婚約者の幼馴染の彼女
クレマン様の幼馴染は、リナ・イネス・オロール様という伯爵家の娘さん。ピンクのふわふわした綺麗な長い髪と、同じくピンクの可愛らしいまん丸な瞳を持つ美しい人だ。
…正直なところ、この時点で爵位以外勝てるところがない。
二人が揃っているところを見ると、美男美女でお似合いだ。
それが余計に私の胸を締め付ける。
「ううっ…」
そして悲しきかな、私はめちゃくちゃストレートな身体つき。細いのが好きな人もいると思うが、リナさんの体型はお胸とお尻がふっくらとしている。クレマン様の好みは出るところが出ているワガママボディーなのだ。
ますます敵いっこない。
一応たくさん食べて運動してみたり、お化粧に力を入れたりおしゃれにだって気を遣ったが全然敵わない。もう辛い。
そして。
あの子は二人きりで話したいといきなり押しかけてきたと思ったら、私に面と向かって言ったのだ。
『その…アンナ様、ごめんなさい。私のこと、怒ってますよね?クレマン様の心を奪ってしまって、本当にごめんなさい』
『でも、クレマン様を本当に愛して支えられるのは私だけなんです』
『それに…アンナ様では、クレマン様の横に立つのはちょっと…ね?』
『ごめんなさい、クレマン様に相応しくないなんて、アンナ様が一番良くわかっていらっしゃいますよね…』
『どうか、クレマン様のために身を引いてください。少しずつ、距離を取って側から離れてあげてください。ね?』
目の前が真っ暗になった。感情がぐちゃぐちゃになった。なんて返事を返したのかも覚えていない。
…でも、多分、言い返せなかったんだろうと思う。
だって、全部事実だと思ったから。
「苦しい…」
涙が止まらないまま、胸を掻き毟る。本当に苦しい。…悔しい。
「あんな子に負けるなんて…!」
ああ、きっと。私のこういう醜い感情が、だめなのだ。だからクレマン様は、私を嫌いになるのだ。
「ごめんなさい…」
もう、感情がぐちゃぐちゃだ。
一旦、落ち着こう。
息を吸って、吐いて。
よし。
「と、とりあえず。…やっぱりずっと塞ぎ込んでも良くないよね」
やはり、あの願望を叶えよう。もしかしたら、クレマン様のお気持ちが少しはわかるかもしれない。
そうと決まれば早速、お父様とお母様にお話しに行こう。
「その前にまずは、顔を洗って来ないと!」
涙で酷いことになった顔をさっぱりと洗って、私はお父様とお母様の元へ急いだ。
それで得られるものがあればと、願いながら。
…ずっと先の未来の私が、この時の私に感謝しているなんて知らないまま。