82話 海の蛇
「はぁ…はぁ……!」
海の蛇に追いかけられて必死にオールを漕いでるけどもう体力が限界…!いつまで追いかけてくるの!?
「シュルル………」
「はぁ…やっと、諦めてくれた……?」
蛇が海に潜っていった。ようやく諦めてくれたのかな。それにしてもまさかあんな魔物が住んでたなんて…。いるっては聞いてたけどまさかあそこまでとは……。
「はぁ……はぁ…。怖かっ…!!」
一瞬でなにが起きたのか分からなかった。でも気づいたら私は海の中にいた。私のお腹には尻尾が巻きついてる。尻尾を辿るとさっきの蛇が狡猾そうに笑っている。尻尾で海の中に引きずり込まれたんだ。やられた…!逃げてなかったなんて!
「(苦しい…このままじゃ息がもたない…!)」
空気が漏れない様に両手で口を押さえる。尻尾の巻きつきが弱まる素振りがない。このままじゃ窒息死しちゃう…。
「シャー!!」
鳴き声を上げて口を開きながらこっちに向かってくる。このままじゃ丸呑みにされる…。
「!!」
何かないかと服の中を探ってたらナイフが懐に入ってた。そうだオークションに向かう前に用意しておいてそのままにしてたんだ。これは使える!ナイフのカバーをとって巻きついてる尻尾に刃を思いっきり突き立てる。刃の先から血が滲み出て海の色を赤く染める。
「ギャァアアア!!」
悲鳴をあげて身体を捩り始める。巻きついた尻尾の力が弱まって身体が解放される。すぐに水面に向かって泳ぐ。手で水をかいて不恰好になりながら酸素を求めて必死に泳ぐ。
「ぷはっ!!ゲホッ、ゲホッ!ゴホッ!!はぁ…はぁ……死ぬところだった」
近くに留まっていた舟に手をかけて咳をしながら酸素を肺いっぱいに取り込む。舟の上から心配そうにヴァイスが私を見ている。
「ワン!ワンワン!!」
「はぁ…ヴァイス、まだ海の中にあの蛇が…」
ザバアァァ……
「シャーー!!!」
「来た…!」
蛇が海中から出てきてこっちを睨んでる。かなり怒っているみたい。さっきナイフで刺しちゃったのが良くなかったんだ。でもここでなんとか倒さないと人魚の入江に行けない。
「やるしかないんだ…」
舟になんとか乗り直しす。服がびしょ濡れで気持ち悪いし身体が重い。あの蛇を倒すにはやっぱり魔球をぶつけるしかない。さっきの刺し傷じゃ怯んだだけで致命傷にならない。海の中に引きずり込まれたら今度こそ終わりだ。気をつけないと。
「ヴァイス、やるよ!」
「ワン!!」
ヴァイスも元の身体の大きさに戻って蛇に向かい合う。私も手のひらに魔力を集める。手のひらを蛇に向けて照準を定める。集中して手のひらに魔力を集める。
「はぁっ!!」
集めた魔力を蛇に向かって放つ。だけど身体をくねくねとよじらせて簡単に避けられた。あんなに簡単に避けられるとちょっとショック…。避けられない様に魔球を何発も撃ち込むけど簡単に避けられる…!
「グルルルル……ボアァア!!!」
「シュルルル…」
ヴァイスが青い炎を蛇に喰らわせるけど効いてる感じがしない。もしかして熱に強い?だとしたらヴァイスの力は借りられない…。私がなんとかしなきゃ!でも魔球は簡単に避けられる。もっと近づいて避けられない距離で当てるしかない。でもどうやって近づけば…。
「ヴァイス。あとは私に任せて」
「ワフ!?ワン!ワン!」
「心配してくれてありがとう。でも、ヴァイスの炎が効かないなら私がやるしかないんだ」
「キューン……」
心配してくれてるヴァイスの頭を撫でて海の蛇に向かい合う。余裕そうに嘲笑ってる。私じゃ自分は倒せないって思ってるんだろう。実際そうかも知れないけど…。
「ふーっ……よし!」
身体中に魔力を巡らせて運動能力を強化する。これである程度は対応できるはず。
「シャー!!」
「きゃあ!あっぶなっ!!」
襲いかかってきた蛇の頭をジャンプして避けて蛇の身体に登る。落ちない様にナイフを身体に突き立てる。蛇が痛みに悶えて暴れるけど振り落とされないように必死に堪える。
「シュルルルル…!」
ザバアァァアン!!!
「ワンワン!!」
「(水の中に…!)」
私を引き連れたまま水の中に潜っていった。このまま私を溺死させるつもりだ!潜る瞬間に少し水を呑んで苦しい…!でもここまで近づけた、このまま魔球をぶつける!!
「(喰らえ!!)」
「ギャァアアア!!!」
ナイフを片手に持ってもう片方を蛇の鱗にピッタリつけて魔球をゼロ距離でぶつける。悲鳴をあげてるけどさっきナイフで刺した時よりも効いてない気がする。もしかしてこの鱗魔法に対して耐性があるのかも。だったら鱗がない場所に喰らわせるしかない。それなら……。
「シャーー!!!」
ナイフから手を離して私の方に誘導させる。蛇は私が諦めたと思ってまっしぐらに向かってくる。思った通り私を食べようと大口を開けている。ここしかない。ここを外したら終わりだ…!
「(今の私の最大出力!!)」
「ギャアアアァァァアアア!!!!!」
大口を開けた蛇の鱗のない口の中を狙って今の私が出せる最大出力の魔球を喰らわせる。上手く口の中に魔球を喰らわせて蛇が悶え苦しんで暴れている。暴れてる影響で水流が生まれてそれに流される。もう空気がもたない…早く海面に出ないと……!
「シュー…シュー……シャー!!」
「!?(尻尾が巻きついて…!)」
巻きつかれた衝撃で肺に残ってた酸素が口から漏れ出ていった。海に漏れ出る空気の泡が儚く消えていく。
「(放せ!!)」
ナイフで尻尾を刺しても前と違って力が緩む気配も放す素振りもない。例え自分が死んでも私をこのまま道連れにする気なんだ…!あぁ…やばい、かも……。目の前がぼやけてきた。諦めないで何度も刃を突き立てたけどもう限界…手に力が入らない………。
「(ここで、死ぬの……?)」
苦しい、苦しい……こんなところで死ねない。クロードさんをまだ助けられてない、お兄ちゃんをまだ見つけられてない。死ねない…絶対に死ねない…!!
「ギャアアアァァア……!!」
遠くであの蛇の叫び声が聞こえた気がした。気のせいかな…。もう目の前が良く見えない。そういえば水面の方で水飛沫みたいな音が聞こえた気がしたけどきっと幻聴だ。お兄ちゃん…会いたいなぁ……。




