愛情を知って欲しい
あの後第二王子殿下は「また来る」と言って帰っていき、第三王子殿下は手を振って見送っていた。
「第三王子殿下、お兄様方とは初対面…でしたか?」
「うん。乳母から聞いていたのと違って、優しくてちょっとだけびっくりした」
「あら…」
第三王子殿下の乳母だった方は不信感でも持っていたのだろうか。
…見たところ、優しそうなお兄様方だと思うのだけど。
ああ、いや、そもそも王妃殿下の御子だから?それか一度もお見舞いに来てくれなかったから?
「なんかさ」
「はい」
「兄弟って…いいね」
そう言ってはにかむ第三王子殿下は可愛らしい。
「そうですね。私にも兄が一人いますが、あんな感じで愛してくれていますしね」
「え」
「え?」
「え」
第三王子殿下は俯き、その肩が震える。
「だ、第三王子殿下!?どうしました!?」
「僕…愛されてるの?」
目に涙をいっぱいに溜めてそんなことを言う。
「何を当たり前なことをおっしゃるのですか…第三王子殿下は愛されていますよ。お兄様方は第三王子殿下を気遣っていらっしゃったじゃないですか!それに…その、わ、私も…」
「私も…?」
「だ、第三王子殿下のことがとっても大好きです!!!」
は、恥ずかしい…でも伝えたくなったから、ちゃんと伝える。
「…アンナ」
「は、はい…」
や、やっぱり差し出がましい!?余計なこと言ったかな、烏滸がましかったかな!?
「嬉しい…」
一言そう溢して、それから第三王子殿下はぐっちゃぐちゃな表情で涙と鼻水をボロボロ流す。
「うっ…ぐすっ…うううううううう!」
「だ、第三王子殿下!」
急いで顔を優しく拭うけれど、涙が止まることはない。
「第三王子殿下、大丈夫です!第三王子殿下はたくさんたくさん愛されていますし、これからも第三王子殿下を愛する人はたくさん増えますから!」
「うっ、うう、アンナ、アンナが」
「は、はい」
「アンナが大好ぎっで、ぐすっ、言っでぐれたのが嬉じいっ!」
…な、なんて可愛らしい!!!
その健気さに心を打たれて、こちらまで貰い泣きしてしまう。
「だ、第三王子殿下ぁ、第三王子殿下にそんな風に喜んでもらえて、うっ、ぐすっ、私は、アンナは幸せですっ!!!」
「アンナっ!」
第三王子殿下が私に抱きついてくる。優しく、けれど強く抱きとめて、二人でそのままわんわん泣いた。
いつのまにかメイドたちも貰い泣きしていて、正直部屋の中はカオスな状況になっていた。
やっとみんなが落ち着いた頃に、私は第三王子殿下を離した。
「アンナ、ありがとう。これからも一緒にいてね」
「…はい!もちろんです!」
「あと、お洋服汚してごめんね」
「大丈夫ですよ。今温かな濡れタオルを持ってきますね」
その後第三王子殿下のお顔を温めた濡れタオルで綺麗に拭い、自分も冷水で顔を洗ってすっきりとした。メイドたちもそれぞれ顔を洗ってきたらしくその後はまたしっかりと仕事に戻っていた。




