91話 情報の街
「私がやってきたことは2つ。1つはクロードの頼み事。1つはクロードの角と毒の後遺症の治し方」
「頼み事、ですか?」
ローザさんが指を1つずつ立てて2つの指を立てる。ローザさんがクロードさんを治そうと手がかりを探してたのは知ってたけどクロードさんの頼み事ってなんだろう?
「クロードから頼まれていたのはアイリス様の身体のこと。アイリス様にかけられてる封印は魂魔法と呼ばれる究極魔法の一種。身体について詳しい私に少しでも封印の解除方法を探して欲しかったの」
「でも、魂と身体って別物ですよね」
「ふ、古くから魂と身体は密接な関係がある、と言われているんです」
「そういうこと。大昔からよく議論されてるの。魂が死ねば身体が死ぬのか、身体が死ねば魂が死ぬのかってね
。でもクロードの読みは外れ。流石に私の専門外よ」
「そうですか……」
つい下を向いてしまう。難しい話についていけないのかヴァイスは足元で丸くなって眠ってしまってる。
「昨日の夜、地下で見せた通り身体を繋げても魂は元には戻らない。繋げればいいって訳じゃないのよ。とりあえずこの件は専門家を探して頼むしかないわね。それでもう1つのクロードの件、だけど」
「て、手詰まり、ですよね」
「そ。まだ書斎の本を全部読んだ訳じゃないけれど」
「とりあえず書斎の本を全部調べるところですよね」
「そういうことになるわね。えっと、この辺が手がかりになりそうな本ね」
空間から本を10冊ほど取り出してテーブルにどさっと積む。す、凄い数だ。でも今までローザさんが1人でやってきたんだよね。少しでも役に立たないと。
「さ、頑張りましょう」
****
「こ、これで全部、ですか…」
「そう、ね」
私とローザさん、そしてアルバさん。3人で何時間もかけて全部の本を読んだけど結局手がかりになりそうなものはなかった。疲労と無力さで本に顔を突っ伏してため息をつく。
「これで手がかりになりそうな本は全部……」
「ローザ様………」
「まだです!まだここの書斎にないだけできっと手がかりが載ってる本があるはずです!」
「リリィちゃん…」
「リ、リリィさん…」
「そう、そうね!でもここにある本はウォルトカリアにあった本を集めたもの。これ以上ってなるとなかなか…」
「じゃあこの国、サナティクト王国の本はどうですか?」
「サ、サナティクト王国の本、ですか…確かにここの書斎にはサナティクト王国の本は少ないですが………」
「うーん……当てがない訳じゃない、んだけど…リスクが…」
「リスク?」
「この地図を見て」
ローザさんが取り出した地図を広げて一点を指す。指したところにはフォーメン街と書いてある。
「フォーメン街?」
「そう。噂に聞いたけど世界中の情報が集まる場所らしいの。もしかしたらクロードの治療法もあるかも知れないわ」
「じゃあ!」
「でも私は魔族。魔族であり、魔王軍だった私が人間が集まる街に行けばバレて騒ぎになる可能性があるの。でも、そうね。そんなこと言ってる場合じゃないわ」
「ロ、ローザ様…」
「アルバ、すぐにトレイダ街からフォーメン街へ出る馬車を調べて」
「わ、分かりました」
そう言うとアルバさんはマントを翻して姿を消してしまった。クロードさんも使ってた移動魔法なのかな。
「さて、準備しないとね」
「ローザさん、私も行きます!」
「そう言うと思ったわ。いいわよ。準備はちゃんと済ませときなさい。アルバが戻って来てら出発の用意をするわよ」
「はい!ヴァイス、ヴァイス起きて!!」
「ワフッ…!?」
寝ていたヴァイスの身体を揺すって起こす。寝ぼけていたヴァイスは一瞬なにかあったのかとあたりを見渡してすぐに目を覚ます。
「ヴァイス、フォーメン街ってところに向かうの。クロードさんを助ける方法を見つけるために」
「ワン!!ワフッ!」
ヴァイスは自分も行くと言ってるように元気よく鳴く。ありがとうと頭を撫でると嬉しそうに目を細める。
「出発する前にクロードに会ってく?」
「え?い、いいんですか?クロードさんの体調大丈夫なんですか?」
「えぇ。身体のほうは大丈夫よ。今はリハビリをしながら日常生活を送れるように頑張ってるわよ」
「そしたら会ってもいいですか?こんなこと言うのもアレですが、無事に戻って来れる保証もないので…」
「そうね…。万が一にでもそんなことが起こらないようにはするけど。何があるかわからないものね」
****
「クロードさん…」
「あぁ…お前か。元気そうでよかった。ローザ、約束通りコイツを連れて来てくれてありがとう」
「いいのよ。長い付き合いだもの」
ローザさんにクロードさんの部屋に案内してもらう。部屋に来た時クロードさんはよろけながら壁に手をついて歩いていた。ローザさんがリハビリしてるって言ってたから歩くためにリハビリをしてたみたい。ローザさんがクロードさんに肩を貸してベットに座らせる。
「顔色悪いですね…大丈夫ですか?」
「ローザのおかげで大分よくなった。ありがとうな」
「あんたが元気にならないと私たちが困るもの」
「だが…この身体じゃもう戦えないだろうな。魔法ももう使えない」
クロードさんは自分の手のひらをじっと見つめる。その顔はどこか悲しげで、悔しさが混じってる。自分が戦えなくなったとがクロードさんは1番悔しいだ。アイリスさんを救えないことがきっと悔しくて仕方ないんだ。
「そのことでちょっと話があるの」
「話?なんだ」
「今の私の知識じゃ貴方を治す方法は分からない。だけど、私たちは最後の望みをかけてフォーメン街に向かうことにしたわ」
「フォーメン…?それにたちってどういうことだ」
「フォーメン街にはすべての情報が集まってると言われているの。そこにならクロードの身体を治す方法があるのかも知れないの。そこに私とアルバ、それとリリィちゃんとヴァイスちゃんも行くことにしたの」
「コイツも連れて行くのか!ゲホッゴホッ…!」
「クロードさん!」
いきなり大声を出したせいか咳き込んでしまう。毒の後遺症のせいか喉も弱くなってるのかも。声も掠れながら喋ってるから喋るだけでも辛そう。
「落ち着きなさい。ほら深呼吸…。毒のせいで肺もやられてるんだから」
「ゲホッ…すー…はーっ……はぁ…すまない…。だがコイツを連れてくのは危険だ。ヒスイ街でコイツも顔を見られてる。コイツもこれから国王軍、竜の騎士団に狙われる可能性がある。戦えないコイツを連れて行くのは危険だ」
「クロード、貴方随分と人間のリリィちゃんに入れ込んでるみたいね」
「……ローザさん。少しの間クロードさんと2人にしてもらっていいですか?」
「わかったわ。それじゃクロード、またね」
ローザさんに頼んで部屋で2人にしてもらう。ヴァイスもローザさんと一緒に部屋から出ていってもらった。一回クロードさんに私の気持ちをちゃんと伝えたい。
「クロードさん、私…」
「お前はフォーメン街に行くな。戦いにならないともいえない。そうなったら戦えないお前は足手纏いだ」
「クロードさんは私に戦ってほしくないんですか?」
「…そういうことじゃない。とにかくお前は行くな」
「クロードさんは私を妹さんに重ねているんですか?」
「……!!」
クロードさんの話を聞いてからもしかしてと思ってた。私を戦いから遠ざけてクロードさん1人だけで戦おうとしようとしてる。それは私を妹さんと重ねてるから。妹さんに重ねてる私が傷ついてるところを見たくないから。これは私の仮説。クロードさんは目を見開いて固まってしまった。
「……いや、違う、違うんだ…。俺とお前は似てる。残された家族がいなくなって1人で生きてきた。俺はモネに、妹に会うことは出来ない。だが、お前はまだ兄に会える。お前だけは戦いを知らずに兄と再会して平和に暮らしてほしいんだ。俺は、もう何も知らなかった頃には戻れないから……」
「クロード、さん…?」
「いや、忘れてくれ…」
「私は、戦いますよ。ここまでクロードさんと旅をして、ローザさんたちのことを知ってこのまま何もしないって訳にはいきません。それにアイリスさんのことも放っておけないんです」
「お前……」
「クロードさんたちにとって私は赤の他人ですし、でしゃばってるのも足手纏いなのも分かってます。でも私も最近魔力の扱いも慣れてきました。それに昨日はシーサーペントと戦える様にまでなったんです」
「シーサーペントと?そこまで成長してたのか…」
まぁトドメをさしたのはアルバさんなんだけど…。これは黙っておこう。これを言ったらきっとクロードさんは街に行くのを反対するかも知れないし。これは私のわがまま。
「いざとなったら盾にもなります。だから…私も一緒に戦わせてください。クロードさんと一緒に背負わせてください」
「…………」
「それに私、クロードさんが行き着く先にきっとお兄ちゃんがいると思うんです。なんとなく、ですけど」
「…いいのか。今からでも遅くはない。今からでも家に戻って…いや、お前はもう何を言っても聞かないんだろうな。はぁ…仕方ない。これ以上先に進んだらもう後戻りはできない。覚悟はできてるか」
「はい。もう、ずっと前から覚悟は決まってます」
「そう、か」
「絶対にクロードさんの身体を治す方法を見つけてきます。待っててくださいね!」
「あぁ。待ってる」




