99話 切り札
「許可するわ!!存分に暴れなさい!!!」
「分かり、ました…!」
霞む目で捉えたのは繭に囚われていくローザ様。ローザ様に許可されたのは吸血の許可。僕は昔から血をとると記憶がなくなる。記憶を失っている間僕が何をしたのかは分からない。でも頭から流れる血、力の入らない身体。この傷を瞬時に治すには血を取り込むしかない。後のことは僕にも分からない。でも、ローザ様が託してくれたのならその期待に答えなければ。
「はぁ……はぁ…」
「クリスタ!そいつ何かしようとしてる!!」
「えっ!あ、駄目だよ!」
マントに隠しておいた特別な血液のストック。取り込む血液は魔力を多く持っている人ほど取り込む時に得る力が多くなる。そしてこれはローザ様の血液。ローザ様の血液を取り込めばここの人たちはなんとかなるかもしれない。
ハンマーが振り下ろされる前に試験管のコルクを抜き一気に血液を取り込む。乾いた喉を血液が潤していく。後は僕自身に任せよう。
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壁を背に倒れていた男の人、ローザはアルバって呼んでた。その人がマントに隠していた瓶の様なものに入っていたものを取り出してそれを止める為にクリスタがハンマーを振りかざした。少しやりすぎかと思ったけど、あの中身が爆発物だったら周りに被害が出たかもしれなかったからこれが正しかったかも。
「う、動かない…!」
「クリスタ?」
クリスタの様子が変だ。ハンマーを振り下ろした状態でずっと止まってる。それにアルバの魔力がどんどん増えていってる。何か様子がおかしい…。
「ふふ…はーはっはっはっは!!!」
「嘘!どんどん押し返されていく!?」
「こんな肉叩きで俺を押し潰そうとでも?甘い…甘いね!!」
「きゃあっ!!」
あのクリスタが力で負けた!?嘘でしょ!?それに今俺って…。クリスタが尻もちをついている目の前でアルバがマントを翻して高らかに笑っている。さっきまで前髪で隠れていた右目もでていて今までおどおどしてた感じの人じゃなくなってる。一体何が起こってるんだ。
「レディを跪かせてしまって申し訳ないけど、ローザ様の為なので。それでは改めて名乗らせてもらおうか。俺は純血の吸血鬼にして魔王親衛隊、四芒星の1人ローザ様の忠実なる僕。アルバ・フォリック!以後お見知りおきを」
吸血鬼…もしかしてさっきの瓶みたいなのに入ってたのって血液?リエットさんから昔が教えてくれた。吸血鬼は血液を取り込むと一時的に力が増すって教えてくれた。それも純血の吸血鬼は取り込んだ時の力の増し方が尋常じゃないって。血液を取り込んだ純血の吸血鬼…それが今目の前にいる。さっきまでとは雰囲気も魔力も違う。油断せずにいかないと。
「さて、我が麗しのローザ様を取り戻させて貰いますよっと。はぁっ!!」
「ぐっ!」
ナイフで切りかかってきたアルバを即座に糸を蜘蛛の巣状に張り巡らせて防ぐ。なんとか目の前で攻撃を防げたけどさっきまでとは速さが違い過ぎる。後ろに跳んで距離をとって様子を伺う。血液を操作する吸血鬼特有の能力。これも厄介そうだな。
「バロン!!ご、ごめんなさい!自分が油断してなかったら…」
「あやまっても仕方ないよ。それと気をつけて。さっきまでとは何もかもが違う」
「うん…自分が力負けするなんて」
竜の騎士団の中でもパワーだけなら上位を争うほどの力自慢のクリスタ。そのクリスタが力負けした。僕のギフトだと接近戦だと部が悪い。クリスタの魔法で中距離を保ちながら攻めていかないと。
「クリスタ!」
「了解!!」
クリスタの魔法で大岩を放つ。それを簡単にスパスパと斬りながらこっちに近づいてくる。大岩を斬られるのは想定の内。斬られて宙を舞っている岩を糸で繋いで背後から岩をぶつける。
「おっと危ない。風の第八呪文:マジックブロー!」
背後から襲ってきた岩を身を翻して軽く避けた上に、風で魔力を吹き飛ばす風の上級呪文!!でもこれぐらいの魔法じゃ僕の糸はかき消せない!
「ありゃ?この魔法でも糸はかき消せないんだ。それに岩も。人間だけどなかなかの魔法だね。でも、そっちの男の方は何か左腕に仕掛けがありそうだけど」
「!!」
アルバが僕の左腕を指差す。もしかしてバレてる…?身体のことがバレてる可能性があるのはクロードだけ。でもそのクロードは死んだはず。なら情報共有はされてない。じゃあなんで知ってるんだ?もしかして…クロードは生きてる?い、いやオリオンさんが死んだはずだって言ってた。あのオリオンさんに限ってそんなことはないはず…。今はそんなこと考えてる暇はないか。集中しないと。
「それじゃあ、プレゼント。受け取って」
そう言って手に持っていたナイフをこっちに放り出してきた。目の前で赤いナイフが宙を舞ったと思ったらナイフが急にナイフが形を変えて僕に向かって襲いかかってきた。
「っ!!」
血の斬撃をなんとか避けたけど完全に避けきれなくて頬にかすり傷ができる。傷は浅くて助かったけど完全に油断してた。戦いではいついかなる時も油断するなっていつも言われてたのに…!
「反応がいいね。さてと、そろそろ本気だそっか」
「させない!ゴーレムちゃんたち!!」
クリスタがハンマーを横に振りかざすと同時に土のゴーレムが3体現れる。ゴーレムをこんな簡単に作り出すなんて相変わらず凄いや。
「ゴーレム…それも3体。ブラッドウェポンズ、槍」
「ナイフが槍に…!」
「よっと!!」
「嘘…!1突きで自分のゴーレムちゃんを!」
「はい、はいっと!」
槍一本の突き一撃でゴーレムをボロボロに崩した…。ゴーレムを壊されたクリスタはアルバの足元に沼を作り出して足止めをして近づいてハンマーを振りかざす。
「ん?あぁ沼か」
「覚悟!」
「よっと!」
「またハンマーを!でも…この距離なら岩をどうにもできないでしょ!」
「!!!!」
「命中!」
ゼロ距離で岩をぶつけて命中する。身体が吹き飛んで沼から抜け出したところを見逃さずにすぐに糸で捕らえて地面に叩きつけて壁にも打ちつける。
「ゲホッ…!」
「かわいそうだけど追い討ち!」
「っ!ははっ!見た目以上に随分素早く動くんだね」
「血で盾を作ってハンマーを…でも!」
壁に打ち付けられたアルバにそのままハンマーを叩きつけたクリスタ。血の盾で防がれたみたいだけどミシミシと盾を破ろうとしている。あのハンマーに叩きつけられたらひとたまりもないしあの様子だったらもう長くは持たない。これで決着、かな。
「随分と押されてるじゃない、アルバ」
「!!」
ローザを捕らえた繭の方から声が…!で、でも僕の糸を破れる訳はない。でも、なんだか嫌な予感が……。
「ローザ様!!待っていてください!すぐそちらに!!風の第九呪文:ドラゴンストーム!」
「風が…!」
「クリスタすぐに離れて!」
「う、うん!」
アルバを中心に大きな竜巻が発生する。まだこんな魔法を使う余力があったなんて!あの鎧でもあの竜巻を近くで受けたら流石にひとたまりもない。竜巻の風がこっちにも吹いてきて身体が飛ばされそう。糸でクリスタをこっちに連れてきて風で身体が飛ばされないように身体を糸でくくりつけてクリスタが生やした岩に結びつける。これでも吹き飛びそうなほどの風だ。こんな魔法を使えるなんて…!!
風に混じって砂利や砂が舞って目が開けられない。薄目で状況を把握するけど土ぼこりのせいでよく見えない。鎧で顔を隠してるクリスタなら見えるかも…!
「クリスタ状況は!?」
「ま、繭が空飛んでる!!」
「嘘!?」
もしかして竜巻を起こしたのはクリスタを引かせる為じゃなくて繭を僕から取り戻すため…!?そんな無茶苦茶な!それにこの強大な魔法を使うなんて……。繭を取り戻さないと!糸を伸ばして繭を取り戻そうとするけど流石にこの風じゃ糸が流される…!
「ローザ様は取り戻させてもらいましたよ」
ようやく風がおさまって視界が晴れる。結局繭はあっちに奪われてしまった。でもあの糸の繭は切れない。奪われたところで…。
「ローザ様ご無事で?」
「大分揺れたわね」
「申し訳ないです」
「まぁいいわ。少し離れてなさい」
繭からアルバが数歩離れる。一体何をするつもりなんだ?
「ふっ!!」
「繭の糸が溶けて…!!」
繭が内側から溶けていってどんどん穴が広がっていく。もしかして毒!?で、でもローザの毒じゃ僕の糸は溶かせないはず…。
「はぁ〜…狭かった。ようやく出て来れたわね。大分時間がかかっちゃったわね」
「あぁ!麗しのローザ様!ようやくその姿をお目にかかれて光栄です!この再会に口付けを」
ちゅっ
「きゃあ!手にチューを!」
「ちょっ!やめなさい!!」
「林檎のように顔を赤く染めるローザ様もなんと麗しい!」
「だから血を飲ませたくなかったのよ……。血を飲むと性格がま反対になる、本当に変な体質…。はぁ…ほら私に構ってないでさっさと構えなさい。早く片付けるわよ」
「ローザ様の手を煩わせるなんて贅沢者なんでしょう。あぁ妬ましい!」
「そういうのいいから……」
僕の糸が溶かされた……クリスタの鎧よりも硬くて丈夫な僕の糸が……。ローザ…どんな毒も調合する技術…本当だったんだ。やっぱり僕の祝福なんか……。
「来るよバロン!!」
「う、うん!」
クリスタがハンマーを構える。そうだ。ぐずぐず落ち込んでる暇なんてないんだ。僕は与えられた使命をまっとうする。リエットさんが、リエット元団長が団長の後の席を僕に譲った時に言ってくれた。僕には才能がある。あとはその力を引き出す勇気だけだって。ローザに勝って他のみんなに顔向ける僕自身になりたい。いつまでもクリスタに甘えてちゃダメなんだ!
僕の祝福、自由自在は糸を出して自由自在に操ることができる。元々の糸の強度は普通の糸となにも変わらない。でも移植された魔王の左腕がしなやかさはそのままに糸をどんな鋼鉄よりも硬くしてくれる。糸は一本だけじゃ弱い。でも何本も重ねて紡いで形を作る、何にだってなれるんだ。糸が溶かされるなら何度だって紡ぎ直せばいい、繕えばいい。僕はなんだってできるはずなんだ!
「バロンのスイッチが入った…!」
「顔つきが変わった…どうやらここからが本番のようね。アイリス様のためにも私たちは負けるわけにはいかないわ。気を引き締めるわよ、アルバ!」
「勿論ですローザ様!」
記念すべき100話目は今から2000年前の話を書きます。この物語において重要な年になるので頑張って書きます。




