第三王子殿下のために子守唄
「では、第三王子殿下。子守唄を歌ってもよろしいでしょうか」
「うん」
優しい歌詞の曲をいくつか選んで歌を歌う。第三王子殿下のお腹を優しくリズム良くトントンとしてあげれば、第三王子殿下は気持ちよさそうに目を閉じた。
いつのまにか咳も止まって、ぐっすりと眠ってしまった第三王子殿下。
どうか良い夢を見てくれますように。そう願って、部屋を出た。
「ふう」
今日もお風呂に浸かりながら、一日を思い返す。第一王子殿下と第二王子殿下、かっこよかったな。将来は第三王子殿下もあんな美丈夫になるのかな。
「でも、緊張したぁ…」
本来ならばあんなかっこいいお顔、目に焼き付けておきたいところだけれど。緊張し過ぎてそんなことしてる余裕がなかった。
「…クレマン様は、どうしているかな」
きっと。
私のことなんて考えてくれていない。
幼馴染と変わらぬ日常を過ごしていらっしゃるだろう。
あるいは、私が働いていることすら知らないかもしれない。
多分一応、ご両親から聞いているとは思うけど…私に関することなんて記憶にすら残らないかも。
「…うーん。吹っ切れたと思ったけど、やっぱりまだまだうじうじしてるかも」
でも。
「不思議と、今までほど辛くはないんだけど。第三王子殿下に会って、本当に辛いのが一気に晴れた。…でも、それでも執着しているこの感情はなんだろう」
…もしかしたら、恋とか愛とかそういうものではないのかも。
「…ああ、いや。もしかしたら」
単に、あの幼馴染のことばかり考えて私を見ないのを恨んでいるだけかも。
あー、なんか納得いった。
まだ好きなのかなと思っていたけれど、もう既に愛情は枯渇していたんだ。
有ったのは醜い執着だけ。
「…そっか」
私は今、ようやくそれを認められた。この気持ちも、今なら供養できる気がする。
「…うん、もう、そういうのはやめよう。今度こそ、やめよう」
この婚約がどちらに転ぶかわからないけれど、まあ。
「おかげさまで、第三王子殿下と出会えたのだし」
今はむしろ、感謝するべきだろう。
「…ふぅ。さあ、上がろう」
お風呂を上がって、身体を拭いて服を着て髪を乾かして。サクッとベッドへダイブする。
「んー、はやく第三王子殿下に会いたいな」
第三王子殿下は、はやくも私の生き甲斐になってしまった。
はやく会いたい。甘やかして差し上げたい。健康になれるようサポートしたい。読み書きも少しずつ教えて差し上げないと。
そうだ、そろそろ字の練習とお絵かきと折り紙も嗜んでいただこう。手先が器用になって損はない。
そのためにも、寝よう。おやすみなさい。




