情け無い声にニコニコになる
「…兄上」
「やあ、ラファエル」
「アンナは?」
「目が覚めて、また寝たよ」
「…」
ラファエルがアンナの様子を見に来た。目敏い子だ、アンナの涙の跡に気付いたらしく痛ましげな表情を浮かべた。
「…もう、サミュエルのそばにはいてもらえないでしょうか」
「ああ、それ逆だよ」
「え?」
「お世話係を辞めるか聞いたら、泣いて嫌がったよ」
「…兄上が泣かせたんですか!?」
信じられないモノを見る目を向けられるけど、まさかあんな反応されると思わなかったんだよ。
「いや、だって怖い思いをさせたし痛かっただろうし。優しさのつもりだったんだけど」
「ええ…」
「…ただ、本気で拒絶されたからね。泣かせちゃったし、仕方ないからお詫びに逆のことをしようと思って」
「逆?」
「サミュエルとアンナが永遠に一緒に居られるようにしようと思って」
私の言葉に首をかしげる弟に微笑む。
「サミュエルとアンナの婚約を取り付けるから、協力してね」
「え」
「もう決定事項だからよろしくね。アンナがサミュエルのそばを望んだんだから仕方ないよね。ずっと一緒にいられるって聞いて喜んじゃうアンナが悪いよね」
「あの」
「サミュエルも幼い憧れなんかじゃなくて、可哀想なくらいアンナが好きだってわかったんだし…これって、愛情の種類は違ってももう両思いだよね?応援してあげないと」
ラファエルが両手で顔を覆って情けない声を出した。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…みたいな。なんでそんな反応をするんだろう。
「いや、あの、兄上」
「なに?」
「反対じゃなかったです?」
「そうだね。反対する理由がなくなったね」
「………」
再び両手で顔を覆って情け無い声を上げる弟に、私の弟たちは可愛いなぁと思う。
「大丈夫。アンナには後悔しないでねってお願いしといたし。年下趣味があるといいね」
「………」
「ああ、そうなるとアンナは可愛い同い年の義妹になるのか。とても良いね」
「………」
「私の愛する婚約者と仲良く義妹としてお茶会するアンナかぁ。コリンヌは美しいものが好きだから、誰よりもアンナを気に入るだろうね。コリンヌも喜ぶだろうし…うん、いいんじゃない?」
それが理由じゃないですか…と項垂れるラファエルに笑う。そりゃあまあ、婚約者を愛するのも喜ばせるのも私の務めだからね。人から好かれやすいアンナが悪いね。おそらく確実に愛するコリンヌの好みなアンナが悪いね。
「…アンナには拒否権は」
「決定事項だって言ったろう?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」
「あのクソ野郎…公爵家の彼と別れられたんだもの。少なくともマシだよ。ね?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」
ということで、ラファエルと一緒にキューピッドにでもなろうかな。




