私は結婚適齢期に
第三王子殿下のお世話係になってから三年が経った。時間の流れは速い。私は今年で十八歳で、第三王子殿下は今年で九歳だ。
つまり私は結婚適齢期となった。この仕事も、そろそろ潮時かもしれない。…結婚の話が進めば、辞めざるを得ないだろう。
「はぁ…寂しいな。でも、出来る限りのことは出来たよね」
幼く病弱だった第三王子殿下はすっかりやんちゃで元気な少年となった。もう体力と免疫力と筋力はしっかりついたし、美形揃いの王族の中でもピカイチの美少年となっている。
教養も、本人が天才だったおかげと家庭教師の先生のおかげで充分年齢相応以上の能力を身につけていらっしゃるし。
「この三年で、少しでも第三王子殿下の助けになれていれば嬉しいな」
昔の冷遇が嘘のように、大切な王子様として可愛がられるようになった第三王子殿下。今ではたくさんの侍従と家庭教師まで付いている。
つまり、私がいなくてももう大丈夫ということだ。
そんな第三王子殿下の専属のお世話係として、私も今ではかなり厚遇してもらえるようになっていたけれど…タイムリミットは近い。
「アンナ、アンナ」
「は、はい!第三王子殿下、どうしました?」
「ぼおっとしてどうしたの?大丈夫?」
「あ、いえ、その…」
ちょっと迷って、正直に打ち明けることに決めた。
「私、婚約者がいまして」
「うん」
「結婚したら、お仕事を辞めないといけないかもしれないんです」
私がそう言うと、第三王子殿下は慌てる。
「だ、だめ!そんなのだめ!」
「第三王子殿下…」
「ねえ、その婚約が無くなったら一緒にいてくれるの?どうしたらいい?」
「第三王子殿下」
第三王子殿下を抱きしめる。
「大丈夫です。アンナは離れていても、第三王子殿下のことを思っていますから」
「アンナ…」
「心はずっと一緒にいます。だから、寂しくないですよ」
私としてはとても寂しいけれど、第三王子殿下にとっては私は使用人の一人に過ぎない。新しいお世話係が決まれば、私のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。
だから、第三王子殿下は寂しい思いはしない。大丈夫。…それがとても寂しいなんて、私はちょっとわがままが過ぎるかもしれないけれど。
「…アンナ」
「はい」
「僕は絶対諦めないからね!」
甘えてくることはあっても、わがままは言わない第三王子殿下。珍しくわがままを言ってくれたのが、それも私が居なくなるのを寂しがってくれるのが嬉しくてついにやけてしまう。そんな私に第三王子殿下はさらにぷんすこと怒る。
「もう!笑わないでよ、アンナの意地悪!」
「す、すみません。つい、可愛らしくて」
「アンナが大好きだから言ってるんだからね?」
んんんんんんん、九歳になってもなおのこと可愛い!
「私も第三王子殿下が大好きですよ」
「…うん」
出来れば、ずっとお側にいたいくらいに。




