第三王子殿下にメロメロ
この半年で、私はすっかりと第三王子殿下にメロメロになっていた。気付けば婚約者のことなどもう悩まなくなっていた。
「アンナ!早く早く!」
「はい、第三王子殿下!」
体力と免疫力と筋力がついてきた第三王子は、走り回ることも出来るようになった。庭に出て走って薔薇園の方に向かう第三王子殿下。走るとかなり足が速い。追いかけるのもなかなか大変だ。
「アンナ、見て見て!蝶々だよ!」
第三王子殿下はそう言って、やっと追いついた私に見て欲しいと薔薇園を指差した。
「おー、綺麗な光景ですね」
「可愛いね!」
にこにこの第三王子殿下に、すっかりと元気になったなぁと安心した。
ちなみに、夜に起こる咳の頻度は大分減った。悲しいことに咳はまだ出てしまう時はあるけど、それでも随分と楽になったと聞いている。
「ねえ、アンナ」
「はい、第三王子殿下」
「今日は、あそこのベンチで膝枕して欲しいな」
薔薇園の近くのベンチを指差す第三王子殿下。
「膝枕ですか?構いませんよ」
そう言ってベンチに座り、第三王子殿下に膝を貸す。
「ああ、アンナの膝枕は安心するね」
「それは良かったです!」
第三王子殿下がリラックス出来るように、頭を撫でる。
「第三王子殿下、今日はこのまま少しお昼寝しちゃいますか?」
「いいの!?うん、そうする!」
嬉しそうな第三王子殿下。頭を撫でつつ、子守唄を歌う。
そうすると、うとうととし始める第三王子殿下。頭を撫でたまま、子守唄を歌っているまま、第三王子殿下の手持ち無沙汰な様子の手をそっと握る。
「アンナ…」
「はい、第三王子殿下」
「おやすみ…」
「はい、おやすみなさい」
「…大好き」
可愛いことを言って寝始める第三王子殿下に内心ノックアウトされつつ、その眠りを妨げないように気をつける。
「第三王子殿下、よく頑張りましたね」
この半年、第三王子殿下は本当によく頑張った。苦手なものもたくさん食べて好き嫌いを克服したし、体力と免疫力と筋力も付けた。
お勉強も、私の拙い教え方でもしっかりと覚えてくださる。今では読み書きは完璧で、書く字も年相応の上手さ。計算も足し算引き算は覚えてくれた。でも、そんな第三王子殿下だからこそ教育係がいないのはもったいないと思う。
「…いつか、第三王子殿下を冷遇する今の流れが変わるといいな」
第三王子殿下は、ちゃんと教育を受けたらすごく優秀になるはず。だからこそ、国王陛下にはきちんと第三王子殿下と向き合って欲しい。そして、冷遇するのをやめてたくさんのものを第三王子殿下に与えてあげてほしい。
「第三王子殿下、私は味方ですからね」
第三王子殿下にこれからたくさんの幸せが訪れるように、お世話係の私が頑張るんだ。
ぎゅっと手を握る。第三王子殿下は、幸せそうに笑って寝ていた。




