とある王妃の心
「第三王子を、離宮から本宮に…ですか」
「ああ」
…受け入れられない。受け入れられるはずがない。だって、あの子の母がこの人を狂わせたのだ。
たとえ非が国王陛下にあろうとも、私は彼女を許せない。
その子である第三王子の助けには、なってやれない。
「受け入れられません」
「…」
「なぜ、急にそのようなことを?」
さすがに急過ぎる。誰かに唆されたのなら、それを罰する必要もあるだろう。
「子供たちが…」
「ええ」
「ラジエルとラファエルが、サミュエルの処遇を改善して欲しいと私に願い出たのだ」
頭をガツンと殴られたような気がした。
「ど、どうしてあの子たちが?」
「…半年も前から、あの子たちは短い時間だが毎日交流しているそうだ」
「え…?」
そんな、どうして。
「なんでも、あの子たちは昔からサミュエルを心配していた…らしい。それでも、サミュエルの乳母に邪魔をされ交流は出来なかった。だが、サミュエルの乳母を解任した半年前からは毎日会っているそうだ」
「そんな…」
「サミュエルに仕えるメイドたちの証言だから、間違いはないだろう。サミュエルを心配していたというのも、ラジエルとラファエルの口から聞いたそうだ」
そう言われて、私は情け無い気持ちになる。子供たちのあの子への気持ちなど、考えたこともなかった。
次世代を担う王子たち。けれど、私の愛する子供たちでもある。
あの子たちのことは理解しているつもりだった。
「…私は、子供たちのことを何も知らないのですね」
「そのようなことはない。あの子たちはそなたを思って意図的に気持ちを抑えていたのだろう」
「であれば、なおのこと情け無いです」
子供たちに気を遣わせるなんて。
「…ラジエルとラファエルは、あの子を気にかけているのですね?」
「ああ、末の弟としてとても可愛がっているらしい」
「そして、あの子の処遇に納得していない」
「そうだ。ラファエルとラジエルは、サミュエルを本宮に移し相応しい教育を受けさせることを望んでいる」
「…」
彼の母への憎しみは消えない。この人への不信感も拭えない。けれど、我が子たちの優しさを踏み躙るほど卑劣な女にはなりたくない。
「…わかりました。では、そのように」
「いいのか…?」
「我が子の願いを踏み躙るほど落ちぶれておりませんわ。…けれど」
国王陛下を見つめる。
「どうか、第三王子を優遇したりなさいませんように。国を守るのはラジエル。それを支えるのはラファエル。第三王子は、飾りです」
「…優遇はせぬ。ただ、もう一つ頼みがある」
「聞きましょう」
「第三王子のお世話係に、褒美を与えたい」
…私も。チラチラと第三王子の世話係の噂は耳にしている。その働き振りはとても真面目で、公爵家の姫君であることも考えればたしかに褒美を与えるのはおかしな話ではない。過度でなければ、働き者を称える機会はあってもいいだろう。
…第三王子への優遇にカウントするようなことではない。であれば、私からどうこう言うことでもない。
「わかりました。では、そのように」
「ありがとう」
国王陛下は、話が終わると部屋を出ていく。その背中を、不安そうに見つめる私になんて気付かないまま。




