86話 地下
「ふわぁ……んぅ…今、なんじ?」
ふわっと意識が起き上がって大きなあくびをする。ぼーっとしながら時計をちらっと見る。寝る前は夕方前だった気がするけど今はもう10時前だ。やばっ寝過ぎた!
「ワフッ……」
「ふふっ寝言言ってる」
ヴァイスはぐっすり眠ってるし起こさないようにそっとベットから起き上がる。寝過ぎちゃって目が完全に覚めちゃった。屋敷の中を散歩してこようかな。でもあんまり1人で出歩かないほうがいいって言われたしよくないよね。
「どうしようかな…。また眠くなるの待ってようかな………」
でも全然眠気が襲ってくる気配もないし暇をつぶせるようなものもないしなぁ…。
コンコン…
「ん?誰だろう。こんな時間に」
「リリィちゃん?起きてるかしら」
「ローザさん?どうしたんだろう。なんか用事あるのかな?」
ドアの向こうからローザさんの声が聞こえる。ローザさん何か私に用事でもあったのかな?こんな時間だけど私もすることないし目も覚めてるから早くでないと。
「ローザさん。何か私に用事ですか?」
「リリィちゃん、ごめんね。起こしちゃったかしら」
「いえ。ちょうど起きてました。全然眠くなかったのでローザさんが来てくれて嬉しいです」
「そう?ならよかったわ」
「それで私に何かようですか?」
「えぇ。ちょっと見せたいものがあって。いいかしら」
「?はい。大丈夫です」
ローザさんが私に見せたいもの?なんだろう。夜じゃなきゃダメだったのかな?
「ついてきて」
「は、はい」
ローザさんについて行って廊下を歩く。昨日と同じように夜なのにたくさんの話し声が聞こえる。朝よりも夜の方が話し声がたくさん聞こえるから夜に起きてる人の方が多いんだな。
「ここが私の部屋。入って」
廊下を歩いてローザさんの部屋に入る。ローザさんの部屋は見たこともない道具がたくさん置いてある。なにに使う道具なんだろう。 私には見当もつかないな。ローザさんが私に見せたいものってこれ?
「ちょっと下がってて」
「?分かりました」
ローザさんが本棚の前に立つ。私はローザさんに言われた通りに3歩ほど下がる。ローザさんは本棚に魔力を込める。するといきなり本棚が横にずれて本棚の後ろに下に下がる階段が現れた。
「こんなところに階段が!?」
「ここから寒くなるわ。これを着て」
「コート、ですか?寒くなるってどういうこと…ってローザさん置いていかないでくださいよ!」
ローザさんからいきなコートを渡される。ローザさんもコートを着てどんどん階段を下って行ってしまった。私も急いでコートを着てローザさんを追って階段を下っていく。階段はどんどんと地下へと向かっていく。壁に設置してあるろうそくを手がかりに真っ暗な階段を慎重に降りていく。下へ向かっていく内に少し肌寒くなってきた気がする。そして階段を降りきった先に大きな扉が見える。扉は氷ついていて上にいた時よりもずっと寒くなってきた。息を吐くと白くなっていく。
「この先にリリィちゃんに見せたいものがあるの。リリィちゃんだから、この先クロードと一緒に行動するなら見せなきゃいけないものよ。少し驚くかもしれないけど、まぁ大丈夫だと信じてるわ」
ローザさんはそう言って凍りついた扉を開ける。扉を開けた瞬間に冷気が一気に襲いかかってきた。あまりの寒さに身震いをする。歯がガタガタしないように必死に堪えながらローザさんと一緒に扉の先へ進む。
「ローザさん…ここなんですか…?」
「冷凍室よ。まぁ見れば分かるわ」
冷凍室…?食べ物があるって感じじゃなさそうだし。それに見れば分かるってどういうこと?それにしても寒すぎる…。身体が凍っちゃいそう……。目の前にはベットの様なものに布がかかってる。膨らみがあるからなにかが布の下にあるみたい。
「リリィちゃん。これが貴女に見せたかったもの。これから先クロードに、私たちに着いてくるなら見せなきゃいけないと思ったの」
ローザさんが布をとる。布が覆っていたものは人間だった。ただの人間には見えない。だって右脚以外の四肢がないんだから。それに胸にはぽっかりと穴が空いてる。銀色の髪の女の人…。目を閉じてまるで眠っているように見えるけど息をしている様には見えない。これがローザさんが私に見せたかったものなの?
「ローザさん…これって……」
「リリィちゃん紹介するわ。この方が私たち魔族が仕えていた魔王。アイリス様よ」
「この人がアイリスさん…?」
「そうよ」
「でもアイリスさんは封印されているはずじゃ……」
「そう。アイリス様は10年前の大戦で封印されたわ。両手両脚、両目、角、そして心臓。その封印で残された身体がこのアイリス様。このアイリス様は意識もない魂もない空っぽの身体だけが残ったの」
「魂……」
「クロードに右脚を受け取ってこの身体に繋げたの。だけど魂は元には戻らなかった。依然魂は別れた状態なの」
この右脚トレイダ街から脱出した時にクロードさんが持ってた脚だ。クロードさんローザさんに渡してたんだ。でもあの時見た時よりも脚のサイズが違って見える気がする。
「アイリスさんの右脚は男の人に移植されてたんですけど、今考えると女性の脚が男性の脚に移植できるとは思えないんです。それに脚の大きさも変わってるように見えるんです」
「そう。普通に考えればそうね。でもここで話すと長くなっちゃうわ。部屋に戻りましょうか。ここじゃ風邪ひいちゃうもの」
「はい…」
あの人がアイリスさん…。クロードさんが取り戻したい人。そういえばあの人私と同じ銀髪だった。ローザさんが会ったって言ってた1人がアイリスさんなんだ。でもアイリスさんから魔力をいっさい感じなかった。やっぱり封印されてるからなのかな?そのあたりのことは私にはよく分からないや。なんて考えながらさっき下った階段を登っていく。階段が結構長いから登るの大変。結構体力使う……。
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「はぁ…はぁ……つか、れた……」
「ちょっと大丈夫?」
「大、丈夫…です…」
「ほら座って」
ローザさんに椅子に座るように促されてありがたく椅子に座って息を整える。もうちょっと体力つけないとなぁ…。
「さて、さっきの話をしようかしら。でもその前にリリィちゃんお腹空いてないかしら?」
「お腹、空いてます…」
「そうよね。夕ご飯食べてないものね。アルバ!」
「な、な、なんですか?ローザ様…」
「うわっ!!アルバさん!!??」
アルバさんが突然何もない空間から現れる。ローザさんに呼ばれて出てきたんだろうけど聞こえてたのかな。それにアルバさんみたいな大きい人がいきなり現れるとびっくりするよ。いや大きさに関わらずびっくりするけど…。はぁ〜…寿命縮まるかと思った…。
「なにか夜食を用意してくれないかしら。私はワインね」
「わ、分かりました。す、少し待っててください」
「また消えちゃった…」
「さて、話を戻しましょうか。まずなにから話そうかしら……。そうね、まずはなぜここにアイリスの身体があるのか話しましょうか」
ローザさんも椅子に座る。足を組んでその足に肘をついて頬杖をつく。やっぱり様になるなローザさん…。じゃなくて、ローザさんの話に集中しなきゃ。
「10年前の大戦のことリリィちゃんは知ってるかしら?」
「はい。なんとなくはクロードさんに聞きました」
「流石のクロードもそこはちゃんと話してたのね。ちょっと安心したわ。それじゃ簡潔に話すわね。10年前の大戦で私たちは負けて勇者たちによってアイリス様は封印された。そしてアイリス様の身体はサナティクト王国に持っていかれたわ。地下にあった身体以外わね」
「それじゃあなんでローザさんはアイリスさんの身体を保管してたんですか」
「優しい、お人好しの人間がいたのよ。封印後、アイリス様の残された身体を私に引き渡した人間がいたの。あの人間が何を考えていたのかなんの為にあんなことをしたのか今になっては分からないけどね」
「人間が、ですか?」
「そうよ。でも私にとっては都合が良かった。私たちはアイリス様の身体を預かりすぐにこの廃墟に辿り着いたわ。そして私とアルバ、傷ついた仲間たちとともに廃墟にこの空間を作り出したの」
「ここを作ったんですか?そんなことができるなんて…」
「魔力を分け合って作り出したの。相当無茶をしたけれどうまくいったわ。でもここを維持するためにみんなからちょっとずつ魔力をもらってるの。リリィちゃんからも魔力をもらってるのよ。知ってたかしら」
「え?確かに言われてみれば??」
「リリィちゃんくらいの魔力量じゃ気づかなくても仕方ないわね。それで私は地下に冷凍室を作りアイリス様の身体を保管したの」
「でもわざわざアイリスさんの身体を冷凍する必要ってあるんですか?右脚はなにも異常はなさそうでしたけど」
「それはアイリス様の魂が封印されているからよ。一説では身体を保つためには命ではなく魂っていう説があるの。でも地下にあったアイリス様の身体は魂はない。魂がなければ身体は徐々に朽ちていく。それを防ぐために凍らせてるの。でも、それもいつまで持つのか……」
「ローザさん………」
ローザさんは手で顔を覆い隠してゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。ローザさんは本当にアイリスさんのことを思っているんだ。いや、ローザさんも、だ。ローザさんもクロードさんもアイリスさんのことを思っているんだ。ジャッカスさんもあんな言い方してたけどきっとアイリスさんのことを忘れられないんだ。
「ごめんなさい…。少し取り乱してしまったわ」
「全然大丈夫です。ローザさんもアイリスさんのことを助けたいんですよね」
「当たり前よ。何もしていないアイリス様があんな目に遭うなんて理不尽にもほどがあるわ。私もクロードも、みんなアイリス様を取り戻そうとずっと10年を生きてきたわ。10年なんて魔族にとって短い時間だけどこの10年はとても長く感じたの。私はアイリス様を取り戻す。絶対にね」
ローザさんの表情から固い決意の様なものを感じる。クロードさんと同じ顔をしてる。本当に大事な人なんだ。
「ロ、ローザ様………」
「アルバ。遅かったじゃない。もしかしてまた盗み聞きかしら?盗み聞きが随分と得意なのね」
「も、もっ申し訳ありません…!今回は本当に聞くつもりじゃな、なかったんです!」
「ふふっ別にいいわよ。今回は気付いてたもの。ありがとねアルバ。持って来てくれて」
「い、いえ…。そ、それでは僕はこれで……」
アルバさんはテーブルにトレーにのった軽食にワインボトルとガラスピッチャー、グラスが2つをテーブルにのせて部屋から出て行ってしまった。ローザさんは早速ボトルのコルクを開けてグラスに並々と注ぐ。
「リリィちゃんも飲む?」
「私は大丈夫です」
「あら。リリィちゃんお酒飲めないの?」
「えっと、お酒をなんだことがなくて……」
「もっったいない!折角だし少し飲まない?ね?」
ローザさんは私の返事を待たずにグラスにワインを注いで私の前に差し出す。とりあえず私は差し出されたグラスを受け取る。グラスからアルコール特有の匂いがする。お父さんも昔ワイン飲んでたっけ…。
「さ、乾杯しましょ!かんぱーい!」
「か、乾杯」
カチンとグラス同士を軽くぶつける。ローザさんは美味しそうにワインを飲んでいく。す、少しなら大丈夫、だよね。




