とある男の新たな婚約
僕はクレマン・ヒューゴ・マルタン。公爵家の嫡男だ。
僕には生まれながらの婚約者がいた。アンナ・ミラ・ディオール。うちと縁のある公爵家の長女だ。彼女が嫁いでくるはずだった。
けれども僕は、彼女を愛することが出来なかった。
何故ならば。
「僕は本気で、リナを愛しているから」
ピンクのふわふわした綺麗な長い髪と、同じくピンクの可愛らしいまん丸な瞳を持つリナ。そんなに可愛いのに、身体つきは出るところが出ている色っぽさもある。
茶髪で茶色の瞳のありふれた容姿のアンナより、幼馴染で気心も知れていて可愛いリナに惹かれるのも仕方がないだろう。
また、リナは病弱で放っておくとどこかに消えてしまいそうな儚さがあった。だから目が離せなかったのもあるかもしれない。
「でも、そのアンナのおかげでリナと結婚できる」
アンナは、僕に相手にされないからと拗ねて第三王子殿下のお世話係の仕事をし始めた。
冷遇されている王子の世話係になってなんの得になるのかと呆れていたが、アンナはラッキーだ。第三王子殿下はアンナが世話係になってから元気になり、冷遇されていたのも改善された。
そして、アンナを何故か気に入ったという第三王子殿下のためか、王命でこの婚約の破棄が命じられた。
国教で厳格に禁じられた不貞行為を云々と言われたが、そんなのどうせ今時誰も気にしないだろうに。アンナは僕に捨てられたと今頃メソメソ泣いているだろうな。
「でも、僕にとっては好都合」
何故ならばリナと結婚できるから。婚約さえなくなれば、僕はフリー。さらに普通は公爵家と伯爵家では…と言われかねないところだが、有責での婚約破棄のため他の縁談は来ない。両親は結婚してくれるなら誰でもいいと言っていた。これでリナにプロポーズできる。
そしてプロポーズは成功。アンナとの婚約破棄程度で何故か意気消沈している両親からは反対もなく、リナの両親は歓迎してくれた。これでリナをお嫁さんとして迎えられる。
両親は最初は僕を責めたが、金を払えば解決するだろうと言えば黙った。
「多額の賠償金は痛かったけど、払えない額ではなかった」
我が家の貯金は全て無くなったけど、借金もなく領地も豊か。お金なんてすぐに戻ってくる。
「これでやっと、リナと幸せになれる…!」
ここまでくるとアンナには感謝しかない。僕とリナの幸せのために第三王子殿下のお世話係になってくれたのではないかと思うほどだ。
「アンナ…もう、直接は言えないけれど。ありがとう、本当に」
邪魔でたまらなかったアンナだけれど、今ではアンナには心から感謝している。
そう言えば、義兄になるはずだった彼…ヴィクトル殿は最後に何か言っていたけれど、あれはどういう意味だったんだろう。
「〝第三王子殿下のお気に入りという立ち位置は、案外バカにできないぞ〟…か」
もしかして、僕をリナに奪われたのが悔しくてあんなことを言ったのかな。
そうだな、そうに違いない。確かに可哀想なことをしたとは思うが、どうか許してほしい。僕だって、好きな子と幸せになりたいんだ。




