80話 あなたの為に
「全然寝られなかった……」
ローザさんに貸してもらった部屋。ベットに寝っ転がっても全然眠気が来なくて結局寝られなかった。クロードさんのことを考えるとどうしてもゆっくり休めなかった。
「くあぁー…」
「おはようヴァイス。よく寝れた?」
「ワン!」
一緒にベットで寝てたヴァイスはよく寝れたみたいであくびをしながら体を伸ばしてる。こう見ると結構身体長いんだなぁ。
コンコン
「おはよう。もう起きてるかしら?」
「ワフ?」
「この声、ローザさん…?今開けます」
ドアの外からローザさんの声が聞こえてすぐにドアを開ける。思った通りローザさんの顔が見えた。
「ゆっくり休めたって感じじゃなさそうね。起きてすぐにで悪いけどちょっと着いてきてもらっていいかしら。貴女をみんなに紹介したくて」
「みんな?」
「昨日言ったでしょ。ここには匿ってる魔族がいるって。ここに滞在するなら紹介しておいた方がいいと思って」
「そうですか…。分かりました」
「よかったわ。それじゃあ行きましょう」
ローザさんに案内されて廊下を歩いていく。廊下には沢山の扉が並んでいる。ここ、どれくらい部屋があるんだろう。
「ここよ。大丈夫。もしなにかあれば私が守ってあげる」
「は、はい」
ローザさんがゆっくりドアを開ける。部屋の中にいた人たちが一斉にこっちへ目線を向ける。クロードさんの様に頭から角が生えてる人、体の一部が異形の人、トカゲの様な人までいる。他にも人間とは違う特徴を持つ人が沢山いる。この人たちはみんな魔族なんだ。
「ローザ様、珍しいですねここに来るなんて」
「見て、隣にいるの」
「まさか、人間…?」
「しかもフェンリル連れてない?」
「まさか……本物なのか?」
部屋に入るとヒソヒソと話し声が聞こえる。私とヴァイスの噂をしてるみたい。
「みんな!今日はみんなに紹介したい子がいるの。リリィちゃんおいで」
「えっと、初めましてリリィで…!!」
ガキィィン……!
金属が衝突する音が響く。私の目の前で武器が交差している。襲いかかってきた黒い爪を紫の大鎌が防いでくれた。この一瞬で何が起こったのか全くわからない。
「何故です!ローザ様!!」
「この子はクロードが連れてきた子。貴方が勝手に手を出しちゃダメよ」
「クロード様が?何故!?」
「その腕を引っ込めなさい」
「でも!!」
「納めなさいって言ってるのよ。聞こえないのかしら」
「…!申し訳、ありません」
「それでいいの」
目の前の腕が異形の人がゆっくりと腕をおろした。ローザさんの少し怖い雰囲気に私も少し圧倒される。ローザさんも大鎌をゆっくりおろす。大鎌が溶けるように消えていく。あの大鎌はなんだったんだろう…?
「ガルルルルル……!!」
「ヴァイス、私は大丈夫だから」
威嚇してるヴァイスを大人しくさせる。牙を剥き出しで威嚇してて少し怖いけど、私の為に怒ってくれてると思うと少しだけうれしい。
「リリィちゃん」
「は、はい」
ローザ様に背中を押されて前に出る。私に多くの視線が集まる。決していい感情じゃないことは私にも分かる。まるで恨んでいる様な……。
「私、は…リリィといいます。クロードさんと一緒にここまで来ました。…………みなさんが私の事をよく思ってないのは分かってます。私のことをどう思ってもらっても構いません。でもクロードさんのことを助けたい気持ちは一緒です。長くここにいるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。こっちはフェンリルのヴァイスです。とってもいい子で賢い子です。ヴァイスのこともよろしくお願いします」
「ワン!」
私が思っていることを伝えられたと思う。上手く伝わったかは分からないけど…。
「と、いうことよ。リリィちゃんはクロードが良くなるまでここにいさせるつもりだから。もしリリィちゃんに何かあったら私とクロードが黙ってないから。そこらへんの理解よろしくね」
「分かりました……」
「ローザ様が言うなら仕方ない、か」
「そうだね」
「それじゃみんなよろしくね!リリィちゃんちょと話があるんだけどいいかしら?」
「あ、はい」
ローザさんに連れられて部屋を後にする。部屋を出る前に沢山の魔族人の顔を見たけど困惑している様な納得していない様な顔をしている。私は魔族と人間の間に何があったか詳しくは知らないけど、人間にいいイメージを持ってる人はきっと少ないはず。受け入れてもらえるように頑張らなくちゃ。
「さて、何から話そうかしら」
客間に案内されてソファにローザさんと正面に向かって座る。ヴァイスは私の足元で座っている。ローザさんはスラリと長い脚を組んで頬に手をあてて何か悩んでいる。
「じゃあまずはクロードのことを話そうかしら。貴女クロードのことすっごく気にしてたみたいだし。そのせいでちゃんと寝れてないんじゃない?」
「!なんでわかったんですか?」
「なんとなくよ。疲れが抜け切ってない感じがしたし。それでクロードなんだけど毒は完全に身体から抜け切ったわ」
「本当ですか!」
「ワフッ!」
「えぇ。でもいい話だけじゃないわ」
「え?」
「毒の後遺症が残ってしまったの。身体は上手く動かないし目も上手く見えないみたい」
「後遺症…」
「それと1番の問題は角ね」
「角、ですか?」
「毒の治療をする為に角を完全に切除したの。クロードは魔人っていう種族なんだけど魔人には頭に角が生えてるの。ここまでは分かるかしら」
「はい。前に魔族にいろんな種族がいるってクロードさんに聞きました」
「それで魔人が魔力を生成する器官が角なの。他の種族と違って体内じゃなくて角で魔力を沢山生成するの。そのおかげで魔人は他の種族に比べて魔法を扱うのが得意な種族なのよ。さて、もう私が何を言いたいのか分かったかしら」
「その角を完全に切除したってことは……まさか!」
「えぇ。クロードはもう魔法を使えないわ。後遺症のこともあるしクロードはもう戦えないわ」
「そんな…!」
クロードさんがもう戦えない…。それじゃあアイリスさんを助けたいっていうクロードさんの願いはもう………。
私がもっと戦えたら、私がもっとクロードさんの力になれたら…。
「キューン……」
ヴァイスが心配そうに私の顔を心配そうに見上げている。ヴァイスはいつも私のことに気づいて、私のことを心配してくれる。私、ヴァイスにも頼りっぱなしだ。ヴァイスにも戦う力があるのに、なのに私には…。
「クロードさんを治す方法はないんですか!?」
「そう、ね…………1つだけあるわ」
「本当ですか!!」
「人魚の涙っていうものがあるの。その名前の通り人魚の涙が結晶化したものよ。それにはあらゆる怪我や病気を治す効能があるの」
「人魚…本当にいるんだ。じゃあそれでクロードさんを治せるんですね!」
「ここにはないのよ。だけど手に入れる方法はあるわ」
「それって…」
「これを見て。これはトレイダ街周辺の地図よ。ここの海に人魚の入江って名前がついてるでしょう?」
ローザさんは空間から地図を取り出してテーブルに広げる。指さしたところには海に人魚の入江って書いてある。
「ここに人魚が住んでるの。ここに行くには港から船で行かないといけないの」
「じゃあそこに行けば…」
「えぇ。それで貴女には人魚の入江に行って人魚の涙を手に入れて欲しいの」
「私が、ですか?」
「そうよ。私は立場的にあまり人間の前には出れないの。もし私のことがバレたら大変だし、ここのことが見つかったらダメだからね。でもリリィちゃんだったら大丈夫なはず。リリィちゃんはまだ顔はそこまで割れていないはずだから人が集まる港でも行動ができるわ。それに人魚は友好的だから人間のリリィちゃんでも危険じゃないわ」
「私、行きます。人魚の涙でクロードさんが助かるなら私、どこへだって行きます!」
私の答えはすぐに出てきた。クロードさんが助けられるなら私にできることはなんでもしたい。たとえどんな危険な場所だって私は行く覚悟はできてる。それにクロードさんがこうなったのも私が弱いせいもあるんだ。私が力になれるんなら力になりたい。
「分かったわ。それじゃあこれを渡しておくわね」
「なんですか、これ?」
ローザさんに渡された小瓶を光にかざして眺める。中に入ってる薄水色の液体が揺れてちょっと綺麗。
「これは色変え薬。リリィちゃんのその銀髪は目立つからね。その薬を飲めば一時的に髪の色が変わるの。でも効果は2時間くらいだから気をつけてね」
「分かりました。それじゃあ私行ってきます!」
「えぇ気をつけてね。人魚は友好的だけど、道中の海に住んでるかもしれない魔物は危険だから」
「はい。ヴァイスがいてくれるのできっと大丈夫です」
「ワン!!」
「確かに心強いわね。港で船を借りれると思うから舟を借りて人魚の入江に向かうといいわ。それじゃあ頼むわよ」
「はい!」
ローザさんに玄関まで見送ってもらって屋敷を出る。屋敷を出る前に屋敷に入るための合言葉を教えてもらった。ローザさんが昨日言ってたやつだ。
「行こうヴァイス。クロードさんを助ける為に!」
「ワン!!」
****
「い、いいんですか?ローザ様……」
「あら、アルバ。起きてたの。それに盗み聞きをするなんていい趣味してるわね」
リリィちゃんを見送った後廊下の陰からアルバがコッソリと顔をだしてきた。いつからそこにいたのか分からないけど、この反応からして私たちの話聞いてたみたいね。ここは魔力が多すぎて魔力探知がやりづらいからアルバを探すのも一苦労なのよね。だから盗み聞きしてるのも気づかなかったわ。
「す、すみません!」
「冗談よ。それにアルバは何を言いたいのかしら」
「人魚の涙はただの宝石…怪我や病気を治す効果なんてないはずじゃ……」
「そうよ」
「じゃ、じゃあなんでですか?」
「試してるのよ」
「試し、ですか…?」
「えぇ。ただの人間にこれから先旅を続けるのは厳しいわ。それに私たち魔族の問題になにも知らないあの子を巻き込むのは申し訳ないわ」
「じゃ、じゃあ、なんであんなことを言ったんですか…?」
「もしあそこで行かないって言うなら私はあの子を無理矢理にでも家に帰すつもりだったわ。でもまさか即答されちゃうなんてね。それに人魚の涙ってそこらへんで売ってるのよね。それを含めてあの子がちゃんと人魚の入江まで行って持って帰るまでがあの子にとっての試練なの。もしお店で買ってきても私はあの子を家に帰すわ」
「そう、なんですか」
「あの子は優しすぎる。その優しさがいつか自分自身を滅ぼしそうで怖いの」
「も、もしかしてアイリス様のこと、ですか?」
思ってもみなかった言葉に少し驚く。確かにあの子はアイリス様に似ているかもしれない。同じ銀髪だからってだけかもしれないけど、それだけには思えない。アイリス様と一緒の藤色の瞳に自分よりも他人を思いやる心。それになによりも種族関係なく手を差し伸べるところ。アイリス様とリリィちゃんはどこか似てるのかもしれないわね。
「そうかも、しれないわね……」
「ローザ様…」
「さ、私はクロードの毒の解析を進めるわ。また同じ毒を使われたらたまったものじゃないもの」
そう言って私はアルバから逃げるように研究室へ歩みを進める。アイリス様……封印されてからもう10年…。早く、早く取り戻さないと。またあの太陽の様な温かい笑顔を見たい。あの時の様に私に優しく手を差し伸べて欲しい。必ず目覚めさせてみせる。それが私たちの望みだから。




