とある次兄の話
ラファエル・ヴァンサン・アルテュール。この国の第二王子。それが俺。
為政者として期待される兄。そのスペアである俺は、一応王子としての教育は受けているが将来は兄を支える騎士団長を目指している。
実際、剣の腕には恵まれている。年齢の割に恵まれた体格、剣術の才能。足りないものはないとさえ言われている。
「けど、実際には…弟一人守ってやれねぇ…」
サミュエル、俺のたった一人の弟。
兄や俺とは違って、何も期待されていない可哀想な子。
それどころか、存在さえも許されていない。
「なんとかしてやりてぇけど」
騎士団長を目指すと決めた時、短く切った金の髪。同年代の女子からは怖がられることもある鋭い青の目。初対面で、けれどあの弟はそんな俺を恐れもしなかった。
「可哀想な、可愛い俺の弟…」
初めて見たあの子は、俺にとって守るべき存在となった。
それなのに、大人はそれを許さない。
「…兄上」
この場にいないその人を呼ぶ。つい、甘えてしまう。
勝手な絶望に打ちひしがれる俺を、たった一人の兄は甘やかす。
『大丈夫、それはお前のせいではないよ』
そう言った兄の目には怒りがあった。
自分自身への、怒りが。
兄は俺を甘やかすくせに、自分自身には厳しい。
無力な自分に絶望した俺と違い、兄は無力な自分に怒りを燃やしていたのだ。
だから、兄はきっと近いうちに現状を変えようとなさるだろう。
「俺はそれに、甘えるだけでいいのか?」
いいはずがない。そんなのは分かり切っている。
俺も、兄の助けになれるよう力をつけなければ。
そう、騎士団長を目指した理由もそれだったじゃないか!
「そして、兄上と二人で弟を助けるんだ…」
そう。俺にはなにも出来ない、なんて言い訳だ。俺たちなら、絶対にサミュエルを助けられる!
「それに…サミュエルには今、アンナがついてくれている」
アンナとかいう世話係は、サミュエルをとても大切にしてくれている。
だからきっと、サミュエルは今寂しくない。
その間に、俺たちがサミュエルを助けるんだ!
「うん、元気出てきた」
もちろん、あの弟を粗末な離宮から助け出すなんて簡単なことじゃない。
一朝一夕にはいかない。
時間は必ずかかる。
でも。
「時間をかければ、必ず助けられる。待たせることになるけど、絶対助けるから」
これは騎士の誓いであり、王子の誓いだ。決して破ったりしない。必ず、サミュエルをその地位にふさわしいところまで連れ戻す。サミュエルは、俺の弟でこの国の第三王子なのだから。
「そうと決まれば、さっさと寝ないとな」
一刻も早く成長して、それを見せつけて力を得なければいけないのだから。




