とある少年の話3
ぱっと目が覚める。…今日の目覚めは、もう朝日が昇っているらしい。カーテンの隙間から光が漏れている。
「…今日は、ぐっすり眠れたな」
とはいえ、アンナが起こしにくるまではまだまだ時間があるらしい。
目を閉じて、少しでも身体を休ませる。
「昨日は、色々濃い一日だったな」
ラジエルお兄様と、ラファエルお兄様。
僕の兄だという二人。
乳母から聞いていたのは、冷酷な王妃殿下の息子だということ。二人もまた、異母弟である僕のお見舞いにも来ない冷酷な人間だということ。
でも。
「冷酷、だなんてこと…なさそうだったけど」
二人とも、僕に気遣ってくれていたような気がする。それは優しさとか、愛情なのだと思う。アンナが、僕は愛されていると言っていたから。
…ああ、こうして思い返すと胸がなんだかムズムズする。でも嫌なんじゃなくて、幸せすぎてキャパオーバーしてしまったような、そんな気持ち。
僕、もしかして本当にラジエルお兄様とラファエルお兄様から愛されているのかな?
「だとしたら、嬉しいなぁ」
むふふと緩む口元を押さえる。だって、本当に嬉しすぎるのだ。
「でも、もっと嬉しかったのは…」
そう、もっと嬉しかったのは。
「だ、第三王子殿下のことがとっても大好きです!!!」
あのアンナの言葉。多分僕は、この言葉を一生忘れない。
「僕も大好きだよ、アンナ」
アンナは優しい。そして愛情を与えてくれる。
もっと側にいたい。もっと近付きたい。
アンナだけは、失いたくない。
「そのためにも…はやく健康にならなくちゃ」
健康になって、大きくなって。かっこよくなって、強くなって。それで、お勉強もたくさんするんだ。頭も良くなって、なんでも出来るようになったら。
「そしたら、アンナはずっとずっと僕と一緒にいてくれるよね?」
僕をアンナが守ってくれているように。僕がアンナを守ってあげるんだ。
「ふふ。そしたら、もっとアンナの喜ぶ顔が見られるかな」
ああ、けれど、今はもう少し甘えていたいな。
「ふふ、贅沢な悩み…って、こういうことを言うのかな」
今まで、やりたいことも望みもなく。ただただ生きるために生きてきた。愛情ばかりを欲して、愛情を誰かに与えることもしなかった。
そんな僕の全部をひっくり返してくれた人。
…失わない。絶対、この手は離さない。
やりたいことがたくさんある。身体を鍛えたり、お勉強をしたり。でもその全部は、アンナとこれからの人生を歩むため。
だからね、アンナ。
「ずっと、一緒にいてね」
きっと、言わなくても一緒にいてくれるとは思うのだけど。




