文字の練習
お絵かきと折り紙に飽きた頃、私はメイドたちに頼んで紙とペンを持ってきてもらった。
「第三王子殿下、ちょっとご相談なのですが」
「なあに?」
「もしよろしければ、これを」
紙とペンを渡す。きょとんとする第三王子殿下。
「文字を書く練習をしてみませんか?」
「…っ!!!いいの!??」
「もちろんです!僭越ながら私がお教えしますね」
「ありがとう!すぐ覚えるから、よろしくね!」
「ふふ、はい」
実際にはすぐにとは行かないだろうけど、第三王子殿下ならきっと大丈夫だろう。
そう思って、できるようになるのを気長に待つつもりで教え始めた。
「…こう?」
「そう、お上手ですよ!ここをこう、跳ねさせればもっといいです」
「こうか!」
「出来ましたね!お上手です!」
まあ、当然ながら文字を書き始めて初日なので目覚ましい成長を遂げる…ということはもちろんないが、教えたことはちゃんと伝わる辺りやはり第三王子殿下は天才なのではないだろうか。
本来ならもっと専門の人に教えてもらうのに、私なんかの拙い教え方でもしっかり理解してくれる。
良い先生が付けば第三王子殿下はすごく優秀になりそうなんだけど…もったいないな、なんて。
「第三王子殿下、お客様です」
そこでメイドから声が掛かった。
「え、誰だろう」
「よ、俺だぜ」
「ラファエルお兄様!」
第二王子殿下がやってきた。私は緊張でお腹が痛い。
「お、ペンなんて握って何してるんだ?」
「文字の練習!」
「おお、偉いなぁサミュエルは!」
第二王子殿下は第三王子殿下の頭をこれでもかと撫で回す。第三王子殿下は嫌ではなさそうで、むしろ嬉しそうに笑っていた。
「ふうん…なかなか上手に書けてるな!」
「えへへ。先生が良いからね!」
「お前が弟に文字を教えてくれてるんだな」
「は、はい」
「本当にありがとうな、助かってる」
ぽんぽんと優しく頭を撫でられる。
「ラファエルお兄様、アンナは僕の専属のお世話係だよ!取っちゃダメ!」
「はは、取ったりしないぜ。意外とヤキモチ妬きなんだな、俺の弟は」
「むう」
頬を膨らませる第三王子殿下はとても可愛い。そしてその隣に美丈夫な第二王子殿下。尊い。
「ごめんな、本当なら家庭教師を雇ってやるべきなのに。お前にも負担だろ?」
「いえ、私は第三王子殿下のお世話係ですのでこのくらい当然です!」
「お前本当に良い女だな」
「ラファエルお兄様!怒るよ!」
「ごめんごめん」
第二王子殿下は、第三王子殿下に怒られてちょっと楽しそう。兄弟でのこういうやり取りも今までなかったんだもんなぁ。
「じゃあ、俺はそろそろ戻るから。練習頑張れよ」
「うん、いってらっしゃい。ラファエルお兄様」
「!…いってくる」
第三王子殿下のお見送りに、嬉しそうに笑って手を振った第二王子殿下。
第二王子殿下、良かったですね。




