81話 人魚の入江へ
ローザさんの屋敷を出て地図通りに港へ向かう。街はもう人が溢れかえって活気に満ちている。港の近くまで来ると海がよく見えて綺麗…。前はここまでちゃんと見えなかったからちょっと感動。
「あ、そうだ。ローザさんに貰った薬飲まないと。ここだとあれだし人がいない方に行こう」
人が沢山集まってるところだと目立ちそうだったから裏路地に行って鞄から小瓶を取り出す。水色の液体が日にあたって輝いてる。気持ちのいい音が鳴ってビンの栓が抜ける。少し匂いを嗅いでみたけど見た目に似合わず嗅いだことのない悪臭がする…。これ、大丈夫かな?
「ええい!女は度胸!!」
ゴクッ!
口に入れた瞬間舌に痺れが走る。口に広がる苦味や辛さに酸味。その後に不快になる様な甘さが襲ってきた。こ、これは…熟してないマナットよりも酷い味だ……。
「ゲホッゲホッ!!」
「キューン…」
「うぅ……だ、大丈夫…。ありがとうヴァイス…」
あまりの不味さに思わず咳き込んでしまう。でもこれでちゃんと髪の色変わってるのかな?
「鏡持ってないなぁ…。確認する方法ないし一応帽子ちゃんとかぶっとこ。よし、これで準備はオッケーかな。一応ナイフもすぐに取り出せるし。ヴァイスは目立つから鞄の中に入ってて」
「キャン!」
ヴァイスが小さくなって鞄の中に入る。裏路地のを出て港へ向かう。港で舟を借りれるってローザさんが言ってたけどどこで借りれるんだろう。
「綺麗……」
港に着くと磯の匂いと潮風を感じる。海は透明で透き通ってる。湖とも違う青さだ。ここは一段高い位置だから海やその付近で働いてる人たちがよく見える。港の人たちは釣った魚を整理したり船の整備をしたりしていていそがしそう。とりあえず階段を降りて海の方に行ってみよう。もう少し近くで海を見てみたい。
「これが潮風…。初めて……」
「黒髪の姉ちゃん海初めてか?」
「え、私ですか?」
「他にいねぇだろ?」
道の端で潮風を感じてると体が大きくて上半身の筋肉が凄い男の人に声をかけられた。一瞬声をかけられたことに気がつかなかったけど私の周りに人がいなかったから消去法で私だと分かった。でも黒髪って。もしかして薬の効果ちゃんとでてるの?
「わ!本当に黒い!」
「さっきからなんだんだ姉ちゃん」
「あ、ごめんなさい!」
色が変わってるのか確かめるために身を乗り出して海を覗き込む。水面にうつってる私の髪は本当に黒くなってた。あの薬本当に効果があったんだ。よかった…あの味で効果がなかったと思うと………。
「それで姉ちゃんはこんなところに何しに来たんだ?若い女の子が1人で来るなんて珍しいからよ」
「私、舟を借りたくて。どこで借りれるか知ってますか?」
「舟か?それならあっちで借りれるぜ」
指差した方向には海に小舟が数隻浮いている。あそこで借りれるんだ。お金はクロードさんから預かったものがまだ余ってるからお金に関しては大丈夫そう。
「しかし、舟でどこへ行くんだい?釣りでもするのか?」
「私人魚の入江に行きたいんです」
「人魚の入江かい!?それはまた珍しいところへ行くもんだなぁ。しかし1人で大丈夫かい?あそこら辺の海に魔物が最近彷徨き始めたらしいしからな」
「大丈夫です。心強い仲間がいるので」
「後で誰かと合流するのか?まぁくれぐれも気をつけろよ。人魚にあったら涙でも貰いな。きっといいことあるぜ」
「はい!親切にありがとうございました」
「おう!本当にきぃつけろよ!!」
親切にしてもらった男の人にお礼を伝えて教えてもらった場所に向かう。小舟の近くにおじいさんが座ってる。あの人が舟を貸し出してるのかな?
「あの〜すみません。舟を借りたいんですけど」
「おぉ、そうかぁ。そしたら銅貨5枚だねぇ」
「えっと銅貨5枚っと」
「ちょうどだねぇ。そしたら好きなの選びなぁ」
おじいさんにお金をちょうど渡して舟を選ぶ。っていってもどれも同じに見える。全部木製で2、3人くらい乗れる小舟だ。多分なんでもいいよね。
「じゃあこれにします」
「そうかぁ。それじゃあ気をつけてなぁ」
舟に乗って計船柱にくくられていたロープを解く。波にのってゆっくりと船が進み始める。舟に備えてあったオールを使って漕ぎはじめる。力いっぱいオールで漕ぐとあっとういうまにさっきまでいた港が小さくなり始めた。波が海の方に流れてるのもあって舟は海原へ進んだ。
「ヴァイスもうでてきていいよ」
「キャン!」
鞄からヴァイスが顔を出して私の前にちょこんと座る。小さめの舟だから身体は小さいままになってもらってる。
「それにしてもどれくらいで着くんだろう。人魚の入江」
今は何もない海のど真ん中。1日はかからないと思いたいけど、目的地が見えないと果てしなく感じる。でも今まで森の中にいた私にとって海は凄く新鮮で綺麗。ここに来てからずっと海に感動しっぱなしだ。透き通る海を少し覗くと魚たちが楽しそうに泳いでる。
「ふぅ〜…地味に体力使うなぁ」
オールを漕ぎ続けて数分。港はすっかり姿を消してしまった。波が舟を運んでくれて思ったよりも進んだ気がする。でも未だに人魚の入江らしきものは見えてこない。この感じだとあと20分はかかっちゃうかも。早く人魚の涙をもらってクロードさんのところへ帰りたいのに。
「ちょっと休憩……。波も運んでくれてるし少しだけ休憩したらまた漕ごう」
「キャン!」
オールを置いて両手をぶらぶら遊ばせる。腕の筋肉を凄い使うから明日筋肉痛になりそうだ。休憩がてら海の中をじっくり見てみる。海が透き通って綺麗だから海底まで見えちゃいそう。ここ、思ったよりも深そう。そういえば私って泳げるのかな。森のなかにあった湖は膝くらいしか深さがなかったから泳いだことはなかったなぁ。
「落ちたら大変だ…。落ちない様にしよう」
「!キャン!!キャンキャン!!」
「ヴァイス?どうしたの?」
ヴァイスがいきなり海に向かって吠え始めた。なんなのかわからなかったけどその原因はすぐに分かることになった。
「なに、この魔力…!?海の中から?」
海を少しだけ覗くと海底から大きな影が迫ってくる。キラリと鋭い眼光が光った気がした。感じた魔力の原因はこれだったんだ!
「早く逃げないと!!」
オールをすぐさま手に取って大急ぎで漕ぎはじめる。さっきまでの疲れなんて忘れたみたいに力一杯漕ぐ。バシャバシャと音を立てて水の重みがオール越しに伝わる。早く離れないと!!
「グアァァアア!!!!」
「きゃあ!!」
先までいたところに青くて大きい蛇の様な魔物が大きな口を開けて真下から現れた。水飛沫がこっちまできて波で舟が大きく揺れる。落ちないように必死にヴァイスを抱えながら舟を必死にしがみつく。逃げられなかったら私たちあの蛇に丸呑みにされてた……。
「シュルルル……」
「はぁ……はぁ…こっち見てる…」
見える限りで体長が2メートル以上はあるかも。あれに飲み込まれたらと思うだけでゾッとする。蛇が私たちを狙いを定めた。逃げなきゃ…死ぬ!




