98話 第四団長バロン・ユーフィニア
「こ、これが僕とローザ様の出会いです」
アルバさんとローザさんの出会い…家出したアルバさんとたまたま出会ったんだ。それで今でも関係が続いてるって凄い奇跡的な出会いだったんだ。
「昔はローザさんのことさん付けだったのに今は様呼びなんですね」
「ロ、ローザ様が四芒星になる前まではさんで呼んでたんですけど、四芒星になった後は皆さんにつられていつの間にか様呼びに」
「なるほど…」
「そ、それからローザ様と色々なところを巡ったんです」
「その頃から仲がよかったんですね」
「そう、ですね。そ、それとローザ様と初めて出会った話の続きになるんですが、酒場でローザ様が倒した魔族の人、実は当時の魔族軍の結構偉い人だったんです」
「それって、結構まずかったんじゃ…」
「じ、実はそのことで一悶着あったんですが…」
「お待たせー!待たせちゃって悪かったわね」
アルバさんが話始めようとしたところにお店からボトルを片手に持ったローザさんが戻ってきた。凄いいい笑顔で満足そう。アルバさんの話も気になったけどローザさんが戻ってきたからここで終わりかな。うー…気になる…。
「見てこれ!マナットの果実酒!マナットなんて懐かしくて、それにマナットの果実酒なんて初めて見たからつい買っちゃったわ!」
「マナット…クロードさんと食べて以来食べてないな。結構美味しかったからまた食べたいな」
「リリィちゃん、マナット食べたことあるの?」
「はい。クロードさんと森を歩いてた時にたまたま見つけたんです」
「そうなの。マナットは育てる人によって味が変わるっていう面白い果実なのよね」
「ロ、ローザ様。そ、そろそろ出発しませんか?ち、長時間滞在してるといつ嗅ぎつかれるのか分かりません」
「確かにそうね……みんな用にお酒も買っておいたし、そろそろ街を出ましょうか」
「街を出たらクロードさんを連れてくる為に一度トレイダ街に戻らないとですね」
「そうね。馬車の時間もあるし急ぎましょうか」
ローザさんが手に持っていたお酒を空間にしまって街に入った門まで向かい始める。ここまで来た時と同じようにできるだけ人通りが少ない場所を選んで移動する。
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「ん?」
「どうしたの?バロン?」
「魔族の魔力の気配がする…」
「ほんと?自分は何も感じないけど…魔力感知が得意なバロンがそう言うんならそうなのかも」
「ん〜……前の会議でクロードの他に四芒星が現れるかもって話だったし一応探ってみようかな」
「分かった。それじゃ張り切って探そうか!」
「うん…ほどほどでね」
どこからか魔族の魔力を感じる。クリスタには言ってないけどなかなかに大きな魔力の気配だ。もしかして本当に四芒星、なのかも。一応詳しく調べてみよう。うー…もし本当に四芒星だったら嫌だな〜……。僕、四芒星に勝てる自信ないし。
「あ、バロンだ!」
「バロン遊んでー!!」
街を見回りしてたから街の子供たちに見つかった。いつも暇な時に遊んでいる子供たちだ。クリスタは全身甲冑姿だし身長も2メートル以上あるからどうしても目立つ。それにしても困った。子供たちに囲まれて身動きがとれない。クリスタも下手に動くと子供たちを怪我させるかもしれないから身動きがとれない。困ったな……。
「ごめんね、みんな。僕たち今から仕事だから」
「え〜……」
「いつも仕事してない癖に!」
「し、失礼だな…」
「ちぇっ!いいよ、リエット爺さんに遊んでもらうから!!」
「あ、ちょっと!」
そう言ってみんな去ってしまった。リエットさんだって暇じゃないのに。迷惑かけなければいいんだけど…。
「はぁ……子供って難しいな」
「自分の弟と妹も小さい時はあんな感じだったなぁ。懐かしい」
「そっか。クリスタは妹と弟がいるんだよね」
「うん!弟2人と妹が1人。すーっごく可愛いの!」
「僕もいつか会って見たいな」
「今度2人とも休みがとれたら会いに行こうよ」
「いつかね」
団長と副団長が同時に休みがとれる日なんてこないと思うけど、いつかは会ってみたいな。
「それじゃあ仕事しようか。はぁー……強い魔族じゃなきゃいいけど…」
「大丈夫だって!だってバロン強いじゃん!!」
「そうかな…?そうだといいんだけど…」
いつもクリスタはこう言ってくれるけど、僕より絶対クリスタの方が団長に向いてる。地の大精霊からも加護をうけてるし何より強い。なんでリエットさんは僕を団長に任命したんだろう。いや、するしかなかったのか。僕が魔王の身体の適合者に選ばれたからだ。選ばれなかったら僕は大戦が終結したらすぐにでも団をやめようと思ったのに。いや、それでもクリスタを1人にはできなかったから結局やめられなかったんだろうな。
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「どうやら街から出る分には許可証は必要ないみたいね。よかったわ」
「え、衛兵もいますがあれくらいなら目を誤魔化せるでしょうね」
「それじゃあ行きましょうか」
街に入って来た門に辿り着いて少し遠くから様子をうかがってたけど街から出る人たちは許可証を衛兵の人に何も見せずに門をくぐってる。また許可証が必要だったらどうしようかと思ったけどよかった。
「!!リリィちゃん!」
「うわぁっ!!!」
急にローザさんに少し離れたところまで突き飛ばされた。あまりの突然のことで思いっきり尻餅をついてしまってお尻が痛い。なんてことを考えているといきなり目の前に壁ができてローザさんとアルバさんと切り離されてしまった。な、なんで急に壁が!?突然のことで周りの人たちも驚きの声をあげてる。
「この壁から魔力を感じる…まさか、魔法?でもなんでいきなり……」
「ワン!!」
「ヴァイス!出て来ちゃ駄目って、そんなこと言ってる場合じゃないよね。2人とも大丈夫ですか!!!」
鞄からヴァイスが飛び出してきたけど今は周りのことを気にしてる場合じゃない。声をあげて壁の向こうにいる2人に無事か確認する。すると向こうからローザさんの声が聞こえてきて返事が返ってきた。声からして無事そう。ひとまずはよかった。
「私たちは大丈夫よ!!リリィちゃんはヴァイスちゃんと一緒に街から脱出して!」
「で、でもローザさんたちを置いて行けないです!!
「後から必ず合流するわ!脱出したら使い魔に報告して!!!」
「わ、分かりました!!」
鞄の中にいたローザさんの使い魔の蛇が腕の登って首元にくる。その間にこの騒ぎを嗅ぎつけたのか遠くから沢山の人の声が聞こえてくる。集まってくる人たちはみんな同じ白い服を着てる。あの服…ルイさんが着てた服と同じ…竜の騎士団の人だ!
「早く街を出ないと…!ヴァイスお願い!!」
「ウァン!!」
大きくなったヴァイスに乗って街を駆け抜ける。ローザさんたちが心配だけど今の私があそこにいても足手まといになるだけだ。ローザさんたちの為にも早く街を出ないと。
「止まりなさい!!」
「ヴァイス!!」
急に前から人が飛び出して来て一瞬ヴァイスがスピードを緩めたけどすぐに飛び上がって建物の上にのる。やっぱりすごい跳躍力!下の人はやっぱり白い服を着てる。あの人たちに捕まったら駄目だ。捕まらずに行かないと。
「ヴァイス、このまま街の外までお願い!」
「ウァオン!!」
****
「さて、貴方たちは一体何者?」
壁に囲まれる前にリリィちゃんを突き飛ばしてなんとかリリィちゃんだけは壁の外に逃すことはできた。壁の向こうのリリィちゃんの魔力が遠ざかっていくのを感じる。無事に逃げられたみたい。それにしても私たちの前にいきなり現れた2人の人間。1人はハイネックのセーターに白いベスト、肩には白のロングジャケット。癖っ毛の栗毛にそばかす。可愛い見た目だけど魔力は相当ね。それに左腕に魔力を感じない。もしかしてクロードが言ってた団長かしら。それにきっと魔力を感じない左腕はきっとアイリス様の左腕ね。原理は分からないけど移植された腕に違いないわ。
それともう1人は全身鎧姿。背中には大きなハンマーを背負ってる。アルバよりも身長が大きいわね。2メートル以上はあるわ。あっちの子もなかなかの魔力。これは少し手こずりそうね。
「ロ、ローザ様…どうしましょう……」
「どうもこうも、やるしかないでしょ。壁に囲まれて逃げられないんだから」
「そ、そうですよね」
アルバの調子は……あまり良くはなさそうね。顔色はいいとは言えないし。日光に当たって聖魔法のかけられてた馬車にずっと乗ってたんだから当たり前よね。最後に血を飲んだのはいつだったかしら…。最悪血を飲ませる許可を出すことも考えないと。
「いきなりすみません。ですが貴方たち魔族、ですよね」
「あら、いきなりそんな言いがかりなんて酷いじゃない。私たちは普通の人間よ」
「嘘ですよね。魔力を隠してますけど貴方たちの魔力は魔族特有のもの。どうやって魔族がこの街に入ったのかは分からないですけど…」
この子、随分と魔力感知が得意みたいね。魔力を隠してた筈なのにまさかバレるなんて。それに私はこの子を見かけてないから遠い場所から感知された…?そんなことが出来るなんて……。
「さて、貴方たちは私になんのようかしら。魔族だからって排除されなきゃいけないの?」
「隠しても無駄ですけど」
「なにが?」
「魔力を隠してますけど貴方相当な魔族ですよね。それも相当上澄の」
やっぱりこの子の魔力感知は鋭いわね。エルフ並の魔力感知ね。耳は人間のものだからエルフではないだろうけど。
「はぁ………ここまでバレてるならもう隠しても仕方ないわね。アルバ、やるわよ」
「は、はい!」
生成した毒で大鎌を作って構える。相手は団長。あのクロードですら負けたほど。油断せずに全力でいかないと。それにここで倒したらアイリス様の身体も取り戻せる。負ける訳にはいかないわね。
「やっぱりだよ〜……はぁ…あきらかに強そうだし…やっぱり僕が団長なんて…」
「げ、元気だして!!ほら相手構えてるよ!自分も一緒に戦うから、ね?」
「確かにクリスタ1人で戦ってもらうのは不安だし…そもそも僕が戦わない訳にもいかないし。もしここで逃げたらオリオンさんとかになんか言われそう……」
声可愛いっ!!!え、あの全身鎧の見た目であんな可愛い声なの?な、なかなかのギャップね。なんて言ってる場合じゃなかった。あっちもやる気になったみたいだし。1番嫌なのはギフトが分からないことね。厄介なギフトを持ってたら嫌だわ。
「アルバ、私は鎧の方を狙うわ。そっちの方が相性がいい。私の毒ならあの鎧でも溶かせる」
「わ、分かりました」
アルバもマントの裏に隠してた試験管に入ったストックの血液でナイフを2本作る。自分の血液をあまり使えないアルバのために持たせた血液のストック。ストックがなくならなければいいけど。それまでには決着はつけるから多分大丈夫でしょう。
「よっ!!」
走り抜けて大鎌で鎧の子を斬りつける。突然のことで反応できなかったのかそのまま攻撃を受ける。今の鎌の毒は鉄も溶かせる程の猛毒。これであの鎧もドロドロに溶ける筈だけど、どうにも手応えがない。振り返って確認すると鎧はピカピカのまま。どうやらただの鉄じゃなさそうね。なにかしら。
「わっ!び、びっくりした〜……」
「ただの鉄じゃないのね。特別な鉱物でも使ってるのかしら」
「クリスタ!だいじょっ!!っと危ないな!」
「か、身体が…!」
襲いかかったアルバの身体が急に宙で止まった。なんでいきなり…。
「もう、危ないな!!」
「!!!!」
鎧の子が大きなハンマーを地面に叩きつけると足元から岩が生えてくる。それを後ろ飛びで間一髪で避ける。無詠唱で魔法を…流石にこれくらいはしてくるわよね。それにしても魔法を発動するまでの速さも魔力出力も段違い。あのハンマーに何かしら細工でもあるのかしら。
「アルバ平気?」
「は、はい。な、なんとか」
アルバがナイフを再構築して血の刃であたりを切り刻むとアルバの宙に浮いていた身体が地について再びナイフに再構築する。
「やっぱりあそこまで細くすると耐久力は落ちちゃうか…。もう少し魔力を練らないと」
「な、何か糸の糸の様な固定されてたみたいです」
「状況から察するにあの団長の方の魔法ね。通常魔法の応用かそれともギフトか」
「け、警戒はしないとですね」
「そうね。私はあの鎧も溶かせる毒を調合しないと。相当頑丈な鎧みたいでちょっと時間かかるかも」
今の大鎌の毒じゃあの鎧は溶かせない。色々な毒で試すしかないかしら。でもそれを試す時間をそう簡単に稼がせてくれるかしら。アルバの動きを止めた謎の魔法。それにあの鎧の子の地魔法。両方とも厄介ね。
「よーいしょっ!!」
また鎧の子がハンマーを叩きつけると大岩が何個も私たちに襲いかかってくる。大岩を私の毒で溶かしてアルバは血液の斬撃でバラバラにする。だけど襲いかかってきた大岩に意識を持っていかれたせいで身体に巻きついていた魔力に気づくことができなかった。
「身体が…!アルバの時と同じ!」
「ローザさん!!」
「隙だらけ!!」
「ぐあっ!!」
「アルバ!!!」
私に気を取られたせいで隙ができたアルバに鎧の子がハンマーでアルバを殴り飛ばす。あまりの威力で身体が吹っ飛んで壁に叩きつけられる。なんとか意識はあるみたい。ギリギリで防御はできたみたいね。ひとまずは安心だけど…。
「まずはこの糸をなんとかしないと…」
私の身体に巻きついてる細い糸。あまりの細い糸で帯びている魔力も僅かすぎてここまで巻きつかれるまで気づかなかった。糸をなんとかする為に肌から分泌した毒で糸を溶かそうとするけど……
「溶けない…!」
嘘でしょ!こんな細い糸なら簡単に溶けるはずなのに…。やっぱりこの糸は団長の方の祝福。ただの糸がギフトとは考えられないから何かしら仕組みはありそうね。
「抵抗しないでください」
「うっ…!」
身体に巻きついた糸がキツくなって身体を締め付ける。この子、見た目からは想像がつかないけど予想以上に強い…!魔力もそこまで多い訳じゃない。なんならこの場にいる誰よりも少ない。なのにこの糸の強度に魔法の繊細な操作。魔力の量は強さには直結しないとはいうけどまさかこれほどまでにこの言葉が似合う子が現れるなんて。
「抵抗すればそこに倒れてる人も痛い目を見ることになりますよ」
「ふふっ…抵抗しないとでも?」
「それはそうですよね」
「あぁっ!!」
糸が更にキツく締め上げられる。腕も一緒に巻きつかれてるから完全に身動きがとれない。キツく締め上げられてるせいで血液の流れがとまりそう。
「それに貴方ローザっていうんですよね」
「それが、どうしたのかしら」
「ローザはあの四芒星の1人。もし貴方がそうだとしたらこのまま逃すわけにもいかないんです」
そこまでバレてたのね…。まぁ、こればっかりは仕方ないかしら。
「でも安心しました」
「なにがよ」
「あの四芒星がここまでの強さで。僕でも捕まえられてよかったです」
「ふふっ……あはははは!!貴方それわざと言ってるのかしら。それとも天然?」
「?僕は人間のお母さんから生まれましたけど」
「なるほど。なかなかの天然みたいね」
なんて冗談を言ってる場合じゃないのよね。私は身動きがとれないし、横目でアルバの様子を見るけど頭から血を流して動けるかどうか微妙なところ。それにあの鎧の子がアルバのことを見張ってる。そう簡単には動けないわね。
「それじゃあ他のみんなが来るまで少し大人しくしててください」
左手を私の方へ掲げると手のひらから糸の束をだして繭の様に私の周りを囲っていく。会話で時間を稼いで色々な毒で糸を溶かせないか試してみたけどどれも駄目。流石に無理ね。でも私たちには最後の切り札がある。
「アルバ!!!」
「ローザ……さん…」
「許可するわ!!存分に暴れなさい!!!」
「分かり、ました…!」
後はアルバに任せるしかないようね。でも、アルバならきっと大丈夫。だってアルバの強さは私が1番知ってるんだから。




