95話 時魔法の乙女
沢山ある本の中からようやく魔族に関しての医学書を見つけられた。随分と端っこの方にあったから探すのに少し苦労した。手に取った本を抱えて席に座る。
「タイトルは『魔族の民間医療』か。ここに少しでもヒントがあればいいんだけど…」
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「はぁ……やっぱりダメだった…まぁ正直ダメもとだったけど」
本の内容はすり傷とか火傷とかの軽い傷に対しての簡単な治療方だった。でもちょっとだけ興味深かった。魔族は魔力が豊富だから傷に魔力の膜を覆わせて傷を癒す、これ自分でもできないかな?今度ローザさんに聞いてみよう。
「他の本も探してみよう。もう少し本格的な医学書見つけなきゃ」
席を立って本を元の場所に戻す。うーん……『魔族の生態』『魔族の手術』。ローザさんの書庫にもあったような本だ。一応中身もざっと確認してみたけど手がかりになりそうなものはなかった。うーん……いっそのこと全く別のものに関しての本を探してみる?例えば…魔法に関して、とか。さっきの本に傷を魔力で癒すって書いてあったからもしかして傷を癒す本格的な魔法があったりして。
「えーっと…魔法に関しての本棚は…あっちか」
宙に浮いている本のジャンルの看板を頼りに本棚を見つける。さっきの魔族に関しての本棚よりも本の数が段違いに多い。
「えーっと治療に関する魔法は…これ、かな?」
他にも何冊か手に取ってまた席に戻る。タイトルは『本格的な魔法医療』。本の内容は魔法で傷を癒す方法についてだ。さっきの『魔族の民間療法』よりも本格的なことが書かれてる。傷もかすり傷以上の傷に対しての回復魔法について書かれてる。
「『現在の回復魔法では切断された手足を一から再生させることは不可能です。切断された手足さえ手元に残っていれば繋げることは可能です。しかしそのような回復魔法を扱えるものはごく僅かです』か。クロードさんの角はローザさんの手元に残ってる筈だからローザさんがもしこのごく僅かの人だったらできたりしないかな?でもそしたらローザさんはもうやってるか」
それにローザさんはアイリスさんの身体をくっつけてた。だからクロードさんの角をくっつけられないのは何か事情があるから?
「他の本もそれっぽい内容は……ん?これって……」
『時魔法の乙女』?えっとなになに?『今から2000年前。時の精霊の加護を受けた乙女が存在した。その乙女は時魔法でどんな大怪我さえ癒してみせました。その乙女は戦いで生きる者の希望になりました』
「2000年前…凄い人がいたんだ…。時魔法…もしかしてこの魔法なら……」
「時魔法の乙女、ですか。随分とまた珍しいものをお読みですね」
「うわぁ!!」
後ろから急に声をかけられてつい大声を出してしまった。静かな図書館に私の声が響き渡る。周りの視線が一斉に私に向けられる。周りの人たちに頭を下げて謝って改めて後ろの人の顔を見る。腰ぐらいまである長い白髪、左目にモノクル。杖をついていていかにも紳士って感じのご老人だ。
「ふふ…図書館で大声は感心しませんね」
「す、すみません…」
「冗談ですよ。こちらが急に声をかけたのが悪かったですね。申し訳ありません」
「い、いえ!頭を上げてください」
「ふふっ。お嬢さんにそう言われたら素直に従うしかありませんね」
し、紳士だ〜!!
「それで私が読んでる本、『時魔法の乙女』がどうしたんですか?」
「その話は絵本にもなっているのです。私も昔はよく娘に読み聞かせたものです。貴女が読んでいるのに気づいてつい声をかけてしまいました。ご迷惑でしたか?」
「全然!私このお話初めて読みました。そんなに有名なお話なんですね」
「えぇ。この国でこの話を知らない人はいなのではないでしょうか。お隣よろしいですか?」
「はい。どうぞ」
そう言って紳士も人は私の隣の席に腰をおろす。本を懐かしそうに撫でて優しく微笑む。このお話好きなのかな?わざわざ私が読んでるのに気がついて声をかけるぐらいだし。
「この話は本当にあったことなんです。所謂ノンフィクションというやつです」
「本当にあったお話なんですか?じゃあこの時魔法っていう魔法も」
「えぇ。存在しますよ」
「じゃ、じゃあ時魔法はこのお話の通りどんな怪我も治せるんですか?」
「えぇ。そうですよ」
これだ!これしかない!!時魔法ならきっとクロードさんのことを治せるはず!そしたら次は時魔法に関する本を探して……。
「もしかして貴女はご友人か誰かが大怪我でもなされたんですか?」
「え?あ、はい…そうなんです」
「もしや貴女。時魔法で怪我を治そうとしてるのでは?」
「そ、そうです。医学に詳しい知り合いでも治せなくて、なにか手がかりがないかと思ってこの図書館に来たんです」
「そうですか……。残念ながら時魔法だけはおすすめできませんね」
「ど、どうしてですか?」
「時魔法は究極魔法と呼ばれる魔法。普通の者が扱える魔法ではありません。……私の古い友人も時魔法を使い親友の怪我を治しました。致命傷で回復魔法でも治せず、このままではすぐに死んでしまうほどの大怪我でした。私の友人は愚かにも時魔法を使いその傷を癒しました。その代償として友人は代わりに急速に歳をとりそのまま亡くなりました。本当に馬鹿なことをしたものです」
「……ごめんなさい。辛いことを話させてしまって」
「いいんですよ。もう大昔のことです。それほど究極魔法、時魔法を使うということは大変危険なのです。最悪の場合、自分が死ぬことになります」
「そう、ですか…」
それじゃあ時魔法を使えない、か。どうしよう…。本当に手詰まりだ。
「随分と相手の方を大事に思ってらっしゃるのですね」
「え、そう、ですね。私その人にずっと頼りっぱなしで。だから今度は私が助けたいんです!」
「本当に大事なんですね。その人が。その思い、大切にしてくださいね。……さて、貴女はその人を治す手がかりを探しにここに来たんですよね」
「は、はい」
「たとえ霧をつかむような話でも貴女はそれを信じますか?」
「え…?」
「信じますか」
「はい!私信じます!」
「では少し待っててください」
そう言って紳士な老人の人は席を立ってそのままどこかへ行ってしまった。と思ったら本を片手に戻ってきた。
「この本の…ここですね」
「『癒しの泉』?」
開かれたページを見ると『癒しの泉』と書かれていた。詳しく読むと『精霊の森に存在すると言われている癒しの泉。その泉に浸かればどんな傷も毒も呪いもたちまち癒えるという噂がある』と書かれている。
「これって!」
「あくまで噂ですけどね。精霊の森に立ち入った人間自体が極めて稀で、もし精霊の森に立ち入ることができても戻ることができない。とも言われています」
「精霊の森…この森自体は存在しているんですよね?」
「えぇ、もちろん」
精霊の森…癒しの泉。噂程度の話だけでどもしかしたら……。もう他に手がかりはなさそうなんだ。もう、これしか………。
「この本借りてもいいですか?」
「えぇもちろん」
「ありがとうございます!それにしても物知りなんですね。この本をすぐに持ってきてくれて、もしかしてよくこの図書館によく来るんですか?」
「ふふっ実は私この図書館の管理人をしてるんです」
「え、ぇ……それってつまりこの図書館の関係者で1番偉いってこと、ですか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「す、すみません!全然知らなくて…」
「いいんですよ。管理人といっても名ばかりのものなので」
まさかこの人がこの大きな図書館の管理人だったなんて。確かに言われてみればそんな雰囲気だ。
「精霊の森に興味があるならあちらの本棚がおすすめですよ。精霊に関する本がたくさんあるので」
「ありがとうございます。早速探してみます」
「えぇ。手がかり見つかるといいですね。健闘を祈ります」
お礼を言って早速教えてくれた本棚へ向かう。今は14時半でもうすぐ集合時間だ。急いで探してみよう。
「そういえば、名前聞くの忘れちゃったな。でもこの図書館の管理人だったら分かるかも。今度ちゃんとお礼言わないと」
ローザがクロードの角を元に戻さない理由は角の魔力生成器官がまだ毒に侵されているからです。未だ解毒方法も見つかっていないので角を元には戻せません。




