第三王子殿下を寝かしつけ
「では、第三王子殿下。そろそろ寝ましょうね」
「うん」
ベッドの上に第三王子殿下を休ませる。が、第三王子殿下はなんとなく寂しそうに見えた。
「…その、第三王子殿下」
「なあに?」
「もしよろしければ…もう少しだけ側にいてもよろしいでしょうか?」
私がそういえば、第三王子殿下はぱっと表情を明るくした。
「いいの!?アンナ、ありがとう!」
「いえいえ」
和やかな雰囲気になったのも束の間、第三王子殿下に異変が生じた。
「こほっ、こほっ」
「だ、第三王子殿下!」
咳き込み始めた第三王子殿下の背中をさする。
「大丈夫ですか!?」
「うん…こほっ、ごほっ、お薬…」
第三王子殿下の視線の先、吸引するタイプのお薬を発見して急いで第三王子殿下に渡す。
慣れた手つきでお薬を吸い込む第三王子殿下。
「アンナ…眠れるまで、側にいて」
「はい、もちろんです…!」
第三王子殿下の手を握る。こんなに幼いのに、今までずっとこんな苦しみを我慢してきたんだ…。
「アンナ、なにか歌って。アンナの声を聞いて眠りたい」
そんな健気なお願いに、私はすぐに頷いた。
何曲かお気に入りの歌を歌う。第三王子殿下が幸せな気分で眠れるように、優しい歌詞のものを選ぶ。
歌いながら、苦しげな第三王子殿下の身体を掛け布団の上からトントンと優しく労わる。
歌と、心地よいリズムで動く手にほっとしたのだと思う。第三王子殿下はしばらくすると薬も効いて咳が止まり、安心した顔ですやすやと眠った。
「第三王子殿下…」
頭を撫でて、しばらく部屋に留まる。…が、お風呂にも入らないといけないし寝ないと明日に響くので名残惜しいが部屋を出た。
お風呂に入って、今日のことを振り返る。
良い一日だった。第三王子殿下がとても可愛くて、すごく癒された。第三王子殿下ははやくも私に慣れてくれて、多分すぐに仲良くなれると思う。
クレマン様の気持ちも、ようやくわかった気がした。たしかに、病弱な異性というのは庇護欲を掻き立てられるし愛おしくなる気持ちもわかる。
「…クレマン様」
正直。第三王子殿下を見ていると、今までうじうじしていた自分がバカらしくなった。だって、私より幼い第三王子殿下はあんなに頑張って生きているんだ。私の悩みなんて、ちっぽけなものだった。第三王子殿下を見習わないと。
それに…第三王子殿下が大好きになって、すごく癒してもらえたから辛い気持ちが一気に晴れた。
だから、もう、いいんだ。
「せめて、お世話係として側にいられる今のうちに思い出をたくさん作ろう。そうしたら、クレマン様にこの先どんな仕打ちを受けようと耐えられる…」
破局するにせよ結婚するにせよ。きっと、その頃には私は今よりちゃんと受け止められるようになると思う。…そうであって欲しいと思う。
「…ともかく!第三王子殿下のためにも今日は早く寝て明日に備えるぞ!」
十分温まるとお風呂を出て、身体を拭いて頭を乾かしたら着替えて眠った。




