とある少年のわがまま
「ラジエル兄上、ラファエル兄上。ご相談があります!」
何故かぷんすこと怒りながら、ラファエルとカードゲームに興じていた私のところに来たサミュエル。いつもそばにいるアンナはいない。
「あれ、アンナは?」
「アンナは置いてきました!」
「なんだぁ?喧嘩か?」
笑うラファエルに、サミュエルは抱きついた。
「え、え、どうした」
「ラファエル兄上…アンナがどっか行っちゃう…」
「え、え」
「結婚したら、お仕事辞めちゃうって…婚約者がいるって…どうしよう…」
ラファエルの腕の中で泣くサミュエル。可哀想だけれど、そういう事情ならば仕方がない。
「サミュエル、あまりわがままを言ってアンナを困らせちゃだめだよ」
「やだぁっ!」
「サミュエル…」
滅多にわがままを言わない子だから、なんとかしてあげたいけれど…。
「その婚約者殿とアンナの仲はどうなのかな…」
「あー…兄上、噂で聞いたんですけど」
「なに?」
「アンナは、婚約者に浮気されているようです」
「は?」
自分の声が低くなるのがわかった。アンナはサミュエルの恩人。それを蔑ろにするなら許さない。
「アンナの婚約者は、病弱な幼馴染とやらにのめり込んでいるらしくて。そっちばかり優先して、婚約者であるアンナは邪険にされていたらしくて」
サミュエルはまだ話がわからないようで、首を傾げている。アンナから純粋培養されてるから仕方ないね。
「なので、邪魔しても問題ないです」
「そう、わかった。ありがとう、ラファエル」
「いえ」
「サミュエル」
「なに?」
きょとんとする末の弟に、悪い顔で囁いた。
「婚約、邪魔しちゃおうか」
「…うん!」
ぱっと笑顔になる弟に、私は悪巧みをする。とりあえず婚約については父上の王命で破棄してもらい、父上の権限でアンナをこのまま働かせてもらおう。
父上は今までサミュエルを冷遇してきた。それはサミュエルが与えられるべきだったものを、奪ってきたのと同じこと。その償いとして協力していただこう。
そういう理由であれば、頷かないわけにはいかないだろう。
「ラファエル」
「うん?」
「とりあえず婚約については、王命で父上になんとかしていただこう」
「そうですね、兄上」
どうやら同じことを考えていたらしい弟が頷いた。
「私たちは、どう制裁を加えてやろうか」
「あんまり表立っては出来ないですからね。…ああいや、やる必要ないかも」
「え?」
「〝第三王子殿下のお気に入りの女の子に捨てられた哀れな男〟ってレッテルを貼ってやればいい。それで十分でしょう」
案外弟は、こういう時に知恵が働く。賢い弟に恵まれて、私は幸せだ。
「そうだね、私たちが処断する必要もない。そうしよう」
「じゃあまあ、そういうのは俺に任せてください。兄上はイメージ戦略も大事でしょう?」
「そうだね、任せるよ」
首を傾げて話を理解しようとする末の弟に、分からなくていいよと頭を撫でた。




