第三王子殿下と絵本
愛されていると知ると泣きじゃくった第三王子殿下に、もっと積極的に愛情表現をしていくべきだと学んでから数時間。あとは寝るだけというタイミングで、そういえば絵本の読み聞かせがまだだったと思い返す。
色々衝撃的で忘れていた。絵本の読み聞かせは日課にするつもりなので、まだ夜も遅くないので今から始めることにする。
「さあ、第三王子殿下。今日も絵本を読みましょう!」
「うん!今日はどんなお話にする?」
「どれでもお好きな絵本を選んでください」
第三王子殿下に絵本を見せる。表紙を興味深そうに見つめる姿に癒されつつ、視線の先を追う。
「…この絵って、妖精さん?」
「ふふ、はい。妖精さんが、男の子の夢を叶えてくれるお話ですね」
「へえ…これが読みたいな」
「では、読み聞かせを始めますね」
「じゃあ、昨日みたいにして?」
可愛いおねだりに口元が緩む。ラッコさん座りをすれば、満足そうな第三王子殿下。
しかし、読み始めようとしたら咳が出始めた。
「こほっ、ごほっ」
「だ、大丈夫ですか?」
「うん…こほっ」
「お、お薬を!」
吸い込むタイプのお薬を手渡して吸ってもらう。
「第三王子殿下…」
「アンナ…読んで欲しいな、けほっ、ごほっ」
「…!は、はい!」
第三王子殿下がそう求めるのなら、それを叶えるのが私の役割だ。
第三王子殿下に読み聞かせをする。
「へえ、こほっ、男の子の願いは…愛されたい、かぁ」
「はい。ここから『愛されるため』に妖精さんと共に善行を積んでいくのですよ」
「ごほっ、ごほっ、愛されるための努力、かぁ」
「ええ、とても良いことですね。…でも、第三王子殿下は何もしなくても、少なくとも私には愛されていますのでご安心を」
「ふふ、こほっ、嬉しいなぁ」
こちらを向いてへにょっと笑った第三王子殿下が愛おしい。
「へえ、男の子はお金を上げずにパンをあげるんだ、こほっ」
「むやみに施すのではなく、本当に必要な物を与えるのは素敵ですね」
「こほっ、ごほっ、うん、その方が良いのかもね」
ふむふむと絵本の内容に頷く姿も可愛らしい。
「へえ。二人で善行を積んでいく中で、ごほっ、いつのまにか妖精さんから愛されていたんだね」
「妖精さんだけでなく、今まで助けてきた人々からも愛されているのですよ」
「すごいなぁ…ごほっ」
「では、読み聞かせはここでおしまいです。…まだ、辛いですか?」
「大分楽になったから大丈夫、こほっ」
第三王子殿下に横になってもらう。しんどいだろうにこちらに笑顔で答えてくれる姿は、いっそ悲痛だ。けれどそんなお姿さえ愛おしい。
「大丈夫、すぐに良くなりますからね」
「うん、こほっこほっ」
どうか、はやく第三王子殿下が健康を取り戻せますように。




