろうね。母上のことしか見ていない老害のくせに」
「兄上、滅多なことを…」
「殺したい」
ぎょっとするラファエル。けれど、同じことを考えていたんだろう?
「…でも、ダメだよ。ラファエル。お兄様も我慢するんだから、ダメだよ」
「…はい」
「さて、疲れ果てたところでサミュエルに癒されに行こうか」
「やめてください、本当に」
その後、サミュエルの寝顔を見て癒された私とラファエル。サミュエルは可哀想なことに、朝からずっと言葉が出ていないらしい。はやく回復するといいのだけど…。
「そうだ、ラファエル。お兄様は今日疲れたからラファエルも癒してね」
「え」
「今日は幼い頃のように共に寝ようね」
「え!?」
「あはは、懐かしいなぁ」
わたわたする弟を捕まえて寝室に引っ張る。精神的に参ってるのは本当なので、癒されたいのだ。許して欲しい。




