とある国王の決断
二番目の息子の背中を見送った後、ため息をつく。息子に慰められるようでは、まだまだだ。
第三王子であるサミュエルは、最近では走り回れるほど元気になったらしい。咳もまだあるが、頻度は減った。
それだけでも驚いたのに、今では読み書きや簡単な計算も覚えて、子供向けの小説を読んだりしているらしい。
メイド曰く、絵心もあるとか。サミュエルにつけたお世話係が、サミュエルの絵を自慢してきたらしい。
思えば、全てはあのお世話係をサミュエルにつけてから変わった気がする。
「体調も良くなって、必要最低限の教養だけはお世話係に教えてもらったらしい。見た目も王家の血筋と一目でわかる美しさ、だとか」
…本宮に迎えるにあたって、サミュエル自身には心配はなさそうだ。
後の心配は…。
「暗殺者に狙われないか、だが」
とはいえ、現状もう離宮も安全とは言えないかもしれない。ならばいっそこちらに移らせて、守りをガチガチに固めるのが最善かもな。
「…たまには、子供たちの言うことにも従うべきか」
それであれば、サミュエルを本宮に迎えるにあたって準備が必要だ。
新しい家具に、子供服も新品を用意して。
守りを固めるために、騎士団の中でも精鋭を特殊部隊として編成する必要もある。
それと…王妃にも話を通さなくては。
「明日、王妃との時間を作ろう」
正直気まずいが、言わないわけにはいかない。
「問題は…」
義父。王妃の父。彼はサミュエルを本宮に迎えることを許さないだろう。
「であればどうするべきか…」
義父の耳にこの話は必ず入るだろう。
「…困った」
耳に入らないうちにさっさと迎え入れるしかない。が、それで大丈夫だろうか…。
「それと…お世話係をどうするか」
今まで一人に任せていたが、そろそろ別の世話係も…いや、でもサミュエルのお気に入りだと聞くし、下手に交代させたりすると却って良くないか。
「むしろ、お世話係に褒美をやるか」
今まで第三王子のために頑張ってきたのだ。褒美は与えてもいいだろう。
「サミュエルの国民たちへのお披露目はいつにするべきか…」
考えることが山積みだ。私はベルを鳴らす。
「お呼びですか?」
「蜂蜜たっぷりのホットミルクを用意してくれ。至急考えるべきことが出来た」
「かしこまりました」
考えるべきことを全て紙に書き出す。一つ一つ考えた答えを書いていく。その間にホットミルクが出来て、一息ついてまた机と向かい合った。
息子たちと向き合う時が来たのだから、いい加減もう逃げられないだろう。
自らの罪を、彼らにまで背負わせてはいけない。大丈夫、今の私ならばきっと向き合えるはずだ。
「…ああ、でも。どうか許して欲しい」
息子を傷つけたかったわけじゃないのだ。…なんて、言い訳にもならないけれど。




