84話 人魚の涙
「……さん!…リィさん!」
誰?誰かが私を呼んでる…。誰?もしかして、お兄ちゃん?
「ゲホッ…ゲホッゲホッ!」
「リリィさん!!」
「おにい、ちゃ……」
「よ、よかった…目が覚めたんですね」
「ワン!ワンワン!!」
「アルバ、さん…?それにヴァイスも…」
「は、はい。そうです。生きててよかったぁ…もし死んでたら僕、ローザ様たちになんて言われてたか……」
「キューン…」
目が覚めたら心配そうに顔を覗いていてるヴァイスとアルバさんの顔があった。でも、どうしてここにアルバさんが?頭を擦り付けてキューンって鳴いてるヴァイスの頭を優しく撫でる。
「ぼ、僕ローザ様に言われておふたりを付けていたんです。もし危なくなったら、ま、守りなさいって言われて。ほ、本当はもう少し早く助けたかったんですが、ロ、ローザ様から本当に危ない時以外は助けてはいけないって言われていて。す、すみません!」
「全然!助けてくれてありがとうございます」
「ワフッ!」
「ヴァイスも心配かけてごめんね」
「キューン…」
まさかアルバさんがついてきていたなんて。でも全然気づかなかった。魔力探知ちょっと苦手かも。意識してやらないと全然気づかない。舟とかじゃないよね。じゃあ何で海までついてきたんだろう。
「そ、それにしてもまさかシーサーペントがいたなんて…本当に無事でよかったです」
「シーサーペント?あの蛇のことですか?」
「そ、そうです。海に生息する蛇型の魔物です。気性が荒くてち、近づいてきた舟なんかを襲ってしまうんです」
「あ、危ないですね」
「リ、リリィさんが溺れる寸前で助けられてよかった、です…」
「アルバさんが助けてくれたんですか。本当にありがとうございます。でもどうやって……」
あの時私はあの蛇、シーサーペントの尻尾に強く巻きつかれてたはず。どんなにやっても私から離れてくれなかったのに。そう思ってふと海の方を見るとシーサーペントが浮いていた。シーサーペントは胴と尻尾が切り離されてる。もしかしてあれアルバさんが?
「あの、シーサーペントって」
「あ、あぁ…あれですか。ほぼ弱ってましたよ。リリィさんお強いんですね」
「強いってほどじゃ……。あの尻尾を斬ったのってアルバさん、なんですよね」
「え?え、えぇ…そうですけど…それがどうしましたか?」
「いや!ちょっと気になって」
「そう、ですか?そ、そうだ。こ、これシーサーペントに刺さってたナイフです。これってリ、リリィさんのですよね」
「あ、ありがとうございます!なくなったかと……」
「大事なもの、なんですか?」
「お父さんから貰ったものなんです。お父さんの形見、ですね」
「この、ナイフの柄の模様………」
「どうしたんですか、アルバさん?」
「い、いえ!なんでもないです。それより人魚の入江はもうすぐですよ。い、行きましょう」
ナイフの柄がどうしたんだろう。ナイフの柄の模様、ドラゴンっていう生物がかたどられてるらしいけど別に変な模様じゃないよね。それより今は一刻でも早く人魚の入江に向かわないと。
****
「もしかしてあれが人魚の入江?」
「ワフッ!」
再び舟を漕ぎ始めて約5分。岩場の様なものが見え始めた。アルバさんが増えて少し、いや大分舟が手狭になったけどようやく人魚の入江にたどり着いた。アルバさん意外と身長高いからこの舟じゃちょっと狭かったみたい。身長どれくらいあるんだろう。見た感じ180センチは絶対あるよね。
「あ、あれが人魚の入江、です。さ、早速上陸しましょう」
舟を岩場の方に寄せて近場のいい感じの岩にロープを巻きつけておく。久しぶりに地面に足をつけると少しふわふわする。ずっと不安定な舟の上にいたからなんだか不思議な感じ。
「ぼ、僕はここで待ってます。舟になにかあったら大変、なので」
「分かりました。それじゃあ舟のことよろしくお願いします。行ってきますね」
「は、はい。いってらっしゃい、です」
「いってきます」
「ワン!」
アルバさんは舟に残ってくれて私とヴァイスは人魚の入江に上陸した。ここは円状に岩ができていて真ん中は穴が空いて海になってるみたい。とりあえず真ん中の方に向かってみよう。
「なにか聞こえる…。ヴァイスも聞こえる?」
「ワン!」
「真ん中の方から聞こえてくる。行ってみよう」
耳をよくすましてみると歌の様なものが聞こえてくる。女の人の声だ。それに凄い綺麗な歌声だ。透き通るような綺麗な歌声が心地いい。もしかして私たちの他に誰かいるのかな。
「ここからだ…。誰かいますか〜…ってもしかしてあれって人魚?」
「ラララ〜♪…ん?誰かいるの?」
「あ、すみません邪魔しちゃって」
岩場の方からこっそり見てたけどバレちゃった。ウェーブがかった長い栗色の髪に魚のような下半身。まさか歌声の正体は人魚だったなんて。昔読んでもらった本で人魚は歌声は綺麗って書かれてたけど本当だったんだ。
「わっ!人間じゃん!それにワンちゃんまで!こっちにおいで」
「は、はい!」
「ワンッ!」
人魚に誘われて岩場から出てきて人魚の元へ向かう。近くで見ると本当に綺麗な人だ。でも上半身は貝殻の胸当てだけでちょっと目線に困る。
「2人とも!人間の女の子とワンちゃんが遊びに来たよー!」
「人間の女の子〜?」
「あら、本当だわ!」
人魚の女の人が海の方へ呼びかけると海の中から2人の人魚が顔を出してきてこっちに近づいてきた。人間の私とフェンリルのヴァイスが珍しいのか興味深々に私たちを見ている。
「ねぇねぇ何しに来たの〜?」
「観光?でもここ何もないわよ?」
「えっと、私たち人魚の涙が欲しくてここまで来たんです」
「人魚の涙?その為にここまで来たの?」
「別にここまで来なくたって、ねぇ?」
「そうだねぇ。まぁ欲しいっていうんならあげてもいいんじゃない〜?」
「いいんですか!?」
「ワフッ」
「いいよ。ちょっと待ってて」
そう言うと最初に会った栗色の髪の人魚が俯いて手のひらに涙を流した。すると手のひらに溢れた涙が石のようにコロリとかたまった。固まった涙はキラキラと輝いてまるで宝石みたい。これが人魚の涙…。
「はい。どうぞ。落とさないように気をつけてね」
「ありがとうございます!これでクロードさんを…」
「そんなに喜んでくれて嬉しいわ。そうだ、貴方舟で来たんでしょう。せっかくだから送らせて」
「いいんですか?なんだか申し訳ないです」
「全然!」
「私たちがいたら海に住んでる魔物もきっと襲わなくなるわ」
「それに暇だしね〜」
「それじゃあ…お言葉に甘えて」
「私たちは先に舟で待ってるね」
3人の人魚は一斉に海に潜っていった。もらった人魚の涙を大切に鞄の中にしまっておく。本当に人魚っていたんだ。ちょっと感動しちゃった。本の中だけの存在だと思ってたけど実際に会えるなんて思わなかった。そういえば小さい頃人魚に会いたいって思ったな。森のの外に出てから私が今までいたところは本当に狭かったんだなって思い知らされる。
「それじゃあ舟に戻ろっか。アルバさんも待ってくれてるし」
「ワン!」
****
「お待たせしましたアルバさん!」
「ワフンッ!」
「リ、リリィさん…お帰りなさい、です」
「さっきの女の子とワンちゃん!」
「待ってたよ〜」
「まさかアルバ様とお知り合いだったなんて」
アルバさんと人魚の人なんだか仲良さそう。私が声かける前楽しく話してそうだったし。知り合いだったのかな?
「皆さんは知り合いなんですか?」
「私たち人魚も一応魔族の括りなのよ」
「昔はアイリス様たちにお世話になったね〜」
「そうそう。特にローザ様にはね」
ローザさんも知り合いだったんだ。なんの関わりがあったんだろう。私、まだあんまりローザさんのこと詳しくないからなぁ。戻ったら聞いてみようかな。
「む、昔の話です。そ、それよりリリィさん、人魚の涙は手に入れられたんですね」
「はい!バッチリです!」
「私たちが奮発したからね〜」
「よ、よかったです。それじゃあ戻りましょうか」
「はい!早くクロードさんのところへ戻らないと」
「そ、それじゃあ僕たちは失礼しますね。す、すみません久しぶりに会ったのに…」
「いいんだよ!それに私たち女の子たちを送り届けようと思ってここまで来たのよ」
「そうそう。私たちがいたら安全に海を渡れるからね〜」
「それにせっかく久しぶりに会ったんだからもう少しいたいわ」
「確かに、人魚のみなさんがいれば海を安全に渡れる……。そ、それじゃあお願いできますか?」
「もっちろん!任せなさい!!」
私とヴァイスが舟に乗り込んで岩場にくくりつけておいた縄を解く。アルバさんがオールで漕いでくれて舟が少しずつ動きはじめる。
「トレイダ街の港でいいんだよね」
「そ、そうです。お願いします」
「任せて〜」
「しっかりつかまっておいてね」
言われた通りに舟のへりにしっかりつかまる。人魚の人たちが海の中にもぐっていくとオールで漕いでないのにゆっくりと舟が進みはじめた。波が進行方向に流れはじめたみたい。
「に、人魚は波をうむことができるんです。海に住む種族らしい、ですよね」
「凄い!だから舟が進んでるんですね」
「ワフッ!」
「た、たまに気に入らない船を波を起こして転覆させるっていう逸話があったりするんですけどね…」
「え、」
「ワフン!?」
「いつの話してるの〜。その話はずっと昔の話だよ〜」
海の中から1人頭をひょっこりだして話に入ってきた。少し癖っ毛のショートカットで語尾が伸びているのが特徴の人魚の人だ。昔の話ってまさか本当にあったりはしないよね。噂みたいなものだよね。
「ご、ごめんなさい。何年前、でしたっけ」
「確か〜…200年ぐらい前、だっけ?」
「も、もう、そんなに経ってたんですね」
「あの、その話って本当にあったんですか?」
「うん、そうだよ〜。恋に落ちた人魚と人間の男がいたんだけど、人間の男が他の人間の女の人と浮気しててね〜。それを知った人魚が男が乗った舟を波を起こして転覆させちゃったって話なんだよね〜」
「本当にあった話だったんだ…」
「まぁ今は全然知られてないけどね〜。じゃ、私戻るね〜。あと、スピード上げるから落ちないように気をつけて〜」
「あ、はい」
そう言ってまた海に潜っていってしまった。なんかサラって話されたけど凄い話だったよね。裏切られた人魚の人が舟を転覆させるまで追い詰められてしまうなんて。恋って怖いなぁ…。私にはまだ早いかも。
「リ、リリィさん。ちゃんとつ、つかまっておいたほうがいいですよ」
「え?」
アルバさんに声をかけられた途端、舟がさっきまで違ってスピードが何倍にもなって猛スピードで進みはじめた。身体がよろけそうになってすぐに舟につかまる。ヴァイスも片手で抱き寄せて落ちな様に必死になる。
「うわぁああぁああああああーーー!!!!!」
「ワオーーン!!!」
叫んでいる私と違って楽しそうにしてるヴァイスとなんのリアクションもなく海を眺めているアルバさん。なんだか温度差が凄い…。と、とりあえずトレイダ街に着くまで堪えなきゃ……。




