とある国王の話
ミカエル・ユルリッシュ・アルテュール。この国の王としてその任についてから、私は為政者としていつも正しく在ろうとした。
王妃との間に愛はなかったが、国を共に支えるのだと手を取り合い信頼し合っていた。
子供にも恵まれた。
国は安定し、誰もが私を理想の王だと言った。
そんな中で、彼女に出会った。
「セシール…」
我が三人目の息子の母。側妃セシール。
彼女には、大した後ろ盾もない。それどころか、ただの踊り子だったのだ。
だが、彼女に一目惚れ…初めての恋をした私は狂ってしまっていた。
「もちろん、彼女は悪くない。悪くないのだ…」
彼女は側妃として召し上げられるのを嫌がった。身分を考えろとまで言った。せめて公妾にしてくれとすら言った。しかし初恋に浮かされた私はそんな彼女を側妃にした。
彼女は嫌がったのに、たくさんのプレゼントを贈った。そんな状況で、彼女がどう見られるかも気にも留めずに。
いつからか彼女は、傾国の美女だとさえ噂された。その彼女は、子を産んですぐに亡くなった。母の居ない息子は、離宮に隔離した。
彼女を失った当てつけでは、決してない。ただ、私のせいで彼女と息子の評判は地に落ちていた。
息子を守るために、敢えて隔離したのだ。王妃のいるこちらより、あちらの粗末な離宮の方がいっそ安全だから。
「私も老けたものだ…」
伸ばしっぱなしの金髪に濁り始めた青い瞳。彼女を失ってから、生気がなくなったとさえ言われる。
ああ、けれど。
「彼女と息子には、本当に罪はないのだ。私一人が恋に狂っただけなのだ…」
それを言えば、まだ王は目が曇っていると言われるのがオチだけれど。
「…たしか、あの子には新しい世話係がついたらしいな」
会いにすら行けない息子。その乳母が役から外れ、代わりに新しい世話係がついたと聞いた。その世話係は、積極的に息子の面倒を見て健康にも気を遣ってくれているらしい。
離宮のメイドたちの中で、私の息のかかった者が言っていたので間違いはない。
「良い世話係に恵まれたようで良かった…」
息子の幸せを願うしかない私だが、この環境にもいずれは限界があるのもわかっている。
「私はこれから、どうすべきなのだ…」
守りたい。けれど限度がある。
可哀想な息子。私のせいで生まれながらに枷をはめられたあの子に、してあげられることがあれば良いのに。
「…私は、無力だ」
全ては、恋に盲目になった自分の自業自得なのだ。息子は悪くないのだ。どうか、神よ。
「私に振り回された息子たちを、皆助けてやってください」
祈るしか出来ない私を、どうか許してほしい。




