とあるメイドの話
私は、平民出身のメイドだ。誰に仕えているかというと、王子様。
ここだけ聞くと、すごく恵まれているように聞こえると思う。
けれど、実際にはその王子様は冷遇されていて。離宮に半ば隔離されている状況。
平民なのに、王子様に仕えることが出来ると浮かれていたので、正直ガッカリした。
そんな風に思うのは他のメイドたちも同じで。
「だから私は…私たちメイドは、第三王子殿下と距離を置いていた」
まあつまり。子供染みた八つ当たりだった。
煌びやかな本宮には入れずとも、離宮だって十分豪華で。待遇も悪くなく給料は平民にとっては高い。
感謝するべきだったのに。
「…アンナさん、か」
そこに、新しいお世話係のアンナさんが現れた。私たちの第三王子殿下への態度のせいで、前にいた第三王子殿下の乳母とは仲が悪かった。アンナさんは、私たち側なのかあの乳母みたいに口うるさくなるのか。
…結局は、そのどちらでもなかった。
「私たちメイドが不躾な視線を送っても気にした様子もなくて…私たちに注意してきたりもしないし、口うるさくもない」
来た初日だからという可能性もあるけれど。
「でも、第三王子殿下への態度はとても優しくて、温かくて」
私たちとは明らかに違う。甘やかすだけだった乳母とも違う気がした。
乳母は第三王子殿下を守るためだと、半ば部屋に軟禁していた。しかし、アンナさんはお姫様抱っこをして庭に連れていった。
乳母は第三王子殿下の嫌いな食べ物は残してもいいと言っていた。アンナさんはあーんして食べさせていた。
そんなアンナさんに第三王子殿下はすぐに懐いた。そして、見たこともない心からの笑顔を見せた。
その笑顔を見て、私の心は騒ついた。
「これが、罪悪感…というものなのかな」
別にいじめてなんてないが、何の理由もなく距離を置くなんて…冷遇されてしまった王子様への仕打ちとしては十分すぎるほどに酷いだろう。
あんな風に幸せそうに笑える王子様。その笑顔を私たちは向けてもらえない。絶対に。
それを見ていた他のメイドたちも同じように思ったのだろう。ばつが悪そうな表情の人が多かった。
「ここで手の平返ししたところで、私たちは多分許されない」
第三王子殿下やアンナさんが許しても、私たち自身が私たちを許さない。
でも。
「せめて、罪滅ぼしくらいは…」
少しずつでも、第三王子殿下に歩み寄って…一生懸命に仕えることで、罪滅ぼしになればと。
都合が良いとは思うけど、そのくらいしか出来ないから。
「…本当に、ごめんなさい」
呟いた言葉は、誰かに届くこともなく消えた。




