92話 出発
「話は終わったの?」
「はい。ありがとうございます。ローザさん。それにヴァイスも」
「ワン!」
「いいのよ。さ、そしたら部屋に戻って準備してきなさい。アルバが戻ってき次第出発するわよ」
「はい!ヴァイス、いこ!」
「ワン!ワン!」
クロードさんに私の気持ちをちゃんと伝えられた。部屋から出てローザさんに時間をくれたことにお礼を言う。私たちはそのまま部屋に戻って荷物の準備をする。と言っても私はものが少ないからすぐに荷造りは終わりそう。荷物を整理してる時にふと目に入ったナイフを手に取る。シーサーペントと戦った時に使ったナイフだ。
「このナイフのおかげでシーサーペントから助かったからお礼しなきゃね。ありがとう」
ナイフを見つめて鞘を抜いて錆や傷がないかを確認する。見た感じは大丈夫そう。海に浸かっちゃったしシーサーペントとの戦いで刃こぼれなんかしてないか不安だったけどよかった。お父さんの形見だもん。
「そういえば、アルバさんが柄の模様のこと気にしてたけどなんだったんだろう」
改めてよく見るとこの模様どこかで見たことがある様な……。うーんどこかで見たことが…。
「あ、地図だ!!」
「ワフッ!?」
「ごめんね、ヴァイス。急に大声出しちゃって…。えっと確かルイさんから貰った地図に…。あった!」
鞄の底に眠っていた地図を取り出す。この地図の右上の端にナイフの柄の模様と同じものが描かれてる。
「見てヴァイス。これ同じ模様」
「ワフッ!」
「これ、なんの模様なのかな…あ、そういえばクロードさんが持ってた地図にも同じ模様が描かれてた様な…うーん、あんまり覚えてないなぁ。でも、今は荷造りしなきゃ」
後回しになっていた荷造りを再開する。服とか替えはあるけど少しほつれてきたり、裾が少し破れちゃったりしてる。これぐらいなら直せるけど限界があるからいつかは新しくしないと。でも今の状況だと服を新しく作れそうにないかも。
「よし、これで完璧。あとはアルバさんが戻ってくるまで待ってようか」
「ワン!」
****
「リリィちゃん。いいかしら」
「あ、ローザさん!今開けますね」
部屋でぼーっとしてると扉の向こうからローザさんの声が聞こえた。すぐにベットから立ち上がって扉を開ける。扉の向こうにはローザさんとアルバさんが待っていた。アルバさんもう戻ってきてたんだ。
「アルバの調べだと今から1時間後にフォーメン街に向かう馬車が出るらしいの。その馬車に乗れば2日後までには到着するみたい。早速出発するわよ。用意はできてるかしら」
「はい。バッチリです!」
「ワン!」
「いい返事ね。それじゃあ出発するわよ」
ローザさんは荷物もなにも持ってなさそうだけど、クロードさんと同じように空間にものを仕舞ってるのかな。ローザさんたちと一緒に廊下を歩いていると廊下に沢山の魔族の人たちが立っていた。クロードさんと同じ様に角が生えてる魔人の人や爬虫類の様な人たち、見た目は普通の人間に見える人たちがいる。その人たちはローザさんとアルバさんを見つけるなり駆け寄って行った。
「ローザ様!ここから離れてしまうんですか!?」
「アルバ様も!」
「私たちを置いていってしまうんですか!」
「ちょ、みんな落ち着いて!」
「ロ、ローザ様だ、大丈夫ですか…!」」
ローザさんたち囲まれて身動きが取れなくなってしまった。私は囲みの外側に追い出されてローザさんたちと離されてしまった。ローザさんの様子を確かめるためにジャンプしてなんとか確認しようとしたけど人が多すぎて全然ダメ。大声でローザさんに呼びかけてみたけどこっちも全然ダメだ…。
「みんな一回私の話を聞いて!!」
ローザさんがそう一声あげるとローザさんたちを囲んでいた人たちがいっせいにシーンと静かになる。
「私たちはクロードの身体を治す方法を探しに行くの。決してあなた達を置いていく訳じゃないの」
「クロード様はやっぱり、身体が…」
「そう。毒の後遺症で戦える身体じゃなくなってしまったの。でも私たちは諦めてない。必ずクロードのことを治す方法を見つけるわ。それまでここをみんなに任せたいの。もちろん必ず戻ってくるわ。貴方達を見殺しになんかできないもの」
その瞬間再びローザさんにみんなが駆け寄ってローザさんを抱きしめた。アルバさんもその波に攫われて巻き込まれてしまう。私はその波の外側で泣きながら、嬉しそうに抱きしめる人達を見つめる。
「ローザさん沢山の人に慕われてるんだなぁ」
「当たり前よ!」
「うわっ!え、えっと君、は?」
突然足元から声がして視線を向けると下半身が鳥の脚で腕には鳥の翼が生えてる小さな女の子が腰に手をあてて立っている。この子の姿、さっき読んだ本に載っていたハーピーって種族だと思う。歌声で人間を誘き出して狩りをする種族だったはず。それにしてもここには子供もいるんだ。
「ローザ様はアイリス様と一緒に前魔王、ヴィルクを倒した偉大なお方なんです!そしてその後もウォルトカリアを復興し、異形型の魔族を束ねて軍を発足したんです。そして自身は魔王親衛隊の四芒星のお一人に!!あぁ!やっぱり素晴らしいお方!」
「え、えっと…」
「アイリス出会う前のことはよく存じませんが、私たちがここにいて生きているのは全てローザ様のおかげ!大戦後にボロボロで身を隠しながら生活していた時にローザ様は優しく声をかけ、聖母の様に私たちに救いの手を差し伸ばしてくれました。私はその時まで女神や神など信じていませんでしたが私はあの時確信しました。そう、ローザ様こそが至高であり、神に等しいと!!」
声を挟む暇もなく次々と言葉が紡がれていく。うっとりとした表情でローザさんを称え続ける。あまりの勢いに数歩後ろに退いてしまう。まだ10歳くらいなのにいろいろな言葉知ってるんだなぁ…。
「こら!困ってるでしょ!」
「いたっ!な、なによいきなり!?」
「あんたがずっと話し続けてるから引いてるじゃない。少しは加減しなさいよ」
ハーピーの女の子の頭を軽く叩いて話を中断させる。頭を叩いた人は見た目はトカゲの様な姿で全身が鱗に覆われて私と同じくらいの身長だ。えっと確かリザードマン、だっけ。腕力があって自分の縄張りを重視する種族だって書いてあったっけ。
「ごめんね。この子ローザ様のことになると少し暴走するところがあって」
「い、いいえ。全然!」
「何よ。本当のことを言ってるだけじゃない!」
「少しは加減しろってこと。まったく…」
この2人歳が離れてるように見えるけど随分と仲がいいなぁ。こういう関係ちょっと憧れる。
「2人は仲がいいんですね。結構歳が離れてるみたいですけど」
「ん?あぁそうか。人間からしたらそう見えるよね」
「な!失礼な人間ね!!私は立派な100歳よ!ガキだと間違えないでよね!!」
「ひゃ、100歳!?あ、ご、ごめんなさい!!つい子供だと勘違いしてしまって…」
「全く失礼しちゃうわね!」
両手に手をあてて頬を膨らませてぷんぷんと効果音がなる様に怒ってしまった。でもこうやって怒る姿はやっぱり見た目通りの歳に感じる。クロードさんも若く見えるけど100歳以上は生きてるし、魔族の人は見た目で歳を判断できないな…。ローザさんもきっと見た目の倍以上の歳なんだろうな。
「随分と仲良くなったみたいね、リリィちゃん」
「ローザさん!」
「ローザ様!」
「ロ、ロ、ロ、ローザ様!!!」
「仲良くなったところ悪いけど、そろそろ出発しないと馬車の時間に間に合わなくなっちゃうわ」
「そ、そうでした!え、えっとまたお話ししましょうね!」
「ふんっ!」
「ローザ様どうかお気をつけて」
「ありがとうね。2人とも」
ローザさんは2人の手をとってぎゅっと握り締める。ハーピーの女性はあまりの嬉しさに涙を流しながら「もう手を洗いません!」と言ってる。ローザさんは「汚いからちゃんと洗いなさいね」と普通に返していた。
「ロ、ローザ様…そろそろ」
「分かってる。みんなここをお願いね。すぐに戻ってくるわ」
「「はい!いってらっしゃいませ!!」」
みんなに見送りをされながら屋敷の玄関へ向かった。さっきのハーピーの人を見て分かった。ローザさんは本当に沢山の人に慕われていている。そしてローザさんは沢山の仲間の命を救ってきた。
「あ、忘れてたわ。これ、色変え薬。飲んでおいてね」
「うげっ…またこれ飲むんですか…」
「ちなみに効果時間が前飲んだものよりも長いものだから味も倍酷いわよ。覚悟して飲むのよ」
あれよりも倍…!考えただけで身震いする。で、でも飲まない訳にはいかないし覚悟を決めないと…。




