8話 森の外
「じゃあ私、準備してくるので少し待っててください」
「ああ、分かった。邪魔だろうから俺は外に出てるぞ」
「はい。すぐ終わらせますね」
とりあえず、あいつが準備を終わらせるまで外で待ってよう。暇だからここら辺を散策でもしてるか。食料調達に魔獣を狩るのもいいな。
「クロードさん。準備終わりましたよって、あれいない…。外で待ってるって言ってたのにどこ行っちゃたんだろ。まさか置いていかれちゃった!?まずいまずいクロードさんを探しに行かなきゃ!」
「うるさいな。そんなに騒いでどうしたんだ」
待ってた間に狩った魔獣を引きずりながら戻ると、あいつが家の前で騒いでた。この数時間で一体何があったんだ。
「あ、よかった〜。クロードさんどこか行っちゃたのかと思って焦りましたよ」
「何言ってんだ。外で待ってるて言っただろ」
「本気で焦ったんですからね。あと気になってたんですけど、後ろのそれ何ですか?」
「これか?お前を待ってた間に狩ってきた魔獣だ」
「狩ってきた!?この短時間で!?でも、それどうするんですか?」
「捌いて食料にする。今持ってる食料も数が少なくなってきたからな」
いつ終わるかわからない旅だと食料は大事だ。欠かさないように心がけないと。それに2人旅になったから、これから必要な食料は増える。今のうちに食料を確保しておこうと思ったんだが。
「食べるんですか!?そもそも魔獣って食べれるんですか?もし食べれるとしても美味しいんですか?」
すごい質問責めしてくるな。そんなに嫌か?魔獣を食べるの。魔族だと普通に食べるんだが。まあ、アイリスが魔獣を統制してから食べる機会も無くなったから、俺も食べるのは久しぶりだな。
「魔獣は普通に食べれるぞ。普通の動物に比べて脂ものっていて美味い」
「人間の私が食べても大丈夫なんでしょうか?」
「人間も普通に食べれるぞ。魔族と人間の味覚は同じだし平気だ」
「だとしても抵抗感が……」
「そもそもお前、いつもどんなもの食ってたんだ」
「普通に池で魚釣ったり、キノコとかをとって食べてましたよ」
それもそうか。普通の人間が魔獣を食べる機会なんてそうそうないだろう。魔獣は人間が見ると、普通の動物に比べて見た目がグロテスクらしい。昔、メイが魔獣を見て泣いたのは見た目が原因だったな。
「まあ一度食べれば抵抗感もなくなる。慣れろ」
「そんな殺生な!」
あいつが騒いでいるのを無視して、空間魔法にしまってたナイフで魔獣を捌いていく。昔はよくやっていたが最近はやっていなかったから上手くできるが不安だった。が、捌き終わった魔獣の様子を見れば、どうやら腕は衰えていなかったようだ。
「うぅ……。魔獣を食べることにはもう文句言いませんけど、そんな沢山のお肉どうするんですか?持ちきれないし、腐っちゃいますよ」
「空間魔法でしまう。腐らないから便利だぞ」
空間魔法で作った収納空間に捌いた肉を放り投げる。
「ほえー。魔法って便利ですね。あれ?その宝石みたいなのはなんですか?」
「魔石だ。魔獣はこの魔石を媒体にして魔法を使う」
「わー綺麗ですね」
「いるか?俺はいらないが」
「え、いいんですか!」
「ああ。市場でそこそこの値段で売れるんじゃないか」
魔石は魔獣や採掘から取れ、大きさによって値段が変わってくる。魔石は他の宝石と違って魔法や魔力を封じ込めることが可能だ。大きい魔石ほど強力な魔法を封じ込めることができる。
魔石は主に生活用品に使われたり、魔法を補助する役割などを持っている。だから魔石はどこでも需要がある。魔石はどこでもそこそこの値段で売れる。俺のループタイと片方にだけつけたピアスにも魔石が使われているが、たいした魔法は封じ込められてない。
「え!売っちゃうんですか?」
「魔石に魔法を込めるにはそれなりの技術が必要だ。ただの素人が持ってても何の意味もないぞ」
「うーん…でも綺麗なので売っちゃうのはもったいないから、私は大事に持つことにします。」
「そうか。まあ勝手にしとけ」
あいつは魔石を背中ほどの大きさのリュックに大事そうに仕舞い込んだ。それにしてもリュック小さすぎないか?
「お前、荷物それだけか?」
「はい。私そんなに物持ってないんです。これに入ってるのは、着替えと護身用の武器くらいですね」
「ならいいんだが。とりあえずこの森を出るぞ。言っとくが、森には魔獣が少なくないから、死にたくないんだったら離れないことだな」
「わかりました!」
森を抜け出すために草木をかき分けながら歩いて行く。
「そういえば、アイリスさんの体のありかに心あたりはあるんですか?」
「一応な」
「どこ、どこなんですか!」
顔をぐいっと近づけながら聞いてくる。勢いがすごいな。
「10年前アイリスの体を持って行ったのは国に雇われた勇者だ。十中八九国の奴が持ってる」
「じゃあ王都に行けばいいんですね。でも、それが分かったらクロードさん王都に行けばいいじゃないですか」
「それがそうもいかない」
「え?なんでですか」
「王都には魔の者が入れないよう高度な結界魔法が張られている。魔族である俺はその結界に阻まれて王都に入れない」
そう。10年もアイリスの体を取りもせずにいたのは、魔族である俺が王都の結界に阻まれるからだ。王都に入れなければアイリスの体を取り返すこともできない。王都の結界をなんとかしなければ王都に入れもしない。なんとか出来そうなキリアも行方不明。八方塞がりだ。
「私は人間だから入れますけど、肝心のクロードさんが入れなければどうしようもないじゃないですか」
「だから直接王都に向かわないで、王都から離れた村に向かう。そこには高度な結界魔法はないから俺でも入れる。そこで情報収集だ」
「なるほど。じゃあ情報収集は私に任せてください」
「ああ、任せる」
とりあえず村で情報収集だ。アイリスの体は王都にあるだろうが王都はどの街よりも広い。有耶無耶に探すのは返って危険を招くかもしれない。だからある程度、誰が持っているかぐらいの情報は欲しい。
あとは10年前に別れたあいつらも見つけたい。10年前俺らが負けた相手だ。俺1人で勝てる見込みはない。出来るならアイツらの力を借りたい。
人間の国は広いから10年かけても全員がどこにいるかなんて手掛かりも掴めなかった。だがこいつがいるなら情報取集も捗るだろう。せめて噂ぐらいでも聞ければいいんだが。
「あ、クロードさん!森の出口が見えましたよ」
森から出ると、日光が俺たちを照らす。長く森にいたから、木に遮られていた日光が懐かしく感じるな。太陽の感じからして今は昼時か。
「私、森の外に出るの初めてなんです」
「街の方には行ったことはないと言ってたが、森すら出たことなかったのか」
「はい。少しドキドキしてます」
年頃の女が街に行ったことないどころか、森すら出たことがないとは。両親の言いつけをそこまで守るとは健気というか、馬鹿正直というか。
「ここから1番近い村はどこですかね?」
「俺は人間の国はあまり詳しくないぞ。ここら辺の土地のことはお前に頼ろうと思ってたんだが」
「む、それは問題ですね。まさか2人とも、ここら辺のことを何も知らないなんて」
まさかこいつが森の外を何も知らなかったなんて。俺は人間の国のことは詳しくないからこいつに頼ろうとしたんだが、誤算だったな。
「とりあえず歩いて行けばいつかはたどり着くだろ」
「言っときますけど、私はクロードさんと違って人間ですから、先に限界が来ますよ」
「そうだった。つい魔族の感覚だった。人間は脆いな」
「人間が脆いんじゃなくて、魔族が頑丈すぎるのでは?」
「そこらへんの感覚は俺にはよく分からん」
「そうですか。でも本当にどうするんですか?」
「誰かいればいいが、こんなところに人がいるわけないな」
「うーん……ん?あれは……クロードさん!見てください。あれ、馬車じゃないですか?」
「本当か?」
よく目を凝らすと、確かに馬が少し見える。結構遠く離れてるのによく見えたな。
「よくやった。あの人間に道を聞くぞ」
「あ!クロードさん、急に走らないでくださいよ〜」