とある貴族の心情
「…ということですので、お父様。第三王子は本宮に移りますわ」
「なんというっ…!恥知らずめ!」
娘の前で情け無い姿を見せてしまう。テーブルに拳を打ち付け、怒りで顔を真っ赤にする。
「お父様、私は気にしておりませんから。どうかお怒りを鎮めてくださいませ」
「アベラ…」
なんと優しい子なのか。自分の夫を寝取った女狐の子供すら庇うだなんて。
「だが、子供たちにも悪影響なのではないか?」
「そのことなのですが」
アベラは目を伏せる。
「子供たちは、第三王子のことをずっと憂いていたそうなのです。私は、それに気付くことが出来なかった…」
「ああ、アベラ…っ!大丈夫だ、そんなに落ち込むな!それはお前のせいではないっ!」
「お父様…」
可愛いアベラ。お前はどうしてそんなにも優しいのか。女狐の子と仲良くする孫たちを責めることもしないなんて。
「孫たちには、私から話をしておこう。さて、どうやって止めさせるか…」
「いえ、お父様。どうかラジエルとラファエルを責めないでやってください」
「アベラ…」
「…わかっているのです。あの子たちの方が正しいと。あの子たちにとっては、第三王子は腹違いとはいえ兄弟。大切にするのは美徳です」
ああ、やはりアベラは心も美しい。
「どうか…第三王子を本宮に迎えることをお許しください、お父様」
「アベラ…ああ、アベラ。お前がそう望むのなら、私もそれを認めよう」
「ありがとうございます、お父様」
却ってその方が、暗殺もしやすいだろうしな。
「だが、アベラ。無理はしてはいけないよ」
「お父様…」
「お前は優しくて心の綺麗な良い子だ。だからこそ、お父様はお前が心配なんだ。優しすぎるお前に付け込もうとする者は多いだろう。どうか、第三王子の件は気にしないでゆっくり休んでおくれ」
アベラの頭を優しく撫でる。アベラは、少女の頃のように照れ笑いを浮かべた。
「ふふ、お父様ったら。大丈夫ですわ。私なら大丈夫です。私には、お父様がついていますもの」
アベラの嬉しい言葉に、胸が熱くなる。可愛いこの子を守ることこそ私の務めだ。
「だからお父様、危ないことはなさらないでね」
…娘の言葉の意味を取り違えるほど馬鹿な私ではない。アベラは、第三王子を暗殺してくれるなと言っている。ああ、なんと優しい子なのか。
だからこそ、私は。
「大丈夫。アベラが心配することなど何もないよ」
「お父様…」
そう。アベラが心配する必要もないほど、完璧に暗殺をこなそう。証拠一つ残さずに、もちろん私の手は汚さずに。
「…さあ、そろそろ私もお暇しなくては。今日は美味しいお茶をありがとう。またいつでも声をかけてくれ。愛おしい娘からのお茶の誘いは嬉しいものだからね」
「はい。また一緒にこうして過ごせるのを楽しみにしております」
穏やかな笑顔で手を振る娘に頬が緩む。が、馬車に戻ると第三王子の暗殺のことで頭が埋め尽くされた。




