少年はお世話係の様子に気付く
「アンナ」
「はい、第三王子殿下」
「…大丈夫?」
「え?はい、大丈夫ですよ」
にっこり笑うアンナに、やっぱり違和感。
アンナがなんだか、荒れている。
「アンナ、なにかあったら教えて。僕が守ってあげる」
「第三王子殿下…」
可愛いアンナが、こんなにしんどそうにしているなら。
その原因は、排除しないとね。
「…実は」
「うん、どうしたの?」
「元婚約者と、浮気相手だった幼馴染から手紙が来て」
「浮気相手」
「はい」
なんてことだ、この間兄上たちがなんやかんや言ってたのはそういうことか。理解できてなかった。ちゃんと頭に入ってなかった。
「…それで、どうしたの」
「元婚約者と浮気相手の幼馴染が、私と別れたら大手を振ってプロポーズをして婚約したって…」
「なにそれ」
ムカつく。
「それで、二人が結婚できるのは私のおかげだって、ありがとうって書いてあって…」
「人の神経逆撫でるような手紙だね」
「そうなんです…」
そりゃあアンナも荒れるわけだ。
「アンナ、アンナは悪くないからね」
「第三王子殿下…」
「本当にムカつく連中だね」
どうしてくれようか。ラジエル兄上とラファエル兄上に言いつければなんとかしてもらえるかな。でもあんまり頼り過ぎるのは良くないな。
「うーん」
「第三王子殿下?」
「…まあでも、相手の有責で破談になったんだよね?」
「そうですね」
「なら、醜聞は放っておいても広まるだろうし。アンナは僕のお世話係だからよっぽどの人じゃないと傷つけようと考えないだろうし。むしろ現状アンナの独り勝ちじゃない?」
僕の言葉にアンナは大きな目をぱちくりさせる。
「そうでしょうか?」
「多分ね。ほら、貴族とかって結局見栄を張るのが当たり前な生き物でしょう?なのに醜聞が広がったらそれこそ最悪じゃない」
「…おっしゃる通りですね」
家庭教師の先生が教えてくれた、貴族社会という魔の巣窟。それは、僕からすれば考えられないほど醜く恐ろしい世界。いつかは僕もそこに加わらないといけないのだけど…。
だから、そんな世界で生きるアンナの元婚約者と浮気相手の女性は…今は良くても、そのうち辛くなるはずだ。
まあ、アンナを傷つけたんだから天罰だと思うけど。
「ということで、あっちがそのうち根を上げるだろうから嫌味なんて無視していいと思うよ」
「…そうですね、ありがとうございます」
うんうんと頷いて、にっこり笑ったアンナにホッとする。
「なんだか、第三王子殿下に愚痴を聞いていただけて少しスッキリしました。本当にありがとうございました!」
「いいんだよ。可愛いアンナのためだもの」
「ふふ、第三王子殿下は本当に優しいですね」
「アンナに褒められると嬉しいね」
まあ、僕からすれば。そんな奴がアンナの婚約者だったおかげで、アンナの婚約を破棄させて一緒にいられるようにできたのだから感謝しないでもないけど。それは秘密だ。




